彩脳
レビュー執筆日:2020/12/23
●凛として時雨とは異なる方向性でTKの魅力を堪能できるアルバム。
【収録曲】
1.彩脳 -Sui Side-
2.katharsis (sainou mix)
3.インフィクション
4.鶴の仕返し
5.melt (sainou mix)
6.moving on (sainou mix)
7.蝶の飛ぶ水槽 (sainou mix)
8.reframe
9.memento (sainou mix)
10.片つ
11.凡脳
12.P.S. RED I (sainou mix)
13.copy light
凛として時雨のボーカル&ギターでソングライターのTKのソロアルバム。これまでの彼のソロアルバムは全て聞いてきましたが、凛として時雨と比べると印象に残り辛い楽曲がやや多いような気がしていました。しかし、今作では、様々な人物(音楽プロデューサーやボーカリスト、さらには漫画家や小説家まで)が編曲・ゲストボーカル・作詞等様々な形で参加しており、それによって楽曲のバリエーションが増え、曲ごとの差を上手く際立たせているように思えました。その中でも特に面白く感じられたのがヨルシカのsuisが参加している『melt』で、ハイトーンで困惑するかのような癖の強いTKのボーカルとヨルシカで聴かせる「爽やかさ」とは一味違った迫力のあるsuisのボーカルの対比や、曲を追うごとに次第に盛り上がっていく打ち込みのサウンドが興味深い一曲となっています。
また、これまでのTKの作るバラードは個人的には「地味」な印象があり、アルバム内の「箸休め」として収録されることが多いように思っていたのですが、今作に収録されているバラードにおいては、ノスタルジックな表現が印象的な『memento』や片想いの様子をストレートに描いた『片つ』、表現者としての思いを宣言するかのような『copy light』のように彼にしては分かりやすく具体的な歌詞を綴っており、ある種の「インパクト」を持った楽曲になっているように感じられました。特に『copy light』の「ありきたりな言葉と答えじゃ繋がれないよ」というフレーズは非常に秀逸だと思います(この曲は小説家の又吉直樹が歌詞のプロデュースを行っており、そういったフレーズが生まれたのも彼の影響かもしれません)。
『katharsis』『P.S. RED I』のような激しいナンバーや『インフィクション』のような幻想的な楽曲、さらには歌詞をじっくり聴かせるバラードといった様々な楽曲をTKが持つ影のある世界観でまとめ上げられた傑作。凛として時雨とは異なる方向性で彼の魅力が詰まったアルバムになっているのではないでしょうか。
評価:★★★★★