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第91話 騙されたな!ガハハ!あっ!ごめんなさい!助けて!


「うわあああああああんみんなごめんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 セアノサスは涙と鼻水を流して垂らしながら大声で叫んで謝っていた。


「はいはい。もう分かりましたから。だから泣き止んでください」


 騒音にも近い大きな声にアリーシアは耳を塞ぎながら微笑んで言う。


「あああああああああああああ!!!!!ああああああああああああああああんんんんん!!!!!」

「もういいですよ~泣かなくて大丈夫ですからね~」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!」

「うるさっ!もういいですから泣かなくて!さっきからうるさすぎて本っ当に耳が痛いんですよ!」


 あまりにも大声で泣き止まないセアノサスに遂にアリーシアはキレてしまう。

 しかし凡そ人間とは思えない獣のような泣き声に、アリーシアは辟易しながら目袋と口元をひくひくと痙攣させていた。


「ピージャにもまけずおとらずのぜっきょーだね」

「もうそれ以上叫ぶのはやめておけ。喉を壊すぞ」

「……」

「あ、だまった」

「い、いきなり落ち着かれるとそれはそれで不気味ですわね……」


 さっきまで豪快に声を出して泣いていたのに突然涙と叫び声を止めて真顔になるセアノサスに一同は驚くとセアノサスはふにゃりと表情を柔らかくすると、


「皆、ありがとう」


 そう言ってはにかんだ顔で全員にお礼を言うと、恥ずかしさを隠すかのように直ぐに後ろを振り向く。


「それじゃあ、サビターと雑草の所に行こうか。私とビリオネちゃんを待ってるみたいだし」

「…それもそうですね。こんな所で道草食ってたら、サビターさんに何やってんだってどやされちゃいますから」

「ところで、ライラさんはどこに居ますの?先程から見かけないのですが……」


 ビリオネは周囲を確認しながらライラを探すように言った。

 彼らの仲間であるはずなのに彼女だけがいないというのはどうにも不自然に感じいた。


「…?ライラさんなら今ここにいるじゃないですか?」


 アリーシアがセアノサスに指を向けてビリオネに言うと、ビリオネは首を傾げながらセアノサスを見つめる。


「え?全然別人じゃありませんこと?髪型も色も身長もまるで違いますわ」

「あっそっか。実は彼女は……」


 アリーシアはビリオネの言葉に何かを理解したように納得し、彼女に真実を教えてあげようとしたが、タマリが彼女服の裾を引っ張ってそれを阻止した。


「アリー、ししょー。ちょっと耳かして」


 そう言ってタマリはアリーシアとセアノサスにこそこそと彼女達の耳元で話し始め、それを聞いた二人は「それいいですね」「いっちょやりますかぁ」と頷く。


「え?え?一体何を話していますの?」


 ビリオネは訳が分からず二人に聞くが、アリーシアとタマリとセアノサスは頷き合うだけでちゃんと答えはしなかった。

 そして、


「うおっほん……お?なんじゃなんじゃ?ここにスイーツ勝負で惨敗した負け犬のくっさぁ〜い匂いがするのう?」

「!?」

「それにワシの正体すら見破らない節穴のお嬢様の匂いまでする。あぁ〜なんという臭さじゃ、ワシャこんな匂い耐えられんのお〜」

「!?!?」


 ビリオネは目をカッと見開き口をあんぐりと大きく開けながら驚いた表情で見つめると、ワナワナと体を震えさせて次第に顔が真っ赤に変わっていく。


「あ、貴方もしや、貴方もしやライラさんですの!?」

「お、ようやく気づいたようじゃのう。まぁワシほどの美貌と一流の演技力ともなると、お主みたいな素人なぞ一生騙し続ける事も出来たわけじゃが、流石にそれは可哀想だからのう、種明かしをしてやった。感謝するがいいわ!」

「……」


 ライラだった時と同じ口調で喋り倒して高笑いをするセアノサスだったが、それとは反対に押し黙るビリオネ。


「?なんじゃ?何を黙っておるんじゃ?悔しくて泣いておるのか?」

「おお、ししょーすごい。もしぼくだったらいっぱつ殴りたくなるような顔だ。ぼくもさんこーにしようっと」

「タマリ。手本にも良い物と悪い物があります。これは悪い手本ですから真似しないようにしましょうね」

「一度ならず二度までも……」


 アリーシアがタマリに諭すように語りかけていたその時、ビリオネが口を開いた。

 喋り方自体は落ち着いていたが、言葉の一つ一つ単語の一つ一つから怒りが滲み出ていた。


「私を騙し、恥を与え、挙句に煽り倒すとは……このビリオネ…もう我慢なりませんわ……!」


 ビリオネの目は本気で怒っており、牙を剥いて今すぐにでも襲いかかりそうになっていた。

 なんとか理性で抑えていたようだが、餌を長時間与えられていない野獣の如き血走った目とハーッハーッと荒い呼吸をしながらどうにか襲わないよう努めていた。


「なんて我慢するわけありませぇぇぇんっ!!」

「ギャアッ!?」


 結論、ビリオネは我慢ならなかった。

 セアノサスに襲いかかり、取っ組み合いの喧嘩に発展していた。


「な、なんじゃあこの獣は!?お嬢様なんてお優しい物じゃないぞ!?」

「ガルルルルルルッ!!」

「おいそこの執事!自分の主人が暴れておるぞ!さっさと止めんか!?」


 セアノサスはそう言ってビリオネの執事、ビフに訴えたが、ビフは背筋を伸ばしたまま両腕を後ろに組みながら


「この前は抑え込みましたが、今回はストレスの緩和の為しばらく放ってあげましょう。何事も我慢のし過ぎは良くないですからね」

「やめ、やめろ!ぐああっ!分かった!ライラモード解除!解除!もう私はライラじゃありませーん!ただの美人お姉さんのセアノサスでーす!だからもうやめて!」


 ライラの口調から普通の口調に戻ったセアノサスが「タイム!タイム!」と言って逃げ回っていたが、ビリオネは彼女の言う事などまるで無視して追いかけ回した。


「助けて!助けて!アリーシア!タマリ!アルカンカス!見てないで助けて!」


 セアノサスは付き添いの執事がダメならと3人に助けを求めた。

 がしかし、彼女の声は聞こえたはずなのに顔を逸らして聞こえないふりをした。


「おっ、1グラッドおちてた。ラッキー」

「前髪が掛かって前が見えないわ。耳元にも髪が掛かって……」

「……」


 タマリは床に落ちてたコインを拾い、アリーシアはなぜか前にある長い髪をあーでもないこーでもないと弄り、アルカンカスはボーッと天井を見つめていた。


「…え?な、なんで?なんで助けてくれないの?」


 セアノサスは絶望と焦燥が混ざったような表情で三人を縋るように見つめて言った。


「こーいうときだけ助けをもとめて、大事な時だけじぶんでかいけつしよーとするししょーにはたまには痛い目にあったほうがいいとおもうんだよね」

「これを機に人として成長できると良いですね」

「誰かに助けを求める事は決して恥ずかしい事じゃないからな」

「バ、バカな……!」


 う、裏切られた……!とセアノサスは愕然としながらショックを受けた。


 三人は穏やかな表情でそう言ったが、今のセアノサスにはそれをありがたがる余裕も時間も無かった。

 何故なら。


「おうゴラァ!今までコケにした分のツケ払ってもらおうか!?あぁ!?」


 芯までキレてお嬢様言葉のおの字もない怒り具合で迫り来るビリオネをどうにかしなければならないのだ。


 ここでセアノサスは遂に思い知った。


 ちゃんと悩みは相談し、助けて欲しいなら正直に言う。


 そんな当たり前のことだが大事な事を、ビリオネに髪を無造作に引っ張られ馬乗りにされて泣かされながら、セアノサスは悔し涙を流しながら強く噛み締めるように心に決めた。




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