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天上転下…俺が敗者?!  作者: テールランプ
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13話『確信』

この戦いに双子ちゃんは巻き込めないとしたものの物資面では頼るほかない。

まずは食料など日持ちする缶詰を頼んだところ「桃の缶詰」、「パイナップルの缶詰」など普通の缶詰から始まり、「おでんの缶詰」「たこ焼きの缶詰」まで出てきた。

7歳の少女らしからぬ奇抜なラインナップに唖然としていると最後に出てきた缶詰は見当もつかないものだった。プルタブがついており縦に長い円柱の缶詰……

「ユウ、この缶詰って何?」


「あー!パンヅメ!」

同じくユウが作り出した刀を手入れしていた朝比奈が割って入ってくる。


「パンヅメ?」


「えー?知らない?パンの缶詰!美味しいんだよ!ねー!ユウちゃん!」

朝比奈もユウも得意げにしている。そんなに有名なのだろうか。別にどうでもよくはあるんだが…


この調子で次の日も準備を進めていった。

食料の他に俺は前腕だけの鎧、朝比奈は身長ほどの刀、桐原は……


「桐原さん、それって……」


「そぉだよ?マッチだよ。ライターは流石に難しいんだってさ!」

桐原は嬉しそうにタバコに火をつけてみせた。

彼のポケットを見ると銀色の筒が2本入っていた。恐らく酒も頼んだのだろう。とんでもない男だ。


「そんな顔しないでおくれよ僕ァ、仕事はキッチリするタイプなんだから」

そう言うとタバコを燻らせながら、拘束された小さい6本足ゴリラことニーダーモンキーの背中を叩いてみせる。


俺にとってかなりのトラウマだが『陽動に使うにはうってつけ』ということで、ユウとマオによって作られた。

力は人間ほどしかないと言うが確かに、洞窟に現れただけでギルド総員で討伐隊が組まれたほどだ。多少小さく、弱くても騒ぎになるだろう。


「さて、準備は整ったねぇ。行こうか。」

全員の身支度が終わると桐原は再びタバコに火をつけた。


「「帰って……きてね?」」

双子ちゃんが涙を堪えていると朝比奈が駆け寄り抱きしめる。


「感動的だねぇ」

桐原は血の通ってない言葉を煙と一緒に吐き出した。


――


――――

明日には王国に着くというところまで来ると桐原が口を開く。

「最終確認だ、僕が街の隅っこで騒ぎを起こしてその間に君たちが勇者とやり合う。僕ァすぐに城へ行って王を始末する……だったよね!10分は稼いでおくれよ?あと、危険人物は昨日話した2人くらいだ。まぁ、5年前と変わってなければ今日はいないはずなんだけどそこは賭けだね!」


作戦と呼ぶには中身のなさすぎる話を桐原からされ、俺の心臓が狂ったように拍動する。

俺は明日、勇者をまた殺す。


「それじゃあ明日の6時開始で!じゃあ、健闘を祈るよ2人とも。」

桐原と拘束されたニーダーモンキーは王城とは反対の方向へと歩いていく。

戦いに使えるような魔法を持った人間は皆、騎士になるので王城から引き離せば勇者たちがいるところまで楽だろうと言い出したのは桐原だった。

陽動なんて楽な仕事はユウとマオが作ったモンスターにやらせればいいと言っても不思議なほど決して譲らなかった。

正直あの男を信用していいのかは迷っている。だが、家を突き止められた以上こちらがうまく利用するほかない。


桐原の背中が見えなくなると、最近口数の減った朝比奈が口を開く。

「アンドウ君、私ね……いや、終わったら話すね!」


終わったら。それは王国の終焉を意味するのだが…随分と余裕あるなコイツ。それにしても――

「それ、死亡フラグみたいだな」


「あははっ!ホントだ!でも、誰も死なないよ。私が死なせない。」


あまりにも男前なセリフにときめいてしまいそうになるが俺は成人男性なのでそうはならなかった。


俺達は明日、1000人の騎士を、人口約100万人の小国を全て敵に回す。朝比奈と違って俺はそんな覚悟なんてのは一切できていない。ただ俺は刺し違えてでもあの勇者2人を殺したいだけだ。


「アンドウ君、勝とうね。」


「あぁ、そうだな。」

相変わらず朝比奈がなぜそこまで王国を憎むのか理解に苦しむ。かわいそうとはいえ関係のない双子ではないか。と思ってしまう俺は朝比奈のような”善い人”とは分かり合えないのだろうと少し自己嫌悪に陥った。


朝比奈がおもむろに取り出した缶詰を開けるとプシュっと空気が漏れ出て中のパンが膨らんだ。そしてすぐにちぎって口に詰めた。

「ん〜!やっぱパンヅメは美味しいね〜!」


そんなに美味しいのかと思い俺も一口食べるが小麦の風味すらせずパサついており、お世辞にも美味しいとは言えなかった。もしかしたら”善い人”とは味覚も違うのかもしれない。


この日は城まで1時間ほどの場所で隠れるように眠った。


――


――――

朝5時。

「おはよー!アンドウ君!」

朝比奈がいつも通りの挨拶をする。よもやこれから虐殺に向かう人間のようには見えなくて少し笑ってしまう。


手早く朝食を済ませ城へと歩き始める。朝比奈は機嫌が良さそうに見えるが話しかけ難いほどの緊張感を放っていた。目深に被ったフードの瞳の奥には憎悪の炎が見える。

きっと俺には一生できない目にひどく惹かれてしまい、息をすることすら忘れて見惚れていると朝比奈がピタリと止まる。

「アンドウ君、着いたね。」


視線の先には入り口に2人の騎士が立っているだけの王城があった。辺りを見渡すが騎士はおろか街の人間すらほとんどいなかった。桐原はうまくやったのだろう。


「あぁ、行こうか。」

成人男性なのにエスコートされるのは少し恥ずかしいが俺は差し出された朝比奈の手を取る。

朝比奈は俺に目配せをして頷くと瞬きにも満たない速さで、気づけば入り口を守る騎士の真横にいた。


息切れをしている朝比奈をしゃがませ、騎士が反応する前に俺の右ストレートで左の騎士を殴り飛ばし、そのまま伸ばしていた左手で右の騎士の甲冑の内部を最大限、光らせる。

閃光が鎧の隙間から迸しると、騎士は呼吸が狂ったようで痙攣しているので顎を殴り気絶させておく。


別に殺しても良かったのだが万が一、イーシュだった場合、寝覚が悪いので門番くらいは生かしておくことにした。多分死んでいない。……死んでないよな?


呼吸を整えた朝比奈が立ち上がり、2人で王城の扉に手をかける。

左の騎士は死んでいます。かわいそうに。

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