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天上転下…俺が敗者?!  作者: テールランプ
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19話『再復讐』

『なりたいものに成れる魔法。』

間違いない。城の時は速く動きたいと願い、洞窟の時は消えたいと願った。そのどちらも実現している。再び城の時のような万能感に包まれる。今すぐにでも試したい。今の俺に何ができるのか……!


――


――――


結論から言えばガッカリだった。いや、光るだけよりは断然マシだったのだが期待しすぎてしまった。

まず、自分以外に影響を与えることはできなかった。「目の前に深い谷ができたらな。」と祈っても何も起こらなかった。次に「これが爆発したらな」と電源の切れたコピー朝比奈に願ってもウンともスンとも言わなかった。

結局できるのは『青天井の肉体強化』と『変身』だけだった。前者は城であった通り、後者は洞窟であったことと同じだ。実験の一環でライオンになりたいと願った俺の体は徐々に毛深くなり骨格が曲がりものの数十秒で立派なライオンとなった。


どちらも『発光』と比べれば別次元の実用性だ。だがもっと神のような振る舞いをしたかった俺にとっては少しだけ残念な結果となった。そしてこれに拍車をかけるのが死ぬほど疲れるということだ。一回使うたびにサッカーを1試合終えた時のような疲労感に襲われる。

いざという時の切り札だな……


カサッ

落ち葉を踏み抜くような音で思考を止められる。なんだ、追っ手か……?恐る恐るログハウスの裏を覗くと桐原がタバコを吸っているだけだった。


「あ、見つかっちゃった?ごめんよ、盗み聞きするつもりはなかったんだけど離れるタイミングなくて……ほら、それに僕ァ警察だから張り込みの癖がさ、そう!職業病なんだよ!」

情けなくも中年のおじさんが言い訳を重ねて開き直る。別に聞かれてもよかったのだがおじさんが狼狽えるの見るのは少ししんどい。


「まぁ、なんだ。これで作戦の第2フェーズがやりやすくなったね!」

桐原はタバコを地面に擦り付けVサインを向けてくる。


「第2フェーズ?」


「そ!かっこいいでしょ?フェーズって!」

呆れの表情を浮かべていると桐原は勝手に話を進める。


「今回で僕らが達成したのはテオリアスと神官長を倒したこと。この2人の魔法は理不尽だからね。一手で全てがパーになる。でも、この2人を倒した今、約1000人の雑兵を倒すことなんて容易さ。つまり、今回の作戦でやるべきことは――」


「騎士を減らす……ですか?」


「はぁ、安堂君。ここまで僕が盛り上げたってのに……とんだ大泥棒だよ。まぁ、いいや。そうだよ。戦力がなければ王は国を明け渡すしかなくなる。これは第2フェーズにして最も重要な作戦だね。きっと勇者も出張ってくる。倒す方法は考えた方がいい。『心中』の無敵と土谷の好きにできる空間。正直言ってデキレだけど?」


「はぁ……もう、考えてます。」

あの女を捕まえた時点で俺の勝ちが約束されたも同然だった。そして運良く手に入ったこの魔法。最大限活用して土谷を始末してみせよう。心で息巻く。


「そ、ならいい。あと、出発はなるべく早い方がいい。明後日とかにしよう。……ははっ、双子ちゃんも今回は連れてくからそんな顔しないでよ」

振り返ると2人が入り口のドアから不安そうに顔を覗かせていた。


――


――――

2日経って、今回は双子ちゃんもいるということで特に準備もせず出発した。双子ちゃんは俺と桐原で運んだ。流石に創造主は襲わないらしく、魔物の襲撃もなくスムーズに進んでいった。前よりも一日早く王城の近くまでくると今回はギルドの方へと向う。


前回同様に朝比奈と桐原はフードを深く被り、俺は前日から上田の姿に変身して双子ちゃん作の大剣を持ち、フードをかぶっていた。特徴的な朝比奈の長い刀も今回は持たずに来たので特に気づかれることもなく城下町を闊歩していた。

にしてもこの大剣、黒い刀身に赤の差し色、サイバーチックでカッコ良すぎる。要望を紙に書いた時に朝比奈が「目立っちゃうしナイフとかの方が使いやすいんじゃない?」なんて言ってたが押し切ってよかった。


桐原の小声の合図でいつか来たイタリアンもどきの店へと入る。俺、朝比奈、桐原は葡萄酒とじゃがいもに生臭いチーズがかかったものをモソモソと口に運び、双子ちゃんはステーキに洒落た草が乗ったものを食べる。


半分ほど食べ終わったところで俺だけがフードを取る。見た目は上田にしたがフードの下にはハイエナのように丸く、大きな耳を仕込んでおいた。大きな耳が露わになった瞬間、店内はザワついた。


すぐにチンピラのような風体の男が近寄ってきた。

「おいおい、ここは人間様の飯屋だぜ?犬小屋ならあっちだ……それとも」

チンピラは俺の腰に手を回す。


「だぁっ!お前…っ!スラムのっ!」

一瞬にしてチンピラの腕が宙を舞う。

振り返ると既に朝比奈は双子ちゃんお手製の硬いナイフをしまい自分の席に戻ろうとしていた。


「そのナイフ使いやすい?」


「うん!バッチリ!」

朝比奈がフードを取って微笑むと店内の人間は鬼を見たような大騒ぎで出て行った。


それから数分後、物々しい甲冑に身を包んだ者たちが店内に押しかけてきた。人数は100人もいないだろう。

俺を視認した途端、騎士たちの方から炎だの剣だの氷だのが飛んでくるが着弾するも霧散する。無敵を願って良かった。代わりにカットが破られたように朝比奈が消え、ボトボトと騎士の兜が地面に落ちる。当然、兜の中には頭が詰まっており、それを見ると食欲が失せたのでフォークを置く。


その攻防が3回ほど続いた。

「戦力の逐次投入は愚策だって学校で習わないのかね?おっ、これうまぁ!」

桐原は呑気にも他の客が残した料理を食べている。肝が据わっているというか精神がイカれているというか…警察ってそうなんだろうか。


次の到着が妙に遅いので店の外を見てみると、城の方から真ん中に一頭の馬に乗った甲冑とそれを囲むように旗を掲げた甲冑、正面に盾を構える甲冑がゆっくりと歩いてきていた。数は500くらいだろうか。ぼんやりと光る松明のせいで綺麗に見える。


「朝比奈ぁ!来た!頼む!」

カットが割られたように朝比奈は消え騎士集団を薙ぐ。馬は状況に怯え上に乗せた甲冑を振り払り落として逃げていった。騎士の数が半分になったところで剣戟の音と共に騎士の減少が止まる。あぁ、生きてたのか。

朝比奈の刀は宙に漂う剣に止められていた。俺が本気で殴った◯クティスのような騎士がニヤリと口角を上げる。


「お久しぶりです!お嬢さん。そして、さようなら。神官長によろしくお願いしますね。おや……?」

◯クティスの挨拶には目もくれず俺の真横に朝比奈は移動していた。そしてドスの聞いた声で囁く。

「ごめん、アンドウ君。あいつは私がやりたい。」


「わかった。俺は馬から落ちた奴をやる。」

そう告げると朝比奈は消え、甲高い剣戟の音と共に◯クティスと消えて行った。


「……はぁ、食った。行くんだろ?安堂君。他はおじさんにまかせろよ。」

絶えず炎や衝撃波が飛んでくる中、桐原はカットを割ったように消え、突っ込んでいった。瞬く間に周りの騎士は膝をつき、頭だけポトリと項垂れて動かなくなった。

落馬した甲冑は血の水溜まりを踏みつけ俺に向かってくる。


「なぁ、安堂。夏葉を返してくれないか?」


土谷の悲痛な願いにクヒヒと気持ち悪い笑いをあげながら口を開く。

「なぁんだ、バレてたんだ。」

俺は変身を解き元の姿へ戻るが張り付いた笑みだけはそのままだった。


「なぁ、もう終わりにしてくれないか?夏葉を返してくれ。俺が悪かった。望むなら土下座だってするから」

土谷は俺の目の前で膝をついてみせる。


「……返せ?もう、殺したよ。」


「ハッタリだ!現に夏葉の魔法は残ってる。俺は今も無傷だ。ほら。」

土谷は落ちてきた瓦礫の真下に駆け出し、ぶつかって見せるが無傷だった。おそらく上田夏葉の『心中』の存在を証明したのだろう。だが、そんなこと俺が1番知っている。生物学的には生きているのだろう。だが、あの状態の上田を「生きている」と表現するのは日本の道徳教育を受けてきた俺にとっては難しいだけだ。


「なぁ、安堂。お前の魔法は知ってる。神官長から聞いた。神官長に隠された魔法に気づいてもお前と俺じゃ決着はつかない。だから頼むよ。俺の土下座で勘弁してくれよ。」

確かに決着はつかないだろう。『心中による無敵状態』VS『なりたいものに成れる』じゃどちらにも傷一つつかないかもしれない。ならば――


「俺は、ずっと思ってたんだ。」


「何を?」

土谷は突然の俺の独白に若干の苛立ちを見せる。


「生きてるお前を殴り殺したいって」

俺は駆け出してありったけの力で殴りつける。肉体強化をはじめとした身体への能力付与、変身魔法の一切を捨てた”生身(プライド)”の一撃は土谷に届く前に塵となって消えた。急いで店の前まで飛び退き、俺は消えてしまった右腕の先端を押さえるが血が止まらない。


仕方がないのでサッカー1試合分の体力と引き換えに右腕を復活させる。息も絶え絶えになりながら土谷を煽る。

「なぁ、恥ずかしくねぇのか?男同士の!女を賭けた戦いに!お前は武器を持ち込んだんだぜ?」


「うるせぇな!でも、これでわかったぜ?お前の魔法より俺の魔法が優先されることがな!俺は3メートル以内ならなんでもできる。なんでもだ!銃も作れるし、触れたもの全てを消滅させることもできる。無敵なんだよ!ばぁーか!」

どうやら土谷は俺が魔法を使っていたと思っているようで的外れに叫ぶ。優先。実際は勇者である土谷の魔法が俺の魔法より優先されるのかもしれないが今回、俺は魔法を使っていない。だがこうなればもう、どうだっていい。この秘策の前に奴は成す術もなく死ぬのだから。


「ならよぉ?俺がこの剣を使ったっていいんだよなぁ?」

俺は店内にいる双子ちゃんからサイバーチックな大剣を受け取り、構えると双子ちゃんの居場所を指定する。

「そこから動かないでね。」


「おいおい、なんだよそれ!オモチャみたいだな!」

油断している土谷に切り掛かると、空を切った大剣は俺の腕のように切先が消滅した。そして、土谷の右肩が深く抉られる。


「――っ!おい!なんだその剣!」


「あぁ、ここが肩なんだ。クヒ…ウヒヒッ!」

俺は多幸感に身を震わせてしまう。

心中による効果>領域による効果>安堂>この世界の住人の魔法

土谷の領域内に「魔法無効」が設定されていた場合で安藤が無敵を祈っても無効化され、生身の一般人と化します。

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