表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

第5話 会議室と胃薬と、膝の上の反省会

 ──翌朝。午前九時。社内会議室。


 高梨ひかり(29・胃薬追加処方中)は、白湯ではなくスポーツドリンクを飲んでいた。


 机の上には、


 ・錠剤タイプ

 ・粉薬タイプ

 ・予備


 の三種セット。


(なんで配信一回で増えるの、私の処方)


 モニターには社内資料。


 タイトル:


『#たかなしさん 現象について』


 嫌な予感しかしない。


「数字、爆伸びです」


 企画部が目を輝かせる。


「視聴者の母性+リアル感+朝霞ちよるちゃんの魔性が噛み合ってます!」


「魔性って言わないで」


「“推しマネ”という新ジャンル、いけます!」


「いかなくていい!」


 しかしスライドは止まらない。


「次回もたかなしさん出演前提で進めます」


「前提!?」


「ちよるちゃんも乗り気です」


 胃が、きゅっと鳴る。


(私は裏方)


(はずだった)


 その夜。


「反省会です」


 場所:なぜか千代の自宅。


「どうして自宅なの」


「落ち着いて話せるからです」


 理屈は正しい。


 状況は正しくない。


 ソファに座る高梨。


 隣に千代。


 距離が、近い。


「昨日の告白」


「……はい」


「いきなりすぎる」


「でも本気です」


 真顔。


 嘘がない。


 高梨はため息をつく。


「せめて打ち合わせを」


「サプライズのほうが、本音出ます」


「出す側の心臓の気持ち考えて」


 千代が、くすっと笑う。


「マネージャーさん」


「なに」


「今日はちゃんと反省します」


「ほんと?」


「はい」


 千代は少しだけ真面目な顔になる。


「配信で踏み込みすぎたなら、ごめんなさい」


 高梨は驚く。


(あ、ちゃんと考えてる)


「でも」


 千代は続ける。


「本気じゃないことは、言えないです」


 またそれだ。


 まっすぐすぎる。


「……千代ちゃん」


「はい」


「私はまだ、答え出してない」


「わかってます」


「それでも、ああいう空気は」


「怖いですか?」


 一瞬、言葉に詰まる。


「……怖い」


 仕事が壊れるかもしれない。


 立場が崩れるかもしれない。


 でも、それ以上に。


 自分の気持ちが、制御できなくなるのが怖い。


 千代は、静かに頷く。


「じゃあ」


 少しだけ距離が縮まる。


「今日は、安心させます」


「え?」


 次の瞬間。


 ぽすん。


 高梨の肩に、千代の頭が乗る。


 ただ、それだけ。


 それだけなのに。


 心臓が暴れる。


「な、なにして」


「静かにしてます」


「そういう問題じゃ」


「大丈夫です」


 小さな声。


「今日は、何もしません」


 “今日は”が気になる。


 でも。


 そのまま、数秒。


 部屋は静かだった。


「……マネージャーさん」


「うん」


「がんばりすぎです」


 頭を、そっと撫でられる。


 軽く。


 優しく。


 高梨の目が、少し潤む。


(だめだ)


(癒される)


「ちよるちゃん」


「はい」


「これ以上は」


「はい」


「私の理性がもたない」


 千代は顔を上げて、少しだけ笑う。


「じゃあ、今日はここまで」


 本当に、ここまで。


 距離が戻る。


 空気も落ち着く。


 帰り際。


 玄関で。


「マネージャーさん」


「なに」


「次の配信、出てくれますか?」


 即答はできない。


 でも。


「……台本ありなら」


 千代が、ぱっと明るくなる。


「やった」


 その笑顔に。


 高梨の胃は、もう痛くない。


 代わりに、胸がざわつく。


 会議室では数字が伸び。


 配信では距離が縮まり。


 自宅では理性が試される。


 マネージャー、高梨ひかり。


 仕事と恋の境界線で、今日も揺れている。


(……胃薬、減らせるかもしれない)


 ▶︎つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ