25話『皆さんあちらに歩いて行かれますよ』
初めて見る近代兵器。
自分ではどうしようもないほどの火力を前に、イーシュの中には日本人が神社に感じるのと同じ畏怖があった。
「はぁ……ははっ!」
もう魔法どころか指一本すら動かない中で桐原は笑った。
あまり仕組みを知らない地雷。ユウの魔法は既知のものに変形、変化させるに過ぎない。そこで使ったのは土谷の魔法だった。【領域】自分の近くで自分の望みが何でもかなう魔法。彼が銃を作ったように地雷を作ったのだ。だが不発を恐れ、中に火薬を詰めただけの張りぼてを作って自分で着火させることを選んでしまった。0の投資で100を得たいギャンブラーにあるまじき堅実な策だ。それだというのに、その賭けが間違いではなかったことに桐原は自分自身を嗤った。宵越しの銭は持たない、刹那的に生きることを至上とした自分の人生の終わりがこんなに真面目なものになるなんてと嗤った。
熱を帯びた閃光が表皮を焼き焦がし灰となる、後に続く爆風がそれを吹き飛ばす。薄れゆく意識の中で桐原は決意した。神に会ったら「|僕の人生はいくらでしたか?《換金所はどこですか?》」と聞いてやるのだと。きっと神は少し困った顔をして「わかりませんが皆さんあちらに――」なんて洒落た返しをしてくれるだろう。
――
――――
俺がその場についたときには一面の焼け野原の中心にはイーシュだけが立っていた。
「お前だけでも無事でよかった」なんて形式的なセリフを吐いたところでダムが決壊したかの如く、イーシュの目からは涙が、口からはこれまでの経緯が語られた。全てを聞いた俺はメリケンサックを嵌めたままの拳をこめかみにあてがった 。
この時点ですべて終わったのだ。いや、もう少し前に終わっていたのかもしれない。あの夜に土谷を殺した時点で俺は満たされていたのだろう。あの瞬間からジェイドが殺されても、王を殺しても、桐原が死んでも言葉に表すことができる程度の感情しかわかないのだ。
この国の戦力をすべて削りきった俺らはきっとこれからこの国を統治するのだろう。そんな俺は朝比奈と結婚してその子供は、双子ちゃんとイーシュ達に見守られながらすくすくと成長するのだ。そしてその片手間に獣族の国を支配をはじめとした世界征服で暇をつぶすのもいいかもしれない。その過程で起こるハプニングはきっと俺や朝比奈を楽しませるだろう。そうして老いていって最期は孫に見守られながら「幸せだったな」と目を閉じるのだ。その一方で俺はひどく退屈だったと感じるのだろう。その退屈は今から始まりその時まで続くのだ。そんなの――耐えられない。
引き絞られ、そのまま光の速さに近づいた拳は正確に俺のこめかみを打ち抜いた。
天を、地を、全てを統べても結局俺は勝者にはなれなかった。それどころかこんなカビ臭い森で自分で人生を終わらせるなんて惨めだ。まるでこれでは――じゃないか。あー、何だっけ?……あぁ、そうだ。桐原さんに教えてもらったじゃないか。
――――敗者だ。
轟音の後、頭部を欠いた男の体は力なく地面にポトリと落ちた。
心中の魔法は生涯に一度だけ相手を選べるというものです。ゆえに体力的に最後になる魔法で桐原は自分とイーシュをつなぐことはできず、かと言って若者を見殺しに自分だけ助かるわけにもいかなかったので事前にストックしていた安堂の魔法を応用してイーシュを守りました。つまり桐原の死因は限界以上に体力を使用したことによる衰弱死です。
あと最終話です。