第1話 打ち切り
「すみません、今回は初動がイマイチ芳しくなく……」
編集者ははっきりと言わない。遠回しに濁していうのが得意だ。
こんな風に作品の売り上げが悪いとき、はっきりと「打ち切りです」とは言わず、ごちゃごちゃと遠回しに言葉を重ねる。
レーベルに必要のない作家と縁を切りたい時などは、わざと連絡を無視して関係を途絶えさせる。ハッキリとそう言わず、遠回しに「察してね♪」と表現するのだ。
「まあ、今は本が売れない時代ですからねぇ」
編集者は、問題を大きくし自社レーベルの宣伝不足などは、一切省みない。
著者に入る印税は、10%。他、90%は一体どこに消えてるの?
そもそも何で発売3日で打ち切りかどうかなんて決まるの?
美加は喉元まで編集者に文句を言いたい気持ちが出ていたが、どうにか抑えた。ここで問題を大きくしても良い事はないだろう。
「そうですね、わかりました」
全く納得はしていないが、声だけは感じよく言って、電話を切った。
田所美加。ペンネームは、田所ミカエル。職業は兼業ラノベ作家。年齢が31歳、独身。
新作は晴れて打ち切りとなり、美加の仕事が無くなった。