10話『デトロ!開けロイト市警だ!』
俺はいつぶりかの風呂に浸かりながらどうも調子がおかしい自分の気持ちを整理していた。
あの忌々しい2人を見た時は3年前の感情が呼び起こされたようだったのに今はかなり落ち着いている。再び彼らを殺すのが面倒くさいとすら感じている。一方で腑が焼き切れそうな苦しさがある。この気持ちは何だろう。
いくら頭を回しても俺にはこの気持ちの名前に心当たりがないが、とにかく受け入れ難い。
「あー、吐きそうだ。」
「「大丈夫ー?」」
声の方に目をやると双子ちゃんがいた。
「大丈夫だよー。どうしたの?」
「うん!お姉ちゃんがご飯の前にお風呂入りなさいって!」
俺は思わず吹き出してしまう。
朝比奈はお姉ちゃんを通り越してお母さんになってしまったようだ。ならば俺は父親だろうか?……あぁ、平和だ。本当に平和だ。……もう復讐なんていいんじゃないか?昔から言われてるだろ。『復讐は何も生まない』って。そうだ!これからは楽しく生きよう!ここでログハウスを拡張しながら自給自足して暮らすのもいい。どこか遠いところで細々と小料理屋を開くのも楽しいだろう。だから、もう。……あー、もう。
「お兄さん、大丈夫?」
マオの方が問いかけてくる。
先ほど話している感じだとユウの陰に隠れているっぽかったのに珍しい。それにしても何を心配して――あっ。
「あ、あぁ。大丈夫だよ。」
俺は血が流れるほどキツく握り込んでいた拳を緩めた。
やはり俺はこの復讐を終われないらしい。胃を、腸を焼き焦がすような苦しみからは逃げきれないようだ。
「ごめん、やっぱ今日はもう寝るね。お兄さん、疲れちゃったみたいだ。」
足早に浴槽から出ると朝比奈に一言告げ、ログハウスの片隅で眠った。
――
――――
「うーん!美味しい!」
朝比奈がトーストを口いっぱいに頬張り騒ぐ。
一晩経て落ち着きを取り戻した俺もこのトーストに驚き、2枚目を食べ始める。
このトーストはユウの魔法で木片から作り出されたものだ。
「物の形を変化させる魔法」
生命以外の知ってる物だったらほとんど作れてしまうと言う破格の性能をしている。この世界には光るだけといったクソみたいな魔法もあるというのに……
2枚目のトーストを食べ終わるタイミングで俺は気づく。もしかして「汎用人型決戦兵器」も「機動戦士」もユウの魔法で作れるのではないか?と。
別にそれらで王国を蹂躙しようなどとは考えていない。ただロマンがあればそこに飛びつかないわけにはいかない。強くなくてもいい。操縦できるロボットに俺は乗りたい。
俺はトーストの残り一欠片を口に放り込むと、早々に朝食を切り上げ庭で遊んでいる双子ちゃんに近づく。
「なぁ、ユウ!こういうのは作れない?小さくていいんだけど……」
「いいよー!」
俺はうろ覚えで描いた絵を見せるとユウは二つ返事で引き受けてくれた。そして完成したものを見て俺は膝をついた。よく考えればそうだった。
「物の形を(知っているものに)変える魔法」、所詮7歳の知識。科学技術の知識なんてあるはずがなかった。俺は自分の身長の2倍ほどの「汎用人型決戦兵器」の”不出来なフィギュア”の前に膝をつき、そのまま蹲った。
そのうちマオが命を与えたようで「汎用人型決戦兵器」は元気に走り回っている。
罷り間違っても繁殖しないよな?……しないよな?
そのうち、俺は考えるのをやめた。
製造者の責任なんて知るか!次はかっけぇ剣を作ってもらおう!
そんなことをしているうちに日は落ち始めていた。
――
――――
あの魔法があれば無限に軍隊が作れる。それがあればあんな国なんて…
朝比奈と双子たちの風呂を待っている間、そんな物騒なことを考えていると突然、玄関の扉が叩かれる。
緊張が走り、じわりと汗をかく。
音の位置的に双子ではない。なら朝比奈?いや、朝比奈はノックなんてしない。なら……イーシュか?
思考を巡らせているとよく響く低い声が聞こえた。
「千葉県 C警察署の桐原だ。安堂、お前に殺人容疑で令状が出ている。大人しく出てこい。」
「は?」
予想もしない名前に脈が早まる。
ありえない、日本の警察は優秀だとしても限度がある。双子と朝比奈のイタズラか?そうだ、そうに違いない。全く、帰ってきたら叱らねば。朝比奈を。
俺は震える手でゆっくりと扉を開く。
すると扉の前にはベージュのトレンチコートを羽織った40歳ほどの寂れた男が立っていた。
深い目のクマ、浮き出た手の血管、コートに染み付いたタバコの匂い。その全てが作り物ではないと俺に訴えかける。男は一瞬、焦燥にかられた俺をまじまじと観察したあと口を開く。
「なんちゃって」
「……なにが?」
どこから?警察であることが?俺に令状が出てることが?それとも全て朝比奈たちのドッキリか?
「君に令状なんて出てないよ。」
なんだそこか〜とはならない。誰だこいつ。明らかに日本人だ。そしてなんで俺のことを……
「僕ァ、桐原丈登。さっきも言ったけど警察だ。」
このタイトルに意味はありません。
警察が訪ねてくる場面ではこれしか思いつきませんでした。




