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第61話 俺無宗教だぞ


 サビターさんを刺した私は、彼の血で真っ赤になった手を見て震えそうになるのを無理やり押さえ込んだ。


 全ては彼を救うため。私は心を殺さなければならない。どれだけ他人を犠牲にしても、かつて私を受け入れてくれた仲間も、そして、偽りの私を受け入れてくれた今の仲間にも。


「しかし、殺してしまってよかったのか?彼は君の想い人だろう?」

「もう昔の話です。私はただこの力を私の望むことに使いたいだけ。そのためにも彼には死んでもらった。それだけですよ」

「案外冷たい子なんだね。ま、いいさ。今日は忙しくなるよ!貧民街以外の地区でも計画を進めなければいけないからね。ついでに王様を殺さないといけないし」


 アルバアム、雑草はそう言って笑いながら一番上にある部屋全体を見渡せる彼専用の部屋へと戻っていく。


 彼の部屋には私が作った錬金道具、四角いキューブ状の形をした【断空の箱舟】があり、あのアイテムのせいでジョニー団長達は次元の狭間に閉じ込められている。


 でも一生隔離できるわけではない。私が【聖者の花】を手に入れて薬を調合し、箱舟の能力を解除して彼らをこの国に戻し、コイツらを潰す。


 サビターさんを治した後は国家転覆に加担した罪を受け入れて牢屋だろうが死刑台だろうがどこへでも行ってやる。私の目的はただ一つ、あの人を助ける事。


 今は冷酷な狂気の錬金術士として振る舞ってあげるわ。でもそれも後少しよ。せいぜい今のうちに楽しんでおけばいい。


 私はもう二度と大切な人を失ったりしない。


 そのためなら他人を見殺しにしようと、大量虐殺に加担しようと、この身が地獄の炎で焼け焦がれようと構わない。


 今の私は雑草にとって協力的なパートナーに見えるのだろう。私を疑っている様子はない。隙を突いて箱舟を取り返し、クーデターを終わらせる。


 私は密かに決意をした。だが、私の見通しは案外甘かったと、この後身をもって知ることになる。私は知らなかった。雑草という人間の本性を。








 青紫色の夜空が広がる森の中で、俺は目を覚ました。真っ暗な闇の空に星々が爛然と煌めき、思いのほか視界は良好だ。


 森の中は気がいっそう生い茂っていた。そのままずっとそこにいると、木に取り込まれてしまうそうな不安を抱いた。


 俺は森の中を抜ける為歩き続けた。特に行くべきところもないが留まる理由もないからだ。


 俺はただひたすらに歩くと、その先に淡い光を放つ扉があった。おそらくあの先がこの場所を抜けるための扉なのだろう。俺はそう思うと扉に近づき、ドアノブに手を伸ばす。


「やめときな。君にはまだそれを開けるのは早いよ」


 しかし、誰かが俺の手を掴んで扉を開けるのを止めた。その人物は女性だった。声の高さもそうだが、俺の腕を掴んだ時の手の柔らかさで分かったのだ。


「……アンタ誰だ?」


 俺はボーッとしながら彼女に振り向く。空はこんなにも輝く星で照らされてるのに顔は何故か暗くて見なかった。髪の色でさえもわからない。


「私?私はー……キミの神様かな?いや、支配者?先生?家族……?」


 はっきりせず煮え切らない回答に俺は眉を歪ませながら胡散臭そうに彼女を睨んだ。


 だが、何故か親しみを感じる。ずっと一緒にいる友達、いや相棒のような、そんな気持ちがあった。


「久々にこっちに来たね。10年振り?」

「何言ってんだ?」

「やだなぁ、まさか私の事忘れた?あんなに助けてあげたのに?」

「いや、悪いが覚えてない。どこかで会ったか?」

「嘘でしょ!?あんなに助け合って戦ってきたじゃん!バッドボーイズのマーカスとマイクみたいにさ!『共に生き共に死ぬ。一生悪友』って誓い合った中でしょう!?」

「そんな約束してねぇよボケ!俺はお前の事初めて見たわ!誰なんだよ!?」


 意味の分からない事ばかり垂れ流しているこの女の言葉に俺は混乱する。本当に誰なんだコイツは。馴れ馴れしく接してくるせいで、本当にもしかしたらこんなダチがいたかもしれないという錯覚に俺は陥っていた。


「ほら、なんだっけ。キミ、頭に大怪我追って錬金術で治してもらったじゃん?」

「ああ」

「その時に使われた素材が私だったんだよ!まぁ私っていうか私の作った創造物だけど」

「つまりどういうことだ?」

「私は貴方の神様です!」


 もはや説明するのがめんどくさいと感じたのか、丸め込むようにして言い放った。


「俺無宗教だぞ。神なんてただの一度も信じたことないし、もしここが死後の世界なら暗い森じゃなくて雲の上だろ。つくならもっとマシな嘘つけよ」

「いやこの状況から見てどう考えてもあの世でしょ。キミの身体今ゴミ箱に入ってるんだよ?」


 俺はこの女にそう言われ、ハッと思い出した。そうだ。俺はセアノサスに胸をナイフで刺されて、吹き飛ばされた上バスケのダンクシュートのようにすっぽりとゴミ箱に落ちたのだ。


「…じゃあ俺本当に死んだのか」

「まぁほぼ死んだ。でもすぐに生き返るよ。あの子の作った薬キミを殺すために作られた訳じゃないし」

「は?それってどういう……」


 俺は「意味だ」と最後まで言おうとしたが、ドクン!と心臓に違和感を感じた。頭の中で、というより身体全体が鼓動を打っている。


「あ?なんだこ、れ?」


 ゆっくりとしたリズムの鼓動はどんどん早くなっていき、音も大きくなっていく。気のせいか景色が歪んで溶けているような気がする。


「あっ、もう時間か。じゃあまたね。そうだ、自己紹介するの忘れて名前を言ってなかったね。私の名前は──」


 女がパクパクと口を開いて何か言っていたが、心臓が早鐘を打ち、音に囲まれて何を言ってるのか聞こえず、俺は誰かに後ろから首を掴まれて引き摺り込まれるような錯覚を味わった。


 




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