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第75話 楽しいなら手で殴ろう


 私は一瞬で片を付けるべく、脚部に魔力を循環させ、地面を蹴り上げてチェンに近づく。

 魔力を脚に溜めて即座に放出したことで、人間が出せる瞬発力を超えて一気に距離を詰めることができた。


「ハァッ」


 私の三節棍で脳を叩き終わらせる、そのつもりで上からチェンの頭部めがけて三節棍を叩きつけた。


 ところが、私の一撃は弾かれた。


「えっ!?」


 私は声を大にして驚いた。

 何故ならチェンも私と同じ三節棍を使って応戦していたからだ。


 彼は両手で三節棍を掲げて真っ直ぐに伸ばして防御を取った。


「同じ得物で楽しもう」

「何もない所から出すなんて貴方はマジシャンか何かですか?」


 私は毒づきながら答える。

 本当は早く終わらせたかったのに。戦いが長引きそうな予感がしてとても不愉快だったからだ。


 でも、私は何処か喜びのようなものを感じていた、


 敵を倒し損ねたのに、どうして私はこのような感情を得ている?

 自分の感情なのに、私にはそれが分からず自分自身を不快に感じた。


「そう睨むな。美しい顔が台無しだ」


 チェンはそう言ってニヤリと笑う。

 ハゲの坊さんみたいな見た目と服装をしているくせに言う事が軽薄だ。


「さっさと倒れてください」


 私は再び攻撃する。


 今度は一撃などではなく、ヌンチャクを扱うように両手で振り回して高速回転させた上下左右乱れ撃ちで三節棍を振りまくった。


 だがチェンも私の振るう位置に三節棍を振って私の一撃の一つ一つを確実に弾いている。


 まるで舞踏や演舞のような美しさを感じさせる動きで三節棍を操っていた。


 木製の固い棒二つがガンッ!ガギィン!と激突し合って鈍い音が鳴り響くが、私やチェン本体がそれに当たることは無く、お互いの攻撃をいなし続けている。


 三節棍の魅力的な所は固い棒を鞭のように振り回し、攻撃できる。


 振り回して遠心力を加えれば威力は増し、それに加えて名前の通り三本の棒で叩いたり、二本の棒でエスクリマスティックのような棒術を使い、逆に防御をすることもできる。


 しかし、相手も同じように使えばあまり効果は発揮しない。


「あっ……!?」

「む……」


 私とチェンの攻撃が同時に被った時、バギャンッ!と壊れる音が鳴った。

 三節棍が同じタイミングで二つとも壊れた。


 チェンはもはや道具として機能しなくなったそれを無造作に投げ捨て、代わりに壁に飾られていた青龍刀を取った。


「ほら」


 チェンはそう言って私に彼と同じ青龍刀を投げ渡した。

 私は彼の意図が分からず首を傾げて青龍刀を見る。


「なんのつもりですか?」

「さっきも言ったろ?楽しむんだ。すぐに終わらせたらもったいないだろう?」


 チェンはそう言って私と同じ青龍刀を右手に携え、右手を首を回して器用に振り回して演舞のような動作を行う。


「どうだ?綺麗な舞だろう?」


 チェンはそう言って自慢するかのように鼻高々に言う。


「武術に美しさや華麗さは不要です」


 私は吐き捨てるように言って青龍刀を構える。


 この男は一体何を考えているのだろうか?

 命を懸けた戦いをしているというのに勝つか負けるかを気にしている様子が見受けられない。

 側から見れば遊んでいるようにしか見えない。


 何故か、無性にイライラする。


 自分でもわからないか苛立ちに振り回されそうな感覚に陥るが、深く深呼吸をして自身を落ち着かせる。


 落ち着け。

 冷静に相手の動きを見極め、隙を突いて倒すんだ。


「行きますよ」

「ああ、いつでも来るといい」


 私は苛立つ気持ちを抑え、再び駆ける。


 私は右手に持った青龍刀を右斜め下に振り下ろす。


 チェンは左半身となってこれを避け、背後で右手から左手に青龍刀を持ち替え、刃を突き立てる。


 私は一瞬脳で危険信号を感知し、青龍刀を逆手に持ち替え、刃でそれを受け止める。


 ギリギリと鋼と鋼が擦れる音がして、私は数は距離を取り、再びチェンに攻撃を仕掛ける。


 チェンは私の青龍刀の乱撃を受け止めたり、躱したりして凌いでいた。


 今までの敵は私の体が温まる前に既に倒れていたが、この男は違う、かなり強い。


 私の師匠にも匹敵する強さだ。

 私の攻撃を余裕をもって受け流し、反撃も欠かさない。


 ……楽しい。


「!」


 私が思考に気を取られながら戦っていると、私はチェンの青龍刀を勢いをつけて攻撃をしたおかげで弾き飛ばし、壁に深く突き刺さった。


「……」


 一瞬私の思考が何かに侵食されかけた時、チェンの黒い、真っ暗な闇のような瞳が私の目を射抜く。


 私は彼の目から逃れるように目を逸らし、剣を構える。


「オイオイ、そりゃちょっとないんじゃないか?」

「は?何がです?」

「俺はこの通り丸腰だろう?ならばそちらも剣を捨てて己の身体で戦わないといけないだろう」


 チェンは当たり前のことをいうかのようなトーンで言う。


「うるせぇぞリューチャーフィー!こっちは急いでんだ、黙ってぶっ殺されてろよ!アリーシア、あんな中華風ハゲの言うことなんか聞く必要ねぇ、さっさとぶっ殺しちまえ。俺が許す。なんなら俺が殺すか?」


 相変わらず人でなし丸出しの発言をするサビターさんを尻目に私は思考を巡らせていた。


 何か意図があるのか、隠し武器を持っているのか、作戦でもあるのだろうか、そんなことをグルグルと頭の中で反芻するかのように考えている。


 でも、私はああいう彼のような思考の人間を何回か見たことがある。


 命の安全など二の次にして戦うという行為に悦楽を見出す戦闘狂。


 このまま青龍刀を使って戦えばいい。

 私達の目的はライラさんを救出して連れ戻すこと。


 そのためにはできるだけ早くこの戦いを終わらせて上がらなければならない。

 それは分かっている、分かっているけど……心の奥底で、私は何か別のことを望んでいる。


 私はどうしたい?

 何がしたい?


「……」


 私は一度思考を放棄し、青龍刀を床に落とした。


「おいアリーシア?何やってんだ〜?握力弱くなっちゃったのかな?分かるよ〜重い物持ってると手痛くなるもんね。うんうん分かる分かる。だからとっととその剣持ってそのハゲぶっ殺せや!」


 サビターさんが「こっちは急いでんだ!ティックタックティックタック!」と言ってつけていない腕時計を指で叩き、猫撫で声を上げたかと思えば今度は金切り声でキレた。


 忙しい人だなと思いつつ、私は顔を少しだけど彼に向けて微笑む。


「あ?何笑ってんだ?笑うところじゃねぇぞ?」

「サビターさん、アルカンカスさん、ちょっとだけワガママに付き合ってもらってもいいですか?」

「ああ?」

「ん?」


 私はそう言うと、再びチェンに顔を向け、両腕を突き出し、腰を落として脚を広げて構える。


「私、ちょこっとだけこの戦いを楽しみたいんです。どうか少しの間だけ許してもらえませんか?」


 私の言葉に、二人は数秒黙ると、サビターさんが大きなため息を吐き、アルカンカスさんは「フフ」と笑った。


「そうだな、お前は賢いかと思ってたけど俺達と同じバカだもんな。だったらちょこっとなんて言わず全部ハッスルしてスッキリさせろ。それが終わったら文句言わずにちゃんと命令聞けよ、分かったな」

「アリーシア、お前の全力をその坊さんにぶつけてやれ」


 二人は私の背中を押すような言葉を彼等なりの言葉で私に送った。


 私はその言葉に少し嬉しさを覚え、拳を握る。


「はい!」


 私は不謹慎ながらも、目を爛々と輝かせ、口角を大きく上げて気持ちを高揚させながら答えた。


 



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