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思い出は遠い場所から

二、


※7月※


 太陽の熱であつくなったアスファルトが、恋しい雨を呼んだ。

 僕は、そんな突然の雨に、近くにあったシャッターの降りた店の軒先に避難した。

 轟音と共に、大きな雨粒が熱されたアスファルトを冷ますように濡らして行くのを見ながら、徐々に僕の靴まで染み込んで来る雨に舌打ちをした。

 通り雨だ。

 すぐに止むだろうと思いながら、徐々に見通しが悪くなっていく目の前を見ていると、あの日の事を思い出す。

 僕の両親が、亡くなった日もこんな大雨だった。

 未だに、こんな雨の日に出かけなければ、両親は事故に遭わずに済んだかも知れない。そう、思わない日が無い位、ずっと悔いが僕の心臓に刺さっている。

 あの時、出かけて行く両親を止めていたなら、いや、そもそも喧嘩などしなければ、両親がこんな雨の中、出て行かずに済んだのだ。

 悔いを一生僕の心臓に刺した雨が、僕は嫌いだ。

 どれだけ、反省したって両親は戻って来ない。どれだけ、謝ったとしても声は雨の音に掻き消されて両親には届かない。

 そんな風に、雨は僕を暗い気持ちにさせて行く。

「早く止んでくれないかなあ。あとどれくらい続くんだろ」

 携帯で調べると、後5分位で通り過ぎて行くようだった。

 

 それに、今は両親の事もだけれど、僕を暗い気持ちにさせる原因が家に居るのかと思うと、雨に濡れた靴のように重く感じた。


 ※6月※


 通り雨が突然降るように、彼は何の前触れもなく突然家に押しかけて来た。

 十年ぶりだというのに、彼は家にズカズカ入って来たと思ったら、縁側にどっかりと腰を下ろして言った。

「俺、離婚したんだ。だから、当分泊めてくれない?他の所は断られて、行く所ないんだよ。それに、実家とは色々あって帰れないし、養育費も払わないとだから、お金無くて、ちょっとだけで良いから、泊めて欲しいんだけど」

 彼とは高校からの親友だったのは確かだけれど、親友と言うのは高校の時の肩書きってだけで、高校を卒業と同時に結婚した彼とはそれから疎遠になった。

「俺達友達だろ?」

 疎遠になっても友達とはっきり言える彼が寧ろ羨ましい気がした。

「でも、登がこの家に居てくれてほんと助かったよ。家を知っている友達は、登だけだったし」

 彼はそう言いながら、家が懐かしそうに見渡していた。

「この縁側で、よくテスト勉強したよなあ」

 彼は思い出したように、隣の部屋に入り、勝手に電気をつけて、僕の両親の仏壇に向かって手を合わせていた。

「来るのが遅くなってごめんなさい。

 おばさんが良く晩御飯を作ってくれて、お世話になったのに、挨拶に来れなくてすみません。やっと、これで挨拶できる」

 彼は、何も言わず立っている僕の方に振り返り、線香をあげいいか訊ねた。

 僕は一瞥して頷いた。

 それから、彼は、随分長い時間目を瞑って、心の中で話しているようだった。

 嵐のように行動する彼を見ていると、十年前から変わっていない姿に懐かしさを覚えた。

 十年という月日さえも彼なら一気に無かった事にしそうで、僕は震えた。

 彼は初めから距離を詰めてくるのが早かった。

 僕はそんな彼が苦手だった。だけれど、一緒に居る事が多くなると、次第にそんな彼の距離に段々と馴染んで行っていた事を思い出した。

 それに、家に来た時も僕の母と仲良くなるのも異様に早かった気がする。僕とは正反対な性格の彼を母も気に入っていたように思う。


 なのに何故、彼とは疎遠なってしまったのか、今ではその方を思い出せなかった。

 少し伸びた髪が、彼の横顔にサラリと落ちて行く。僕は、何か大切な記憶を何処かに置き忘れているようで、モヤモヤした。

 

「まあゆっくり話といてよ。僕はコーヒー淹れてくるから」

 彼を見ていると、晴れてはいけないモヤもある気がして、早急に部屋から出て行った。

 忘れてしまった方が良い記憶は、置き忘れたままではいてくれないのにと、ぼんやりと、縁側に立つ。

 外は6月だというのに、真っ青と真っ白い雲が夏空を描いていた。

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