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天上転下…俺が敗者?!  作者: テールランプ
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1話『センス』

「あっ、あのライトまだ捨てて――――み゛ぃッ

 

弱冠20歳にしてこの世を去る男、安堂 ケンは断末魔にしてはマヌケな発声とともに生涯を終えた。


終えた――はずだった。

トラックのバンパーに眠るように体を預けた次の瞬間、フッとトラックは消えて俺は地面に打ち付けられる。

湿った岩の冷たい感触が頬に伝わり、カビ臭い空気が鼻を刺す。


ピチャ………クチャ………


「痛ってぇ………は?」

水面を叩くような音が聞こえ、のっそりと体を起こすと俺はなぜか洞窟にいた。かなり暗く、奥は見えない。

呼吸をするたびに洞窟全体が俺の存在を嘲笑うように反響する。

浅い呼吸を繰り返し全身からじわっと嫌な汗が吹き出す。


「俺は、ここは…?…轢かれて、なんで洞窟、トラックに…俺は」

何が起きたのかわからない。激しい息切れとともに俺は気絶した。

 

流石に体がついていかなかったのだろう。起きてからはひどく冷静だ。混乱から少しずつ焦りへと変わる。

 

ピチャ、クチャ…

気絶前にも聞こえた音が洞窟の奥から聞こえる。不愉快な音だが現在地を知る手掛かりになるかもしれない。

光る苔以外の灯りがない暗い洞窟を、未だ現実感の伴わないふわふわとした足取りで数十歩ほど歩く。


――


――――

 

音の先には子供くらいの人影が3つほどあった。こんなところで一体何を…

「あっ………おい…!」

声が裏返る。

 

人だ。人を食べている。囲まれた遺体に顔の原型はないが、そこに付随する細い腕が、骨ばった指先が少女の死骸であることを雄弁に訴えている。

少女の死骸を認識した瞬間、洞窟内の冷気が心臓を掠め狂ったように拍動する。

 

声をかけられた3匹の緑の生き物はこちらをキョトンとした顔で同時にこちらを見る。目は羊のような横長の瞳孔。いつか見たゲームのゴブリンに酷似している。

こちらの怯えようを見るやその顔は次第にニタリとしたものになり、1匹こちらに向かってくる。

 

体が芯から冷える。怖い。動…けない。

「や…やめっ!」

 

――――ザクッ

願い虚しく、ゴブリンの鋭い指先が俺の脇腹を刺す。


「……ッ!!」

赤黒い液体がどろりと溢れる。

それを見た途端、プツリと音がした。そして内臓が煮えたぎるような怒りが湧き上がる。


義憤?少女の死体が陵辱されるのを許せなかった?


恐怖?このわけのわからない状況で気が触れた?

 

多分全部違う。全部、全部、全部、全部違う。


じゃあ、何だ?


『――?』

脳内に不明瞭に響く。何度聞き返してもうまく聞き取れないその単語に何故か納得してしまう。

だが、受け止めるのはとてもではないが無理だった。

そして子供のように、頭を掻きむしり地団駄を踏み癇癪を起こす。


「……あーあ!クソっ!クソっっ!!あー!!何だよコレ!疲れた…もう疲れた!!」


突然叫び出した不審者にギョッとしたゴブリンの顔面に右の大振りをぶち込む。

破裂音にも似た快音とともに俺の腹を刺したゴブリンは暗闇の奥へと吸い込まれていった。仲間が吹っ飛ばされ事に驚きつつも、残り2匹がジリジリと歩み寄ってくる。


殴り合いの喧嘩などしたことがない。だが、不思議と体は羽のように軽く、拳は鉄のように重かった。

誰に習ったわけでもないステップを踏み距離を詰め、コンパクトな打撃。小石を蹴り飛ばして牽制、からの後ろ回し蹴り。


自分でも不思議なくらいに体が思い通りに動く。

確かに昔から何でもできた。できたが全ての実力は人並み程度だった。親、監督、教師、指導者全般に「お前は器用貧乏だ」と何度も言われた。

だから驚いている。今までの自分を嘲笑う圧倒的な――暴力の才能(センス)に。


――


――――


ドスッ…ドスッ…ドスッ…

規則的に鈍い音が辺りに響く。

俺は必死になって動かなくなるまで殴り続けた。


呼吸が上がり始めたところで自分の右手が白く発光していることに気づき腕を止める。見ると掌だけ蛍光灯ほどの眩しさで光っていた。

「なんだよ…これ……痛っ!」

力みすぎたようで肩からズキっと嫌な痛みを感じる。


痛みで少し気持ちが落ち着きあたりを見渡すと顔のない少女からは鉄と汚物の混ざったような匂いが立ち込めており、照らされた足元には頭の形が変形したゴブリン2匹が転がっている。


「うわぁ、ひでぇ……おわっ!」

その場から離れようとするが膝から崩れる。

膝がガクガクで腕も上がらない。掌の光はいつの間にか消えていた。心身ともに疲弊し立ち上がる気力すらない。視界すら霞んできた。


「――――xxxxxx?」

「llllllll――――」

1ミリも聞き取れないが遠くから会話が聞こえる。

そこからの記憶は一切ない。俺はまた気絶した。

 

――


――――


バシャァ!

 

ずぶ濡れになり目を覚ます。

辺りを見渡すとどうやら俺は牢屋にいるらしい。石材で囲まれた牢は驚くほど無機質で冷たかった。そして髪から滴る水がここは日本ではないと告げてくる。

 

俺の独房の前には空のバケツを持った甲冑の男と書類を持った、俺と同い年くらいのシスターのような格好の女がこちらを見ている。気絶した後捕まったのだろうか。

 

今はとにかく水に濡れ張り付いたTシャツ、この2人が俺に向ける視線、冷たい床、全てが不愉快だ。

わけのわからない状況でこの仕打ちだ、今すぐにでも格子越しに胸ぐらを掴んでやりたい。

 

…だがここで激昂するほど愚かしいものもない。俺はわかっている。冤罪に巻き込まれた時はまず丁寧かつ低姿勢に振る舞うことが肝要だ。水をかけられたとしてもだ。それでいて力強く無罪を主張するのだ。そう、全ては最初の一言目で決まる。

 

「てめぇ!ぶち殺すぞ!!」

ダメだった。ただでさえわけのわからない状況で心身ともに限界なのに寝起きに水をかけられて柔和な態度は取れなかった。

 

「€£€€£€€…?」

甲冑が首を傾げる

危なかった。言葉が通じていたら打ち首だっただろう。


「££€£」「€£$•££$•€$€」

シスターが俺に手のひらを向け唱えるとオレンジ色の光が発せられる。

 

「お、おい!何だそれ…?!」

打ち首か?やっぱり聞き取れてたのか??――

 

…………?なんともない …?

 

ガシャン!


「おい!122番!言葉がわかるか?」

甲冑の男が格子を乱暴に叩き、苛立った声で聞いてくる。

 

「乱暴はいけませんよイーシュ。あなた、公用語が使えないようだけどどこから来たの?」

知的な顔立ちのシスターが問いかけてくる。

 

「ここはどこですか?!というかなんで言葉が?!」

 

「洗脳魔法の応用ですが…一応聞きますけど貴方、魔法は?」

 

「は?……魔法?」

聞き慣れない単語がたくさん高速で通り過ぎた。ふざけてんのか?こいつら。こっちが下手に出てればいい気になりやがって。やっぱぶん殴…


――ビッ!

熱線が頬を掠め、振り返ると着弾地点が溶けている。

なんだよこれ、こんな武器少なくとも日本にはなかったぞ…?

 

「神官長!公用語知らないとかやっぱコイツ獣族か魔物ですよ!早く始末しましょう!仕事だってまだたくさん残ってるんですよ?」

 

「でもイーシュ、勇者と似た言語を話す魔物ですよ?とても面白いわ!」

 

「神官長、勇者はこないだ召喚されたばっかでしょう?それに早く仕事しないとまた怒られちゃいますよ?」


「うーん……うん、じゃあもういいわ。片付けて…」


「なんでだよ!もっと頑張ってくれよ神官長!」

俺の願いも虚しくイーシュと呼ばれている甲冑が俺に人差し指を向け何かを唱える。あの熱線だろう。

 

「ま、待ってくれ!!君だって人殺しは嫌だろう??頼む!話をしよう!ちょっと手が光ることがあるだけで普通の人間なんだ!」

格子を掴み人生初の命乞いを行う。焦りのあまり右の掌が光る。こんな時に…!


「「なっ…人継魔法…?!」」

甲冑とシスターが同時に飛び退く。驚いた拍子に俺の掌の光が消える。


「ジンケイマホウ?」

また聞き慣れない単語だ。何はともあれ人生初の命乞いは成功したらしい。

 

「すまん、俺の早とちりだった。許してほしい。」

バツが悪そうな顔をしながら甲冑が頭を下げる。

 

「頭を上げてください!許しますから…!」

嘘である。出たらひっぱたいてやる。シスターもだ。

それよりも気になるのはこの場所についてだ。

 

「ところで、ここってどこなんですか?」

 

呆けていたシスターがハッとし深々と頭を下げる

「私からも謝罪いたします。申し訳ありません。ここはですね――――」

 

わけのわからない単語が飛び交う長い、長い説明をされた。わかったことだけ要約するとここは全「人類」が住むバルフラ王国で20年前から出自不明の魔物と戦争中らしい。

 

ここまでで、ここは地球ではなく異世界であることがわかった。荒唐無稽ではあるが信じるしかない。ゴブリンがいて、熱線が飛び、俺の右手が光るのだ。

魔物がいて、魔法がある。そんなファンタジーな世界だった。

 

人継魔法とは人類のみが1人1つ使える魔法で基本手から発動するらしい。俺の右手の発光はその魔法ということで人類判定を得ることができたそうだ。

 

ちなみに異世界から来たというのは信じてもらえず、これまでの半生を軽く語ってみたが、狂人と判断されてしまったようだ。こんなの人狼ゲーム以来だ。


正直言って情報量が多くて処理しきれていない。この世界からの帰り方、魔物、魔法、色々ある。だが今はどうでもいい。なぜなら『鑑定』してもらえるからだ。お詫びとして、(おそらく取り調べとして)手を触れただけで人のステータスがわかるファンタジーな道具があるらしい。

 

こんな状況だがワクワクしてしまう。だって男の子だもの。20歳になっても「伝説の勇者」、「最強の能力」なんて単語に心が踊らないわけがない。そんなことを考えていると部屋に通される。

 

通された部屋にはファンタジー感は無く、狭く無機質だった。やはり「取り調べ室」の方がしっくりくる。

部屋の中央の机の上に一つの水晶玉がある。


「では、この水晶に手を触れてください。」

シスターに促されるがまま手を乗せる。


水晶玉がキィーンと甲高い音を響かせ光る。それを見ながらシスターが紙にペンを走らせる。

人力なんだ…

 

「ふぅ…書けました。どうぞ!」

数分後、シスターが一枚の紙を手渡してくる。これがステータス表か?

初めて通知表をもらった日のことを思い出しながらおずおずと差し出された紙を受け取る。


『物理:A

魔法:F

敏捷:C

体力:―

 

人継魔法:発光』


手渡された紙にはこうあった。

ツッコミどころは多い。あんだけ時間かけて4項目しかないのかとか、大学なら魔法は落単じゃないかとか。色々あるが1番自信のある体力に評価がないのが気に食わない。どういうことだシスター。

「あの、体力の横線は…?」


「すごい…!カンストです!かなり珍しいことですよ!!」

シスターは興奮気味に騒ぐ。


素直に嬉しい。今まで培ってきたものが評価されて嬉しい。反面、魔法の結果にはがっかりだ。多分良くないのだろう。

「このAとかFってのは…?」

 

「説明しますね!Cを基本として最大はSです!その中でも上澄みの人はこうやってカンストと表記されます!ちなみに1番下がFです!あなたの魔法には攻撃力がほとんどないからFなんでしょうね!でも他のステータスは人並み以上なので冒険者になるのもいいかもしれません!」


褒められてるのか微妙なラインだがわかりやすい説明だ。未だ現実感が無いこの状況で先のことなんて考えたくないが冒険者…よくわからないがいい響きだ。

そこで俺はステータス1番の違和感に気づく。

 

いや、待て。発光…?

発光…?ビームでもなく、聖なる光ですらなく

「ただ光るだけ?」

つい声に出していた。


「ま、まぁ!戦闘に使える魔法を持ってる人は意外と少ないですから!それに無詠唱ですよね?本当に珍しいんですよ!だから…あまり気を落とさないで…」

シスターが慰めようとする。


「無詠唱」、「珍しい」、素敵な単語が聞こえてきた。だがそんなことでは立ち直れない。

おしまいだ。俺の魔法は発光。ピカピカ光るだけの電球人間。ビームは撃てないし、光の速さで蹴ることもできない。◯ンピースならイースト◯ルーからすら出られない雑魚。

 

「ドンマイ」

見かねた甲冑が俺の方をポンと叩き、続ける。

「これからどうすんだ?」


考えたくなかったがそうだ。今日から俺の居場所はどこにもない。焦燥感が背筋を這う。

 

「行く場所ねぇなら騎士団に来いよ。今日くらいなら泊めてやるからさ」

 

「あっ…あぁ…よろしく…お願いします」

俺は茫然自失としたまま騎士団とやらの世話になることになった。


そのあとは甲冑ことイーシュに宿舎に案内してもらった。宿舎は城から20分ほどの場所にあり、木造なので独房や取り調べ室よりも温かみがあった。案内された部屋には2段ベッドと机がある。窓は控えめなのが一つだけ。いつかの林間学校で泊まった施設を思い出す。

 

「明日は6時に起床な!…まぁ、起こしてやるよ」

甲冑を脱いだ男、イーシュは茶色の短髪にあどけない笑顔を浮かべる。俺と同い年くらいだろうか。

「じゃあな!おやすみ」イーシュはランタンの光を消す。


ランタンがあるならいよいよ俺の魔法も使い所がないのだろう。魔法も無いに等しく、学歴も家も何もかも失ってしまった。これからどうしよう。卑屈な考えと焦燥を空腹に捩じ込み気絶するように眠りにつく。

拙い文章ですが必ず終わりまで書きます!

鉄の意思です。小学校6年生の持久走以来のやる気です。

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