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第95話 やっぱお前嫌いだわ②

「化け物が……!次だ!次で奴を殺せ!殺したら報酬は1000倍だ!一生働かなくてもいい金をくれてやる!」

「よっしゃあ!じゃあ次俺達な!100年ローン組んで勝ったビーム兵器で野郎を消し炭にしてやんよ!」


 そう言ってパッとしない有象無象の傭兵の二人組が互いに支え合いながら先程のガトリング砲よりもでかく長い銃身を持ち、引き金を引いた。


 すると銃口が赤白く発光し、雄叫びを上げるようにキィィィィンと甲高い機械音が鳴る。

 鳴った瞬間、銃口から虹色の光が放出された。

 それら全ては超強力なビーム砲で空気を熱しながらビュン!と不吉な音を立ててジョニーに向かって行った。


「……」


 ジョニーは仁王立ちでそれを真正面から剣で受け止めた。


 剣の腹の部分で受け止めたジョニーは力強く床を踏み締め、腰を落として正眼の構えでビーム攻撃を受け止める。


「へっ!流石のジョニー・ニーニルハインツも受け止めるだけで精一杯のようだぜ!このまま出力最大にしてアフロみてぇなチリチリのコゲカスにしてやんよ!」

「やったるか相棒!」


 そう言って二人の傭兵はビーム砲についているダイヤルを右に回し、最大出力に設定した。

 ビームの威力はさらに跳ね上がり、より大きく、より多くの光を放ち、ジョニーを襲う。


「すごい。まるでぼくのまほーと同じえねるぎーりょーだ……」


 タマリがポツリと感心するように呟いた。

 目を大きくして輝かせながら見ている。


「このままくたばれぇ!」

「れぇ!」


 二人組が舌ぺろしながらガンギマッたような顔で叫ぶ。


 その瞬間、ビーム砲の銃口からカッ!と眩い光が放たれ、辺りを強烈な閃光で包んだ。


 全員が手で目を覆い、目を保護していた。


 俺は目を隠すのが遅れたので完全に目を焼かれ、失明した。

 まぁすぐに治るから良いんだが、めちゃくちゃ目が痛ぇ。


「熱ぃあじじじじじあじぃいいいいいいい!!」


 俺は床に倒れて「目が!目が!」と叫んでのたうち回っていた。


「なんかでじゃぶ」


 再生しつつある目で俺はタマリが首を傾げながら「ぷふ」と笑っている姿が見えた。


「ねぇ、さびたー。もしかして、ジョニー消し炭になっちゃった?」


 タマリが少し心配そうにジョニーの方に目をやる。

 まだ目が慣れていないのか目を細めながら全員がジョニーのいた場所を見つめた。


「んなわけねーだろ。見ろ」


 俺はそうやって前を見るよう促すと、目の前にはジョニーが赤く燃える剣を「ふーふー」と冷やしながら無表情で立っている姿が見えた。


「う、うそだろ……」

「これ、エネルギー貯めるのに1ヶ月かかるんですけど……」


 傭兵二人組は力が抜けて膝を地面に突いて倒れ伏した。

 せっかく100年もローンを組んで性能を自慢しようとしたのに全く活かせなかったのが余程ショックだったのだろう。蹲って嗚咽を漏らしたまま全く立ち上がろうとしてない。


「次は俺だ」


 名乗りを上げたのはまたもや見分けがつかない量産型傭兵だった。

 長い筒のようなものの先端にヒョウタンのような物が装填されていた。


「コイツは龍の中でも特別な種族の火薬袋を使ったミサイル爆弾だ。それを爆発魔法で火力を上げることに成功した科学と魔法の結晶だ。コイツをお前とお仲間もろとも爆散させてやるよ」

「おいそれ俺達も巻き添えになるんじゃねぇか?」

「ククク…コイツの威力を早く試してぇ……!早く、早く撃たせてくれ……!」

「おい!やめろ!俺達も死んじまうぞ!?」


 ミサイルを持った男に他の傭兵はそう聞いたが当のミサイルを持った男はまるで話など聞いておらず、早く撃ちたくてたまらないのかトリガー部分に指をかけてクイックイッとピクピク痙攣させながら恍惚な笑みを浮かべていた。


「ヤバイ。野郎の持ってるミサイル、ありゃ俺の見間違いじゃなけりゃドラゴンバンクRENGOKUだ。あんなん使われたらこのビル全体が粉微塵だぞ」


 俺がそう言うと周りの仲間も敵も騒然と慌て始めた。


「おい!俺はジョニーを殺せとは言ったが俺を巻き込むな!他の!他の武器にしろ!爆発範囲がこちらにまで及ばない程度のだ!」

「ああ……!たまらねぇこのフォルム……!家も車も親父の遺産も嫁の化粧道具もガキのゲーム機も全部売ってまで手に入れたドラゴンバンク!は!早く!ひゃやく撃ちたいっヒィ!」

「誰かソイツ止めろ!このままじゃ俺達全員お陀仏だ!」


 傭兵達が総出でミサイルを持った男を止めようとしたが、謎の力を発揮してまるで体幹が全くブレていなかった。


「ぎゃはは!アイツ等内輪もめしてやがる!ばっかでい!」


 俺は腹を抱えてゲラゲラと大笑いした。

 しかし笑っているのは俺だけで他の仲間は不安な面持ちをしていた。


「オイオイなにそんな不安げな顔してんだ?こっちには剣しか取り柄は無ぇが最強の男が味方なんだぜ?どしんと構えてろよ!」


 そう言って俺はジョニーの肩に手を回して自信満々にそう言った。

 しかし、ジョニーの顔に焦りの表情が混じっているのを観測した。


「……え」


 俺は今まで見たことのない奴の顔に意表を突かれ、心臓の鼓動が急に早くなるのを感じた。


「お前、大丈夫なんだよな?あれ、どうにかできるんだよな?」

「あの砲弾。かなりの威力だ。さしもの俺も対処は出来ないかもしれん……」

「おいウソだろおい!ウソだって言ってくれよ!今俺やべぇんだよ!能力の調子悪いから次生き返るか分からねぇんだよ!頼むよ!俺を助けてくれ!」

「あの、私達の命の心配はしないんですかね?」


 アリーシアが眉をひくつかせながら汚物を見るような目で俺に言って来た。


「お前らみたいな上司見下す奴等なんか知るか!勝手に生き延びてろ!お前らタフだから死なねぇだろ!ジョニー!俺とお前は友達だろ!?俺の事は助けてくれるよな!?」


 俺は縋るようにジョニーを見つめる。

 しかし返って来たのは奴の不安と焦燥しかない顔だけだった。


「死後の国で仲間とまた相見えよう。まぁ、お前は悪事を働いたせいでお前だけ地獄行きかもしれないが……」

「頼むって!どーにかしてくれよ!あんなカッコイイ登場の仕方してこれってダサすぎるぞ!」

「ああもう我慢できない!出ちゃう!俺の核弾頭出ちゃうよぉ!」


 傭兵が発狂と興奮を交えながら叫び、涎を垂らしながらガンギマリの目で撃とうとしていた。


「ああ神様仏様ティアラ様フルエラ様!どうかこの窮地を乗り越えさせてくださいィ!」


 俺は手を重ねて普段天に唾を吐き捨てている神様女神様に必死にお祈りをした。

 恐らく実在していたら鼻でもほじりながら半笑いで小馬鹿にしているだろうが、俺はそれでも必死にお祈りした。


「サビター、もしお前がもう悪事を重ねないのなら、過去の贖罪をし善行を積んで生きるのならば、俺も命を懸けてあのミサイルを止めることが出来るかもしれん」


 ジョニーは冷や汗を垂らしながら俺を見ながら言って来た。

 俺はもはや助かるのなら何でもするつもりだった。

 久しぶりに命の危機を感じていたせいか、生への渇望が尋常じゃなかった。


「食材?でもなんでもするよぉ!ボランティアもするしどんな汚れ仕事もするし便器の掃除もゴミ拾いも悪い奴ぶっ殺すのもなんでもする!だからこの状況なんとかしてくれぇぇぇぇ!」


 俺は涙と鼻水と汗と体中の穴という穴から水分を流し、ジョニーに懇願した。

 周りの目が完全に人間以下の虫を見るような目をしていたが、もはやなりふり構っていられなかった。


「よし、いいぞ」


 俺の迫真の叫びにジョニーは先程の焦りの顔は一切見せず涼しい顔で応えた。

 まるで今までの野郎の表情がウソだったように。


「あ、ああ!出る!もう出ちゃううううううう!!ヴッ!」


 ちょうどその時、傭兵の男がもう我慢できなくなったのか遂に奴のミサイルを発射した。

 ヒョウタンのような大きさと形のミサイルが放たれ、ジョニー目掛けて飛翔した。

 もう彼の近くまで飛んできてジョニーとミサイルの距離は2メートルも無くなった時、ジョニーはまるで一ミリも動かなかった。


 しかし何十何百…いや、何千何万何十万何百万もの剣閃がミサイル弾頭を絡め取るように襲い、いくら斬られたか分からない弾頭は形を保てなくなり瓦解し崩れて塵と化し、最終的には塵すらも消えた。


「え……」


 俺はぽかんとした顔で今見た光景を頭の中で反芻していた。

 ミサイルが消えた。


 斬られて残骸が転がるでもなく、粉々になるでもなく、消えた。

 そう消えたのだ。ミサイルがあった証拠を何一つ残すことなく、塵すらも残すことなく消えた。


「対象を原子の一つ残さず斬る技を最近身に着けてな、名前を【原子回斬】と名付けた。いい名前だろう」


 そう言ってジョニーは涼しい顔でそう言う。

 俺は未だ口を開けたまま奴の顔を見つめたまま奴の顔を視線で追うと、奴の目と俺の目が合った。


「どうしたそんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。そうだ、ちゃんと約束は守ってもらうぞ。いいな?」


 そう言って、ジョニーはクール振った顔から、いたずらっぽく笑みを零して俺に言った。


「ぷ……!」

「ぷくく……!」

「ふふふ……!」

「ふっ……」


「「「「びゃははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」」」」


 俺が呆然としていると、セアノサス、アリーシア、タマリ、アルカンカスが俺を指さして大ばかにするように笑いした。


「ぼくがまほーでジョニーに伝えたんだ。サビターのマヌケ顔が見れるからやってみてって。みごとにひっかかってわらっちゃった」

「こんな、こんなのに引っかかっちゃってマヌケな顔してるの、面白すぎます!」

「さすがに俺も笑いを堪えられん。こんなマヌケツラを見たのは久々だ」

「か、カッコ悪い……ふふふ……!」


 奴等はそれぞれ思い思いの言葉を吐き捨てながら口々に言った。


「お前は本当にバカで面白い。だから俺はお前の事が好きなんだ」


 そう言って「ハッハッハッ」と声に出して笑っていた。

 どいつもこいつも俺を笑っていた。

 人が死にそうになってんのに、このアホたれ共は俺をバカにするためにわざわざ一芝居打ったわけだ。

 しかも普段はこんな事はしないジョニーまで。


「どうだ?騙された気分は?傷つくだろう?」


 鼻で笑って言うジョニーに、俺は一言言わなければならない事を言おうと息を大きく吸い込んだ。


「やっぱお前嫌いだわッッッ!!!!!」


 どれだけ長い時間を過ごそうと嫌いな物は嫌いだと、俺は改めて気づかされた。

 こんなふざけたことで、な。





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