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第4話 偶像崇拝

 天使はこう言った。


「俺の言う通りに全部忠実にやれば、アニメ化大ヒット作家になれるよ」

「本当? でもさ、こう言うのって代わりに魂を差し出せっていう展開じゃない? 最近読んだ魔術師が主人公のライトノベルは、そんな感じだったよ?」


 悪魔と契約して成功を手に入れるという状況は、ライトノベルではよくある。最後には契約した側の人間が自滅したりする。ライトノベルだけでなく、都市伝説系のサイトでも似たような話は載っていた。


 世界的に成功するミュージシャンは、秘密結社に入り、悪魔を召喚して成功を貰う。そんな都市伝説こそライノベルみたいだったが、実際ライトノベルを書いている美加は、そんな事も全く無いとは言い難かった。


「馬鹿だなぁ、美加。俺は天使だよ。天使だから無償でいい事を教えてあげるんだから」


 天使は爆笑していた。ちょっと嫌な笑い方のは見えたが、こんなに見た目が美しい男がまさか悪魔だとは思えない。美加は、天使のふさふさの長いまつ毛や高い鼻をまじまじと見てみる。


 やっぱり天使にしか見えない。


「でも、何で私なの?」

「美加ちゃんのペンネームが俺たちと同じと思ってね」

「ああ、ミカエルね」


 美加のペンネームは、田所ミカエルという。

 適当につけた名前だったが。ミカエルは天使の名前だった事を思い出す。確かキリスト教系の天使の名前だったはずだが、そんな宗教に馴染みがない一般的な日本人である美加にとっては、どうでもいい事だった。


「あなたの名前は?」

「うーん、そうだなぁ。バアルとも呼んでもらおうかな」

「バアル?」

「うん、バアル」

「そう、バアルよろしくね。で、どうすれば私はアニメ化作家になれるの?」


 正直なところ、天使の名前は興味がない。それよりも成功する方法を聞いてみたかった。心の中にある欲が疼いた。ずーっと売れ無いライトノベル作家である事は仕方がないとも思っていたが、こうしてその方法を知る事が出来るとなれば、聞かない理由は無いだろう。


「美加ちゃんってSNSやってるだろ?」

「もちろんよ」


 美加は、作家名義でSNSを作って運営していた。あまり宣伝効果はなく、焼き石に水状態だったが、やらないよりはマシだと思っていた。同時に同業者の「重版しました」「続刊しました」という聞きたくもない知らせも見てしまうので、あまりログインしていなかったが。


「そこにさ、『ハムカツを崇めよ』って書いて欲しんだよ。ハムカツの画像付きで毎日」

「は?」


 天使の提案は予想外のものだった。てっきり売れる作品の傾向やテクニック的な事を言われると思ったら、ハムカツ?


「何でハムカツ?」

「いや、別にクッキーでも目玉焼きでも餃子でもケーキでもなんでもいいんだ。とにかく食べ物の画像に『崇めよ』と打って投稿すればいいから」

「いや、でもそれと人気作家になるのとどんな関係が……」


 納得できない。


 確かに自分は食べ物は好きな方だし、作中には料理や食事シーンを入れるのが好きな方だったが、それと人気作家になれる方法は筋が通っていない気がした。


「とにかく一回だけ試してみてくれよ」


 天使はちょっと泣きそうな顔をして懇願しはじめた。美加の心はキュンとした。ちょっと母性本能をくすぐられてしまった。イケメンだが、守ってあげたくなるような可愛さも感じてしまった。


「じゃ、ちょっとだけ。ちょっとだけ試してみるよ」


 そう言うと、天使は晴れやかな笑顔を見せた。

 さっきよりももっとキュンとしてしまった。ギャップ萌えか。よくわからないが、天使は人の心を操るのが上手いらしい。


 ちょうどパソコンの画像ホルダーにハムカツの写真があった。近所の惣菜屋で買ったハムカツで出来立ては絶品だった。最近は、体重が気になるので揚げ物や糖質は控えていたが。


 美加はSNSにログインし、ハムカツの画像と共に「ハムカツを崇めよ」と打ち込んでアップした。


 ほとんどアップしていないので、フォロワーは60人しかいない。アップしてもいつも通りにポツポツと「いいね!」がつかないが。


「本当にこれでいいの?」

「オッケーだよ。じゃあ、効果あったらまた来るね!」


 そう言って天使は突然消えてしまった。本当に煙に巻くように消えてしまった。


「ちょっと、待って!」


 叫ぶように止めたが、その言葉も虚しく消えてしまった。


 あたりはいつものボロアパートに戻った。


 作品を書くための資料が詰まった本棚や机の上のノートパソコンや古いベッドが目につく。


 本当にあの天使が存在したのか不思議なぐらい、あたりはいつもの通りの部屋だった。


 夢だったのかも知れない。


 でも良い夢だったのかも知れない。


 どうせSNSにコメントや画像をアップすることなど痛くも痒くもない。美加が損した事は何も無い。


「まあ、いいか」


 そう言い、美加は寝る事にした。


 ぐっすりとよく寝た。


 今後起こることなど、美加は予想も出来なかった。


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