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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ϵ( 'Θ' )϶以上のお話(とその関連)

幼馴染に見下され続けた令嬢は、素敵な王弟殿下と幸せになる。

作者: ユミヨシ

「アドリーヌ。一緒に騎士団の練習を見に行かない?ルシル様に私、ハンカチを渡そうと思っているの」


頬を赤らめて、そのように言うのは親友のソフィア・ミレド伯爵令嬢。アドリーヌ・カルドス伯爵令嬢の幼馴染である。


王立学園に通う二人は共に17歳。


アドリーヌはソフィアと領地も隣同士で幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあった。


茶の髪の地味なアドリーヌに比べて、ソフィアは金髪で青い瞳の凄い美人である。

いつも男性はソフィアばかり声をかけて、アドリーヌには興味の欠片も見せなかった。


二人ともまだ婚約者がいない。

この王国の貴族の婚約が許可されている年齢は、16歳からである。


16歳から王宮で開かれる夜会にデビューし、そこで婚約者を見つけるか、同じく16歳から王立学園で貴族は学ぶので、そこで交流を深めて婚約者を見つけるか、だいたいの貴族は卒業し、18歳になった頃に結婚する。それがこの王国の貴族達の結婚の仕方だった。

自分達で気の合う相手を探すのである。


勿論、大人たちの家の思惑がある場合、子供達に言うのである。


あそこの令息と、令嬢と、親しくなりなさい。と……


ソフィアは色々な令息達に声をかけられ、いつも誰にするか迷ってしまうわー。だなんて、言っていて、アドリーヌは羨ましかった。


自分は地味な令嬢で、カルドス伯爵家とてとりわけ裕福という訳でもなく、全く政略的にも魅力がない伯爵家である。


アドリーヌは夜会でも、ソフィアの引き立て役で。

ソフィアは色々な令息に声をかけられ、ダンスを踊る。

それに比べてアドリーヌは壁の花だった。



ソフィアが羨ましい。

どうして、自分は冴えない容姿に生まれたのだろう。


ソフィアが楽し気に、美しい男性と談笑しながら、こちらへ戻って来る。

そして、アドリーヌに向かって、


「こちらは第三王子殿下テディス様よ。アドリーヌも誘ってあげてとお願いしたわ。私ばかり、第三王子殿下とダンスを踊るだなんて、アドリーヌが可哀そうだわ」


テディス第三王子殿下も、微笑んで、


「ソフィア嬢に頼まれたら断れないな。よろしければ、そちらのお嬢さん、私と一曲如何ですか?」


アドリーヌは丁重に断った。


「本当にありがたいのですが、私はダンスが下手なので。ソフィアと踊って下さいませ」


テディス第三王子は、ソフィアに向かって、


「断られてしまったよ。私は美しい君と踊りたい。ソフィア嬢。さぁ」


「まぁテディス様っ」


ちらりとソフィアはこちらを見て、テディス第三王子の差し出された手に手を添えて、フロアの中央へと再び向かう。


惨めだった。


いつも、ソフィアに見下されているようで。


その時、声をかけられた。


「よろしければ、そこのお嬢さん。私とダンスを踊りませんか?」


黒髪碧眼の背の高い男性に声をかけられる。


「まぁ、貴方様は……」


王弟の一人である、フェルデス王弟殿下であった。


42歳になる王には弟が三人いて、彼は一番下の弟で、歳は20歳である。


フェルデスと共にダンスを踊るアドリーヌ。

彼はとてもリードも上手で、アドリーヌは幸せを感じていた。


フェルデスはとても美しくて、王立学園は卒業しているけれども、たまに顔を見せる夜会では令嬢達がフェルデスに群がっているのをよく見かける。

20歳になるまで婚約者がいないのは、彼がじっくり選んでいるからだと言われていた。


何故、今日は地味な自分に声をかけてきたのだろう。

たまに顔を見せる夜会では色々な令嬢とダンスを踊っていて、声をかけられた事はなかった。


ソフィアがこちらを見て睨んでいる。


何故、睨んでいるの?私がフェルデス様とダンスを踊っているから?


ソフィアにしたら面白くないのだろう。

テディス第三王子も美しい王子だが、フェルデスに比べたら美しさが落ちる。

フェルデスの母、側妃の実家も大金持ちで、その資産分けがあったのと、フェルデスは王家の財産も貰っており、大金持ちである。


フェルデスとダンスを踊っていると、ふいに身体に衝撃を感じ、突き飛ばされて、床に転がる。

フェルデスが慌てて駆け寄ってくれた。


ソフィアがにっこりと笑って、


「ごめんなさい。ぶつかってしまったわ。フェルデス様。私はアドリーヌの友達のソフィア・ミレドですわ。ミレド伯爵家の娘です。私とダンスを踊りましょう。アドリーヌは足をくじいて立てないみたいですから」


フェルデスはソフィアの言葉を無視して、アドリーヌに手を差し出し、


「立てるか?立てないのなら」


ひょいと、アドリーヌをお姫様抱っこしてくれた。


「医者に見せよう。この王宮には医者が常駐しているから」


「だ、大丈夫ですっ」


アドリーヌはドキドキする。フェルデス様に抱き上げられてしまった。


ふいにソフィアの声が聞こえた。


「ああ、私も足をくじいたみたい。フェルデス様。私をお医者様の所へ連れて行ってくださらない?」


フェルデスはソフィアに、


「すまないが、こちらの令嬢が先だ。それに君は転んでいないだろう?こちらの令嬢を突き飛ばしてはいるがね」


そう言って、医者の所へアドリーヌを連れていってくれた。


アドリーヌは慌てたように、


「足は大丈夫です。ちょっとひねっただけで」


「ひねっただけでも、診てもらった方がいい」


王宮の医者に診てもらえば、大した事はないとの事だったので。


連れて来てくれたフェルデスに礼を言う。


「有難うございます。フェルデス王弟殿下。お医者様の所まで連れてきて頂いて」


「当然の事をしたまでだ。私が君に声をかけたのは、一度話をしてみたいと思っていたからだ。サリド魔道具について。サリド魔道具を君が持っていると、教師から聞いたのだ。あの魔道具を使うと、部屋にいながら綺麗な夕焼けが見られるらしいね」


アドリーヌは頷いて、


「ええ、持っております。祖母から頂いたのですが、ただ、壊れていて。使えないのですわ。あの魔道具に祖母は思い入れがあって、こんな魔道具を貰ったと先生に話したのですわ」


「その魔道具を直してみる気はないか?よい道具屋を知っている。私はサリド魔道具が見せる夕焼けを見たいのだ。父上が、前国王陛下が、よく話をしていた。好きな人と一緒に部屋で夕焼けを見ていたと……その夕焼けはどんな夕焼けよりも美しかったと」


お祖母様の好きだった人って、もしかしたら。

だが、その事を言葉にすることは出来ない。

前伯爵夫妻は仲睦まじい夫妻だ。


領地の片隅で、二人で老後を楽しんでいる。

今更、お祖母様の過去の恋をほじくり返すのも……


黙っていると、フェルデスは、


「君の気持ちは解る。君のお祖母様に関係なく、道具を修理しないか?私はサリド魔道具の夕焼けを見てみたいのだ。小さい頃からの憧れだから」


「解りました。王弟殿下がそこまで望まれるなら」



アドリーヌはフェルデスに誘われて、サリド魔道具を持って、街へ出かけた。


フェルデスはアドリーヌと共に街を歩きながら、


「父上の恋物語に憧れていてね。綺麗な伯爵令嬢に恋をして、よく二人でこうして街に出かけていたと、父上は言っていた」


アドリーヌは俯いて、


「私と一緒でいいのですか?私は綺麗でも何でもありません」


「君はそう言うけれども、君の楚々とした感じが私はいいと思うよ」


そう言って、フェルデスは微笑んだ。


お世辞だろうけれども、それでもアドリーヌは嬉しかった。


二人で魔道具屋にサリド魔道具を持ち込んで、


そこの魔道具屋の主人はサリド魔道具を見ながら、


「珍しいものだな。透き通った棒で、夕焼け色をして中に白い雲が浮かんでいる。ちょっと壊れているだけだ。直しておこう」


フェルデスと共にアドリーヌは、魔道具屋の主人に礼を言う。


「有難うございます」

「よろしくお願いします」


数日預ける事になった。


フェルデスはアドリーヌと共に空を見上げ、


「この王都は霞んでいて、空が綺麗に見えない」


「そうですね。領地へ行ったら綺麗な夕焼けが見られるのに」


「ああ、そうだな……君と一緒に、本物の夕焼けも見たいものだ」


それから、何度か一緒に出かけて、アドリーヌは思ったのだ。

フェルデスがもしかしたら自分を気に入って、婚約を申し込んでくれるかもしれない。そうなったらどんなに素敵だろう。と。


共に出かける度に、胸がドキドキして。とても幸せで……



そんなとある日、王立学園で、ソフィアに言われた。


「私、フェルデス様と一晩、過ごしたの。さすが、王弟殿下。大金持ちで。屋敷も立派だったわ。私の事を気に入ってくれて、婚約を申し込まれるかもしれないっ」


アドリーヌはショックだった。


ただ、一緒に出かけていただけである。

婚約を申し込まれた訳ではない。


誘われて共に出かけ、食事をし、色々と話をした。だが、彼の家に行ったこともない。

それだけで婚約を申し込んでくれると、うぬぼれていた自分が恥ずかしかった。


ソフィアに向かって、


「おめでとう。ソフィア。貴方の幸せを祈っているわ」


「有難う。私、幸せだわ」





サリド魔道具が修理出来たと、連絡があった。

一人で馬車に乗り、その魔道具を取りに行った。


その魔道具を抱き抱えて、馬車の中で涙を流す。


「一緒に、夕焼け見たかったな」



屋敷に帰ると、部屋に籠って泣いた。泣いて泣いて泣いて。

そして、思った。



サリド魔道具をせっかく修理して貰ったのだ。

お祖母様が愛した夕焼けを部屋で見ようと。


その時、部屋をノックする音がして、メイドがフェルデスの訪問を告げてきた。


アドリーヌはメイドに向かって伝言を頼む。


「もう、お会いする事はありません。ご一緒にお出かけ出来た事、とても楽しかったです。有難うございました」


と、言葉を伝えて貰った。


これでいい。彼はソフィアと婚約するのだ。

もう、これ以上、心の傷を深くしたくはない。


その時、バンっとテラスの窓が開いて、フェルデスが部屋に飛び込んできた。


「どういう事だ?会いたくないだなんて」


驚いたが、アドリーヌはフェルデスに向かって、


「ソフィアと一晩過ごしたと聞きました。だから、私と二人で会わない方がいいでしょう?ソフィアに失礼です」


「ソフィアって誰だ?ああ、確か君とダンスを踊った時に君を突き飛ばしたあの性悪女か。あの女がなんと言ったか知らないが、私は君に婚約を申し込みたいと思っている。ああ、申し訳ない。ただ、君を連れまわしただけで、君に対してしっかりと心を伝えていなかった」


「私に対して、心を感じなかったわ。本当に私に婚約を申し込みたかったの?」


「それは……」


フェルデスは俯いて、


「父上が持っていた肖像画に君が似ているんだ。私はその肖像画の女性に恋をしていた」


「その肖像画の女性って」


私のお祖母様。そういえば、お祖母様の若い頃に似ていると言われていた。


何だか悲しかった。


「ごめんなさい。出て行ってください。ここは私の部屋。いくら王弟殿下だからって、犯罪だわ」


「すまなかった。本当に申し訳ない」


フェルデスは出て行った。

アドリーヌは悲しくなって、大泣きしたのであった。



翌日、王立学園へ行くと、ソフィアが退学していなくなっていた。

フェルデス王弟殿下と一夜をと嘘を言いふらしたという事で。王家から苦情が来て、ミレド伯爵が真っ青になり学園をやめさせて、領地へ連れ帰ったそうだ。


領地の厳しい修道院へ入れられたとの事。


ソフィアと離れられて、心から安堵したアドリーヌ。

あんな自分を貶める友達なんて友達じゃない。


学園から帰ろうとすれば、フェルデスに背後から声をかけられた。


「アドリーヌ。私が肖像画の女性に憧れていた事は事実だ。だが、君と一から恋人になりたい。君と夕焼けを見たい」


「私、冴えない女ですよ。性格だっていいとは言えないし、自分に自信がなくて」


「あのソフィアという女のせいだろう?君はもっと自分に自信を持つべきだ。私には君が必要だ」


アドリーヌは嬉しかった。一緒に夕焼けを見たかったから……


「貴方を信じる事に致します。一緒に夕焼けを見ましょう」


王弟殿下の屋敷の部屋に行き、共にサリド魔道具の夕焼けを見た。


部屋に映し出された夕焼けはとても綺麗だった。


隣のソファに座るフェルデスがアドリーヌの手を取って、


「今度は本物の夕焼けを二人で見よう」


「嬉しいです。楽しみにしています」



それからのアドリーヌは、自分に自信を持つように、オシャレにも気を遣い、勉学にも励んで、自分磨きに時間を使った。


フェルデスに相応しい女性になりたかったから。


フェルデスはいつもアドリーヌを褒めてくれて。


「君は努力家だね。私は努力をする人が好きだ。愛しいアドリーヌ。早く君と結婚したい」


優しく口づけをしてくれた。


幸せの絶頂にいるアドリーヌ。

まさかあんな事件が起こるとは思わなかった。


王立学園の卒業式。卒業したら婚約期間を終えて、アドリーヌはフェルデスと結婚することになっていた。


フェルデスにエスコートされて、卒業パーティに出席するアドリーヌ。

フェルデスが選んでくれた深緑のドレスはとても品があり美しくて。


そんな中、ドンと背から誰かがぶつかってきて、強烈な痛みを感じた。


立っていられなくなり、フェルデスの腕に倒れこむ。

霞む頭で聞こえてきたのが、ソフィアの声だった。


「私より幸せになるだなんて許せない。あんたなんて、死ねばいいのよ」


ああ、ここで私は死ぬんだわ。

これから、フェルデス様と幸せになろうと、頑張ってきたのに……

愛しているわ。フェルデス様……

霞んでよく見えない。


ふと、身体が軽くなって、夕焼け空の下、一人立っているアドリーヌ。


前年、亡くなった祖母が微笑んでいて。

アドリーヌがドレスを翻し、祖母の方へ駆け寄る。


祖母を抱き締めれば、祖母は、アドリーヌに向かって。


「貴方はあの人と結ばれなくては駄目よ。私が愛した国王陛下。だけれども、諦めるしかなかった。だから、貴方はあの人の血筋の人と結ばれて欲しいの。愛しているわ。愛しいアドリーヌ。幸せになるのよ」


ぱぁっと光ってアドリーヌの祖母は姿を消した。


アドリーヌが目を開けると、悲鳴が聞こえてきた。


「ああああっーー。身体がっ……」


騎士達に取り押さえられているソフィアの身体がシワシワになって行き、アドリーヌは刺されたはずなのに、痛みもなく。


フェルデスがアドリーヌを抱き締めてくれて。


「アドリーヌっ。よかった。王家の秘宝の守りの石を使ったんだ」


見せてくれた王家の秘宝の守りの石は、真っ二つに割れていた。


だが、この石だけで守られたのではない。きっと……お祖母様が……


「私は、お祖母様にも助けられたのね……」



ソフィアは老婆のようになって、騎士達に連れて行かれた。


屋敷に戻ったら自分の部屋に置いておいたサリド魔道具も真っ二つに割れていて。

お祖母様の想いがあった魔道具が、王家の石と共に自分を守ってくれたのだと、アドリーヌは壊れたサリド魔道具を抱き締めて、涙した。



領地の修道院から抜け出して王都に来ていたソフィア。

魔道具の呪いで老婆のようになったソフィアは、牢に入れられて、数年後に衰弱死した。


フェルデスと結婚したアドリーヌは、一男一女に恵まれて、とても幸せに暮らした。

二人はよくテラスで夕焼けを眺めて、愛を囁き合っていたと言われている。





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[一言] 拝読させていただきました。 自分はこの人間より上と一度決めてしまうと状況が変わっても、受け入れられない人間はいるものです。 振り回されることはありません。 幸せになりましょう。
[良い点] 色んな意味でお祖母様の愛がアドリーヌを助け救ったことにじんわり来ました [一言] 王族とワンナイトしたなんて醜聞、しかも虚偽を吹聴したなら修道院行きで済ませてくれただけ大分優しいのにソフィ…
[良い点] 相変わらず、面白かったです! ソフィア性悪女っ! 友達ぶってヤな奴ですね(;´・ω・) アドリーヌさんも悩んだりしながらも、王弟さんとうまくいってよかった! そして最後の最後まで何が起こる…
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