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第92話 俺にも家族がいたら


 多少のいざこざはあったものの、六人は最上階のサビターとアルバアムがいる階へとエレベーターを使って辿り着いた。


 彼等が大暴れしたのにも関わらず、エレベーターはまだ正常に機能しており、扉が開くと目の前の惨状に一同は唖然とする。


 太陽の光があまり届かない、電光だけが照らす仄暗いツルツルとした黒色の壁や床が特徴の大量のコンピューターがあった部屋。

 それが今は災害で全て破壊し尽くされたようなボロボロの状態にあった。


 床は剥がれ天井は抉れ、装飾品は粉々に粉砕され、大量にあったコンピューターは画面がほとんど壊され、まだ使えるものは残り数台しかなかった。


「パ、パパの、仕事部屋が……」


 ビリオネが手を口に当てながら顔を青冷めさせながらショックを受けていると、タマリが「あ」と言って人差し指をある方向に向けた。


 そこにあったのは、仰向けに倒れているアルバアムと、それを見下ろしながら煙草を咥えて吹かすサビターの二人が居た。


「あ、サビターだ」


 タマリが「だいいちしんにゅーしゃはっけん」と言って指をさす。


「見たところ、どうやら決着は着いたようだな」


 アルカンカスが感心するように言う。

 アルバアムは倒れ、サビターが立って見下ろしている様子から、勝敗は見てとれた。


「みどりいろのおじさん負けちゃったね。ビリオネ、どんなきもち?」

「タマリ、わざわざ言うんじゃありませんよ」


 アリーシアはそう言ってタマリの後頭部に軽く指で弾いた。

 しかし見た目よりも威力が大きかったせいかタマリは「いだぁぁぁぁぁい」と言って地面に伏せてジタバタと動いて暴れた。

 タマリのあまりにも迫真の訴えに「そんなに痛かったんですか!?」とアリーシアが仰天していると、アルカンカスが訝しげな声で「おい」と皆に声をかけた。


「サビターが銃を取り出したぞ」

「え?でも大丈夫でしょう?サビターさんは朝昼晩お食事中就寝中常に『ぶっ殺す』なんて言葉使ってるけど口だけですよ。まさかもう戦う意志が無い人を殺すだなんて……」


 アリーシアがサビターの良心を信じながら言う。


「あっ、引き金にゆびかけた」

「止めましょう!すぐに止めましょう!あの人怒りに身を任せて本当に殺しそうです!というかあの人の頭には良心回路というものがないんですか!?」


 しかし彼女の思いは悉く裏切られる。

 タマリの間の抜けた言葉とは対照的にアリーシアとアルカンカスが焦りながらサビターの元に向かおうとしたその時、ビリオネが「やめて!!」と大きな声で制止した。


 彼女の声に、アルバアムは彼女の方に顔を向けてみるみるうちに彼の顔が驚きと焦りに染まる。


「なんで……!?どうして来た!?ビフ!お前、何を考えているんだ!?お前の従うべき人間は俺のはずだ!」


 アルバアムは憤慨しビフに問いかける。


「私が従うのは主人であるアルバアム様と、あなたのご息女であるビリオネ様です。その二人から命令をされたなら、どちらの命令も聞くだけです」

「何をバカな事を……」

「パパと話をしに来たからよ」

「話……?」


 ビリオネの言葉にアルバアムは疑問符を頭の上に浮かべながら目を丸くしつつも、ビリオネに近づく。

 彼女の両肩に手を置きながら説得するかのように「いいかい」と言葉を紡ぐ。


「ビリオネ、よく聞くんだ。ここから離れなさい。この国から出来るだけ遠いところに行くんだ。逃走資金は用意してある。あああと隠れ家も。今はとにかく逃げ──」

()だッ!!」


 ビリオネはいつもの尊大な話し言葉ではなく、駄々をこねる子供のような語気の強い口調でアルバアムの手を振り払って叫んだ。


「パパはいつも一方的に話をまとめて私の言葉なんか聞こうともしない!そういうところが嫌いだった!」

「な、何を……」

「私は!ママが死んだ後パパの様子がおかしくなってたのは分かってた。復讐に取り憑かれて、この国を滅ぼそうとしていることも、ホントは全部分かってた。パパは愚か者で大量殺人者よ!でも、分かってたのに、それを止めなかった私は、もっと酷い悪人よ……だから私も、同罪なの……」

「何を、な、何を言っているんだ?君は…君は悪人なんかじゃないよ」


 ビリオネの思いの丈をぶつけた独白に、アルバアムはしどろもどろになりながら語りかける。


 今までのような落ち着いた飄々としたような雰囲気はなく、娘の怒りと悲しみをぶつけられ、どうすればいいか分からない頼りないただの父親しかいなかった。


「君は関係ないんだ。全く、これっぽっちも。悪いのは俺なんだ。ずっと憎しみに囚われてた俺が悪いんだ」


 アルバアムはビリオネを、あるいは自分自身を説得するかのように語りかけて説明した。


「でもこの感情はお前にはまるで関係ないんだ。だから俺は君を遠ざけたかった。ビリオネ、君が罪悪感を抱く必要も、僕と同じ罪を背負う必要はまるでないんだ。だから……」

「そうやって私を遠ざけるのはやめてよ!辛いなら辛いって言ってよ。私じゃ役不足かもしれないけど、もっと私を頼ってよ。私にもパパを頼らせてよ……」


 項垂れながら、ビリオネは両膝をつき俯いて涙交じりに言う。

 

「関係ない、全部自分が悪い、そうやって遠ざけられた私の気持ちがわかる?私だっていつも怒ってたよ。なんでママがあの時死ななきゃいけなかったのか、なんで他の子のママは生きてるのとか、ずっと思ってたし、今も思ってる!ずっとこの憎しみは消えてない」

「ビリオネ……」


 アルバアムはビリオネの言葉に彼女の名前を呟くことしか出来ずにいた。

 しかしビリオネは「でも!」と否定の言葉を放った。


「私は、サビター達を見て、考えが変わったの。過去に囚われて後ろを向いて、ずっと怒ったまま生きてたら、過去の私達も未来の私達も可哀想だよ。そして何より、私達と一緒に生きられなかったママが可哀想だよ」

「……!」


 ビリオネの話にアルバアムは目を大きく見開き、驚いた顔を見せたもののすぐに口元を緩ませ、何かを悟ったかのように、気づいたかのように俯いた顔を上げてビリオネを見つめた。


「娘に説教されるなんて、僕は本当に父親失格だよ」

「本当ですわ……!でも、もっと近く歩み寄れた気がしますの……」


 アルバアムは膝を降り、片足を地面につけ、そっとビリオネを抱き寄せる。

 ビリオネもまた、いつもの口調へと戻り、アルバアムを強く抱きしめる。


 親子の抱擁が半壊したビルの最上階で行われる。

 しかし二人は満足そうに微笑みながら抱きしめあっていた。


「ったく、暴徒に店の窓壊されて武器のために無駄金使わされてこっちゃ良い迷惑だぜ。しかもクーデター起こしたくせに呑気に親子でハグしあってやがる。時と場合を考えろってんだ」


 その様子をサビターは吸い終わったタバコの吸い殻を地面に落とし、踏みつけながら忌々しそうに文句を言っていた。

 しかし、その顔はどこか寂しそうで、羨望の眼差しを向けるような顔をしていた。


「俺も、親や家族が居たらあんなふうに喧嘩して仲直りして、抱いてもらってたのかもなぁ……」


 そんなことを呟きながら遠い目をしていると、サビターの胸元に、ふわりと柔らかい髪が当たった。


 どこかで嗅いだことのある、優しい香りが彼の鼻腔を刺激し、奥底に閉じ込められた記憶が叩き起こされるような錯覚を感じた。


 突然の感触にサビターは「あ……」と小さく声を零しながら顔を下に向けると、そこにはセアノサスが彼を力強く、決した離さんとしがみつくように抱きしめていた。


「なんで、来ちゃうかなぁ……」


 セアノサスは顔を上げず、サビターの胸に顔を埋めたまま、声を少し震わせて言った。

 言葉の内容とは反対に、彼女の声色には喜びの感情が混じっていた。

 それをサビターは知ってか知らずか、鼻で笑うとセアノサスの頭にポンと手を置く。


「手間かけさせやがって。お前のせいで俺はまた一文無しだ。知ってるか?この弾丸一発100万グラッドもするんだぜ?フルマガジンにしたら小さい家が買えるくらい高価なんだぞ?しかもこの黒い戦闘アーマー見ろよこれ、億は行くぜ億は」

「なんで…そこまでして私の所に来たの?あんなに突き放したのに……」


 セアノサスの問いに、サビターは黙り込み、一瞬視線を上に上げて考え事をすると、鼻から息を吐いてセアノサスを見つめた。


「お前が大事だからだ」


 サビターは真面目な表情で言った。

 その言葉に、セアノサスはハッとした表情で顔を上げた。


「散々文句言ったが、この俺に掛かれば金なんざいつでもどこでも作れるんだよ。だがな、バカやれる仲間や家族、愛してる女は、そう簡単には手に入らねぇ。だから迎えに来ただけだ」

「あ、愛してる女……!?」


 セアノサスは首から頭のつむじまで徐々に肌を真っ赤に染めながら聞き返した。


「お前がどれだけ逃げようが悪態突こうが、ナイフで胸や腹ぶっ刺してこようがな、絶対俺はお前を離さねぇ。セアノサス、ずっと俺のそばにいろ」

「は、はい……!」


 サビターの堂々とした真っ直ぐな言葉にセアノサスはうれし涙を流しながら芯から身体を火照らせた。

 彼女の肩を右手で軽く抱き寄せながら正面を見ると、満足げな顔で自分とセアノサスを見つめるアリーシア、タマリ、アルカンカスの姿があった。


「そうか、俺にも居たんだな……」


 サビターは自身を嘲るような自虐的な笑みを零す。

 しかしその笑みは後ろ向きな物ではなく、何か大切な物を見つけたような前向きな笑みだった。


 そして、正面を向いていたサビターだけが気付いていた。

 音も立てずに現れた大量の傭兵達が、自身やセアノサス、仲間の三人やアルバアム達に赤い光線を当てながら一斉射撃をしようとしている所を。

 





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