第11話 邪神
「ドラマ化が決まったよ……」
「あなたは光の天使〜禁断の愛に溺れる666日〜」のドラマ化が決まったが、美加はちっとも嬉しくなかった。
むしろトントン拍子に成功しすぎて怖い。
いつ天使から人間の死体を持ってこいと要求されたらどうしよう。
その恐怖しか感じないが、天使は綺麗な顔で薄笑いを浮かべていた。
体調はボロボロだった。
先日、出版社に打ち合わせに行った帰り、救急車で運ばれた。
医者によると一時期心臓が止まったらしい。しかも原因不明。
天使がしでかした事としか思えなかった。
これ以上仕事を入れないようにとドクターストップをかけられたが、そんな事はできない。
今やめたら、本当に天使から命を奪われてもおかしくないと感じていた。
「でも、もう疲れたよ。もう作品を作りたく無い」
「そんな事言うな!」
うっかり本音を溢すと、天使は泣き落としを始めた。
天使は元々「天界」という天国みたいな場所にいたらしい。ただ、上司の天使長・ルシファーが「俺が神になる!」と邪神に反抗した結果、部下であるこの天使も一緒に地上に堕とされたらしい。
「本当に邪神って酷い神なの?」
そんな疑問も持ち始めていた。今まで書いてきた成功したものは、邪神を怒らせていたものだと確信する。
ただ、不倫、ヤクザは世間一般的にもあまり良いものでは無い。同性愛は、賛否あるが、自然の成り行きでは生まれないはずだ。調べると性的虐待の被害者が同性愛者になる確率が高いという。BLにあるような純愛物語はお花畑過ぎると当事者にも馬鹿にされているという。
生贄についてはわからないが、調べるとヨーロッパのカトリック教会の幼児虐待スキャンダルが生贄儀式のようだという記事が出てきた。人間(特に子供や処女)の命を差し出す事で悪魔と契約し、この世で成功できるらしい。日本でも寺院や城の跡地に白骨遺体が大量に出土しているらしいが、これも生贄で被害者は数えきれないぐらい居るらしい。
666という数字も調べると悪魔の数字である事がわかる。聖書によると、終末に悪魔を拝むものが「獣の刻印」として押される数字で、額か手の甲に押されるらしい。キリスト教の牧師のブログに書いてあった。男装も旧約聖書では神様が嫌うものの一つとして書いてあった。
もしかして、やっぱり天使のいう邪神の方が、本当の神?
旧約聖書では「ソドムとゴムラ」の話もあった。大学生の一般教養の授業で聞いた事を思い出す。「バアル」と検索すると旧約聖書に出てくる悪魔の名前だと出てきた。蛇が出てくる小説も書いたが、聖書の中で蛇は悪魔の事だとネットに書いてあった。
生贄の物語も書いたが、もしかして自分自身の心や魂、あるいは作品を作る力、才能といえるようなものを悪魔に生贄として捧げていた?
自分の今の状況はまるでストックホルム症候群?
生贄になったヒロインが加害者側ヒーローに好意を寄せはじめるストーリーなんて、自分と天使の事と似てる?
なぜ今まで気づかなかったのだろう。
そんな美加の考えを見透かした様に、今度はこんな作品を作るように命令してきた。
「イエス・キリストをバカにするような作品を作って欲しい」
そう言われても全く不思議に思わなかった。むしろそう要求される事になるだろうと思った。
「そうだなぁ。ルシファーとイエスが仲良くコントでもしている様なコメディでも書け」
こうして美加は「ルシファー&イエス」というギャグ小説を書いた。全く逆らえない。それどころか、天使の良い部分を無理矢理探して納得までしていた。天使は彼氏というより父のように見えてきた。何故かこの父を喜ばせたいという気持ちが心の底にあった。
この作品の中のイエスは、機嫌が悪くなるとパンを石に変え、ルシファーの言いなりになり、毎日ゲームと漫画に耽るニートという設定だった。主人公のルシファーはもちろん、サブキャラのイザベラやカインは可愛く書けと言われた。
また、蛇と人間の女が恋愛する話も書けと言われた。
これが一番、邪神の古傷を引っ掻いて怒らせる事ができるという。
「創世記3章! 創世記6章! ザマァ、邪神ザマァ! あははは!」
天使はそういいながら手を叩いて大笑いしていた。その姿はとても醜くかった。
こうして「大蛇に嫁入りした女〜生まれた子供は巨人ネフェリムでした〜」という小説も書き、権威ある文芸賞を受賞してしまった。