第12話 本当の神様
美加の作家としての人生は成功と言ってよかった。アニメ化、ドラマ化、大きな文芸賞までとった。
それでも心の中は全く満たされず、むしろ作品を作れば作るほど空洞ができていた。本当に魂を売っていると感じる。
頭がおかしな腐女子がアンチ化し、連日殺害予告が届いた。
不仲と思っていた両親や親戚が突然現れ、借金の肩代わりをしろと泣き落としをされた。毒親の相手をするのは神経が擦り切れそうだった。ただ毒親についてブログでエッセイを書いたら、なぜかバズってしまい、余計に引くに引けなくなっていた。親を憎む事も邪神を怒らせる事なのだろう。
パクリ疑惑が再びネットで騒がれ、小説家としての評判はだんだんと悪くなってきた。
売上は良いが、締め切りも多いので連日徹夜で身体はボロボロだった。
今日もまた、天使の命令されながらキーボードを叩いていた。
今や本当にこの男が天使がどうかはわからない。本当の事は考えたくないが、おそらく悪魔だろう。
それでもやめるわけにはいかない。もう何匹も猫や犬を殺しているし、いつか人間の死体までも要求されると思うと、怖くてやめられなかった。
この世で成功する方法?
そんなの簡単だ。悪魔に平伏して、彼が喜ぶ事をすれば良い。
どうやら世の中は、悪魔が金や名誉を好きにする権利を握っているらしい。人間の実力や努力だけでもそこそこいけるだろうが、それだけではどうしようもない領域があるらしい。
「さっさと書けよ!」
美加は悪魔に命令されながらキーボードを叩き続ける。
まるで自分は悪魔の奴隷だ。解放される手段はあるのだろうか。さっぱりわからなかった。
ただ、本当に義なる神様がいるなら……。こんな悪魔がいるなら、本当の神様だっているはずだ。
美加は書店にいき、1冊の聖書を手にした。すがるような気持ちで聖書のページを開いた。
人間の9割が悪なら、残りの1割に希望が残っていて欲しかった。