第9話:災厄の日
今日は夏休みの最終日で、新学期が九月初めから始まる準備をしている。
とはいえ、忙しい仕事に追われるほどではなく、プライベートの時間も確保できている。
今、俺は電子街秋葉原の歩行者天国をぶらぶらしている。秋が近づいてきたとはいえ、まだ残暑が厳しいので、しっかり対策をしている。サングラスをかけ、薄手のパーカーにフードをかぶり、花粉症対策でマスクをしている。
夏の終わりの天気を軽視して適当に外出するわけにはいかない。周囲の人に注目されることは気にしない。
ここにいる理由は、今日、ショッピングセンターで俺の好きなゲーム「エクストラガンズ」の限定版が発売されるからだ。
この特別版は多くの特典とキャラクターのアップグレードが含まれているが、限定版なので売り切れると再版はない。
この貴重な機会を逃すわけにはいかない。どれだけ並んでも構わない覚悟で来た。
数分待った後、ようやく限定版を手に入れることができた。
幸運にも、俺の番が回ってきた時には最後の一本だけ残っていた。
嬉しいけど、長時間並んでいた他の人たちには申し訳ない気持ちもある。
センターを出ようとしたとき、不意に怪しい格好の男とぶつかり、その男はまるで鬼に追われるように慌てて走っていた。
その瞬間、俺の手に持っていた商品が消えてしまっていた。
まさかこんなことがあるなんて。
初めての経験だ。
限定版が… 奪われた!
すぐに俺は泥棒を追いかけた。
もしこのような事態になることが分かっていたら、もっとしっかりリュックに隠しておいて、手にしっかり持っていたのに……
* * *
名門イノウ高校の生徒会長である僕は、ゲームを買うために並んでいるところを他の人に見られるわけにはいかない。
そのため、見た目を少し変える必要があった。額を隠すために前髪を下ろし、ごく普通のメガネをかけることで、どこにでもいそうな地味な外見に変身した。
秋葉原に最初の電車で早めに到着し、並ぶ準備を整えた。
すべてが計画通りに進んでいると思いきや、夜更かしが響いて、気がついたときには次の電車になっていた。
現在、僕は人混みをかき分けて急いで店に向かっている。
開店からまだ三十分しか経っていないが、経験上、ゲームを買う時の状況から言って、在庫が残っている可能性は低い。
街中の人々の目を引くのは、サングラスをかけ、スポーツウェアとフード付きのジャケットを着た男だ。
彼は僕とは逆方向に急いで走っていて、彼の胸には「エクストラガンズ」の限定版が抱えられていた。
つまり、幸運にもその男が手に入れたわけだ。
どこかの群衆の中で「待って! 俺の限定版だ」という悲鳴が聞こえ、彼が泥棒だと判断できた。
しかし、限定版だって?
近づくと、僕はわざと彼にぶつかり、二人とも路地に引きずり込んだ。
泥棒は地面に倒れ、僕はその隙に商品を奪った。
彼はすぐに謝りながら逃げていった。
どうやら彼は初めての泥棒で、まだ心の準備ができていなかったようだ。
僕は追いかけないことにした。
運が良いことに、パッケージのデザインが変わっていなかった。
試作品と全く同じに見えた。外見を軽く確認した後、いくつかの手法を使って試作品のデザインを手に入れた。友人に送ると、完璧なコピーと外部シールドが届いた。
それをカバンから取り出して、正規品と交換した。この作戦は予備プランの一部だった。最も難しい部分は、先ほどの男から本物を取り戻すことだった。
路地を出ると、最後に必要なのは、あまり目立たずに演技をすることだった。
* * *
追い詰めたところで、まるで警察のように犯人を押さえ込もうとしたその時、幸運にも前方で若者がその泥棒を処理してくれた。
すぐにその若者のところに駆け寄り、泥棒を制圧している間に彼がサングラスを落としてしまったことに気づいた。
サングラスを拾い上げて渡してやった。
どうやらそのサングラスは視力矯正用ではなく、目を守るためか、単に流行に合わせているようだった。
「これ、お前のメガネか?」
「ありがとう。この品物は君のものだよね?」
「うん、ありがとう。本当に面倒をかけてすまない……泥棒から取り戻してもらって」
「気にしないで、必要な時に手伝っただけだよ」
その青年の制服は俺の住んでいる街のものではなく、近くの地区のものであるようだ。
黒髪の長い髪が顔を隠していて、俺もそれにあまり気にしなかった。
どちらにしても顔を知っていたところで、すぐに忘れるだろう。
そのため、あまり長話せずにお互いの時間を無駄にすることなく、俺たちはお別れの挨拶をして、それぞれの帰路に着いた。
家に帰って荷物を開けた瞬間、思いがけない異変に気づいた。
荷物は無傷だったが、中身が完全に消えており、代わりに「エクストラガンズ」の限定版の値段を超える金額が詰められていた。 ラベルには「ファイレット」と書かれていた。
頭にきた。 詐欺に遭ったんだ。 まさかこんなくだらない詐欺に引っかかるなんて思ってもみなかった。
悔しさと怒りで胸が締めつけられるが、もう犯人を追い詰めることはできない。
振り返ってみれば、こんな状況では街中で出会う見知らぬ人の顔を覚えておくべきだと痛感する。




