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天上転下…俺が敗者?!  作者: テールランプ
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9話『一つ飛ばしの幸せ』

しばらく双子と朝比奈の感動シーンを眺めていた。

次第に全員落ち着きを取り戻し、双子が今度は口を揃え尋ねる。「「おねぇさん達、だぁれ?」」


「おねぇさん達はあなた達を助けにきたの。私は朝比奈 アサヒ。あなた達は?」


「観音寺 ユウ」「マオ…」


「かんのんじ…?」

朝比奈が悩ましげに顔を伏せる。珍しい苗字だから漢字がわからないのだろうか。俺は双子ちゃんの顔に視線を戻すと


「お父さんがね…お父さんが…!」

安心したのか堰を切ったように断末魔の如く泣き出す。

少女達の話を時間をかけて要約すると、幼稚園のバスの事故でこちらに転移し勇者として持て囃されるも使える魔法がわかった途端処刑されそうになったそうだ。そして、そこに日記の持ち主改めこの子達のお父さんが助けに入ったが瞬間移動直前に致命傷を受け死んでしまったと言う。

ここまでまとめるのにかなり時間がかかった。


昼頃に洞窟に入ったのに出る頃には辺りは真っ暗で、今日のところはこの洞窟で過ごすことになった。

まぁ、この洞窟を出ても行くアテはないのだが…


少女達は泣き疲れたようで気絶するように眠りにつき、俺は焚き火を囲い朝比奈と火の番をする。


「ねぇ、アンドウ君。私ね…王国が許せないの。」

火の揺れが落ち着いた頃、朝比奈が呟くように話す。


「あぁ、そうだな。」


「だからね、王国をぶっ壊したいの。」


「え?……あぁ、そうだな」

この2年弱の間、朝比奈のピーキーな部分は知っているつもりだったがここまでとは思わず驚く。

だがその深く黒い双眸の奥に、これまでに無い熱を感じると反対できなかった。


「でも、どうやって?」


「わからない。私の魔法だけじゃ無理だろうしこの子達は戦わせられないしね」


「そうだな。」

この双子の魔法なら、魔王と呼んでも差し支えない彼女達の魔法なら王国を滅ぼすことなど容易だろう。だがそれだけはできない。こんな幼子達を戦場に駆り立てるなんて非道徳だ。それに勇者達は俺がこの手で引き裂きたい。


「まぁ、まずは拠点作りからじゃないか?こんな洞窟じゃ落ち着かないし」


「そうだね、明日作ってみよっか!」


――


――――


宣言通り朝比奈は半日ほどで小さいログハウスのようなものを作り上げてしまった。設計は俺の薄い知識なので日当たりや建築法などは考えられていないものの見た目だけは立派なログハウスだ。


剣を高速移動させ素早く木を切り倒すところまでは想像できたが木材を高速移動させて家を組み上げるなんて予想外だった。あまりにも便利すぎる魔法を目の前に俺は右手をチカチカ光らせて遊ぶことしかできなかった。


「「わ〜!木のお家!お姉ちゃん、すっごーい!!」」

双子が一言一句同じことを叫ぶ。どうやら朝比奈は「お姉さん」から「お姉ちゃん」に親密度がランクアップしたようだ。


俺はというと「「面白いことやって〜!」」という双子ちゃんの芸人も真っ青な無茶振りに応えるべく、俺の全身徐々に明るくしていく【自爆】という一発ギャグが大スベリをかまし「アンドウさん」と呼ばれるようになった。せめて「お兄さん」と呼んでほしかった。


……まだだ、まだ「お兄ちゃん」と呼ばせる秘策が俺にはある。双子が家に入った瞬間、天井に埋め込んだ石の光を強める。

「ふはははっ!どうだ!」


「わぁ、電気だぁ!お兄さんすごいね!」

アンドウさんから昇格した喜びを感じつつもお兄ちゃんまで行けなかったことに歯噛みする。子供にはインフラの重要性がまだわからないのだ。

お前らが寝る時、豆電球ほどの光源を強請っても応じてやらないからな。


昼食を簡単に済ませ双子ちゃん、改め「観音寺 ユウ」と「観音寺 マオ」の話を聞いた。2人は7歳らしく、辿々しいながらもしっかりと自分たちのことを教えてくれた。


途中、朝比奈が泣き出して煩いので家から放り出すアクシデントもあったが2人のことがよくわかった。

2人の魔法はユウの方が『物を変化させる魔法』、マオの方が『物に命を与える魔法』だった。

王城ではユウが壺をニカモンのキャラクターに変え、マオが命を与えて動かして見せたところ「人の理に反する」として処刑されることになったと言う。

 

お父さんが救い出してくれたあとは気を紛らわすために2人で好きなキャラクターを作っていたそうだ。これが魔物の正体だった。命である以上、勝手に繁殖してあそこまでの数になったのだろうが2人はおそらく知らない。そして今後も知らせる気はない。それは彼女らの父の願いにつながるから。


ちなみに2人が石化していたのは単純なミスらしい。石化能力のキャラクターを作って遊んでいた時にうっかり石化したそうだ。かわいそうに。


それにしても、なんと勝手な連中だろう。こんな少女を攫ってきて、気に入らない魔法だから殺します?あまりにも非道徳的だ。

 

俺は義憤を露わにしながらも今更ながら無計画であることに気づく。あいつらの魔法は?ステータスは?光るだけで勝てる相手だろうか?止めどなくさまざまな疑問が湧いてくる。


「ねぇ!ユウちゃん!こんな感じの剣作れる?」

いつのまにか隣に戻っていた朝比奈が日本刀を描いたメモ帳と長い木材を渡す。

そのメモ帳、一応お父さんの形見になるんじゃ…?


「うん!できるよぉ!」

ユウが木材を握ると徐々に形と色が変化し、ものの数秒で日本刀となった。


「わ、すごい!」

日本刀を手渡された朝比奈はメモ帳を一枚千切って投げ、空中で八つに切ってみせた。


「まじで本当に日本刀になるのか。」

でもそれお父さんの形見だよね?と声に出そうになるがなんとか抑える。


この後も形だけの車を作ったり、ユウが等身大の朝比奈を作ってマオが動かしたりして遊んでいた。なかなか倫理観に欠けるヘビィな光景だったが3人とも楽しそうだった。そこで俺は一つの疑問を抱く。


「2人とも疲れないの?」

魔法は体力を使う。俺は鍛え抜いて体力をつけたため魔法を長く使えるが2人はまだ7歳だ。俺ほど過酷なトレーニングをしていたとも思えない。


「「疲れなーい!」」

2人が口を揃えて叫ぶ。

男の勇者に投げた剣が砕かれた時からずっと考えていたがここで確信に至る。

やはり『勇者の能力で無限に魔法が使える。』


仮にあの男の魔法がバリアのようなものだったとして、あのタイミングで投げつけた剣に反応できるはずがない。であれば何らかの方法で常時発動していたと考えるのが自然だ。だがその方法がずっとわからなかった。

だが、なるほど。召喚されたのとそうでない者の差なのだろう。仮に勇者は無限に魔法を使えるとすれば厄介だ。あの現勇者2人を殺すのが難しくなる。


「アンドウ君、大丈夫?難しい顔してるけど…」


「大丈夫、ちょっと疲れただけ。」


「そ、なら夜ご飯にしたいからお風呂入ってきて!」


「え?風呂なんてどこに…」

朝比奈の視線の先には煙突から湯気が立ち上る小さい小屋があった。まさか……


「あれだよ!ユウちゃんが作ってくれたんだ!」


「何でもアリだな、その魔法。」

俺は、『ならこの小屋だってそれで作ったらよかったのに』という言葉を飲み込んだ。

勇者(無限?に魔法が使える)

上田(元カノ)、土谷(間男)、ユウ、マオ


その他(魔法を使うと体力を消費する)

安堂、朝比奈


(”その他”かつ詠唱が必要)

この世界の住人の大半

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