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第59話 イメチェンどころじゃねぇだろ


 俺はアルバアムと対面すると同時にライラを探した。だがこの部屋を見渡しても彼女らしき姿はない。監禁されている可能性も考慮し、俺はいつでもB.B.を抜けるように警戒しておく。


「いやぁまた会えるとは!これはもはや天命だ!さ、どうぞこちらに座ってください。色々とお疲れでしょう?」


 アルバアムは俺に気遣いながら席に座るよう誘導する。しかし前とは違う落ち着いた雰囲気は無かった。


「いや、立ったままで構わない。長居する予定はねぇからな」

「そうか……まぁ君がそう言うなら構わないが……」


 残念そうに言うと、彼もその場に立ったままになる。


「まず聞きたいんだが……」

「うん、なんだい?」

「なんでお前ら一企業が街中を監視してんだ?」


 俺はモニターに目を向けながらアルバアムに聞いた。モニターと呼ばれる液晶画面は街中のありとあらゆる場所を映していた。俺がいる部屋にはそのモニターを見ながら何かの作業に従事している社員達が大勢居た。ただの商人、ビジネスマンがやることではない。


「ま、それはこの際どうでもいい。俺はただライラを──」

「そうそう!そのことについて話したかったんだ!」


 アルバアムは若干興奮気味に俺に近づいて言った。俺は突然の気持ち悪い態度に思わずB.B.に手を伸ばしかけた。


「我々はあるプロジェクトを進行中なんです。完遂すればこの街は生まれ変わり、美しい国へと変わる。10年とちょっとはかかったが、いよいよ計画は大詰め、しかし人手が足りない」

「ふーん、あっそ。都合の良い奴隷が見つかるといいな」


 アルバアムはペラペラと得意げに話し始めた。さっきと変わらず興奮しながら話すその姿は少し正気を失っているようにも見える。


「サビターさん、貴方は確か貧民街出身でしたよね?」

「あん?何だ藪から棒に?」


 アルバアムは不意に俺の埋まれの事について聞いてきた。何故知っているのかと聞こうと主思ったが、直ぐにどうでもよくなり考えは霧散した。


「私も同じなんですよ。貧しい家に生まれ、力も弱く、それに何より無知で無学だった。でも出会いには恵まれ、私はある女性と出会った。その時私は運命を感じた。ああ、彼女を守ることが私の使命なんだと」

「へー」

「私と彼女はすぐに結婚しビリオネが生まれ、慎ましい暮らしですが幸せな生活を送っていた」

「ふーん」


 突然アルバアムは彼自身の経歴を語り出し、ついでに惚気まで語り出した。他人の幸せ話など聞いていても死ぬほどどうでも良いので俺は空返事で適当に相槌を打っていた。


「しかし、妻は10年前にこの世を去ってしまった。殺されたんだよ」


 途中まで張り付いていたような笑顔だったアルバアムの顔は突然無機質な表情に代わる。


「妻の死因は刃物で刺された事による失血死。強盗か薬中か快楽殺人鬼か、どれが正解かは分からないが私は失意の中誓ったのです。もう私のような人間は出すわけにはいかないとね」

「アンタ達家族に悲劇が起こった事は分かった。だがそれとこの監視になんの関係がある」

「それを説明するためにまずはモニターを見ていただきたい。今始める所だったんだ」


 そう言ってアルバアムのモニターを監視している社員に「始めて」と言い、その言葉に答える代わりにキーボードをカタカタと鳴らす。


 その瞬間、街中でサイレン音にも似た奇妙な音が鳴り響く。映されたのは貧民街、主に人生の落伍者が集う死の街だ。


 皆身なりが悪く、汚れた身体に汚れた服、画面越しからでも異臭が伝わる程には生活水準は良くなかった。


 そんな彼等の様子はサイレン音を聞いた途端豹変した。それぞれ道に座っていたり、喧嘩をしたり、物を盗んでいた奴等は急に動きがピタリと止まり、脱力したかのようにだらんと項垂れる。


 そして。


『お、おおおおおおおおッッッッ!!!』


 住人の一人が雄叫びを上げた。それに呼応して、他の奴等も続々と雄叫びや奇声、怒号を発し、お互いを攻撃し始めた。


『ギャアアアアアアア!!』

『ウウウウウウウウ!』


 住人達は目がバキバキにキマッており、殴る、蹴る、爪で引き裂く、道具や武器を使って争いを始めた。


「な、なんだこりゃ!?」


 俺は驚いて声を上げた。貧民街の住人達全員が凶暴化して暴れている。無気力で目に光が宿っていなかった奴等が、目をぎらつかせながら目の前にいる人間を全力で殺そうとしていたのだ。


「君達が作ったポーションとそれを基にした恐怖と憎悪を付与した改良品を混ぜた食料を彼等にボランティアと称して配っていたんだ。いやぁ、実際に目にするとこれまでの苦労が報われるよ」


 アルバアムはハンカチを目に当てて溢れた涙を拭く。


「俺達のポーションでこんなモン作ってやがったのか」

「ええ。でも報酬は十分渡したし不満はないでしょ?」

「まぁな」


 俺は鼻で笑いながらそう言った。確かに金はたんまりもらってフェアな取引をした。それに対して文句はない。それに俺はもうギルドの人間じゃない。だからこのようなテロ行為を目の当たりにしてもどうにもする気はない。


「これから我々は貧民街を浄化した後王国を落とすつもりだ。そこでサビターさん、改めて我々と取引をしないか?」


 アルバアムは微笑みながらぶっ飛んだ事を言ってきた。国を落とす、そんな絵空事を平然と口にしているが奴の目は本気だ。国を落としたその先を見ているかのような、どこか遠い目をしていた。


「オイオイマジで言ってんのか?この国を落とす。前から思ってたが、アンタ本当に頭のネジがぶっ飛んでるなあ」

「ははは、これでも昔は消極的な性格だったんだよ?でもまぁ10年前にはそんなキャラとは決別した。イメチェンだよ」


 アルバアムは笑いながらそう言った。さっきから異常にテンションが高いこの男の言葉に辟易しながら俺は話を聞いていた。イメチェンどころじゃねぇだろ。


「どうです?貴方だけでなくアリーシアさん、タマリくん、アルカンカスさんも一緒に我々と働かないかい?報酬は今までの比ではないよ。一生使っても使いきれないほどの金を稼ぐことが出来る。それは君にとってもやりたいことじゃないのかい?」


 アルバアムは俺を説得するように語りかけて言う。確かに俺は金が好きだ。金があれば大抵なんでもできる。女も酒も食事も、この世の楽しい事が死ぬまで楽しめるのはそりゃ最高な事だ、と俺は自分で自分に言い聞かせる。


「ああ〜今の話めちゃくちゃクラッと来たわ。めちゃくちゃ魅力的過ぎるぜ」

「ほう!それでは乗ってくれるということかな?」

「アホ抜かせ。んなわけねーだろうが。俺はな、お前らの国家転覆とか王になるとかそんな壮大な空想物語には興味ねーの。そもそも俺がそんなのに加担したら俺はジョニー達に消されるぜ」

「ニーニルハインツギルドの事かな?彼等は異次元の空間に消し飛ばしたんだ。戻っては来ない。心配いらないよ」

「お前アイツ等のしぶとさ分かってねぇな。アイツ等はゴキブリ並だぞ。なんせ俺と同じ戦場で一度も死なずに生き抜いてきたんだからな。お前後で覚悟しといたほうが良いぜ?」

「はは、そうか。一応考えておくよ」


 アルバアムは大して気にもせずに言う。今のうちにせいぜい笑ってろ。俺はとっととこの国から逃げるぜ。まだ死にたくねぇし。


「そんな事より俺はライラを連れ帰りに来ただけだ。じゃないと俺は店に入れてもらえないんでな」


 俺は逸れに逸れた本題を引っ張り出す。俺はこんなイカレた奴相手している暇はない。ライラには帰ってきてもらわんと困るのだ。


「ライラ……?ああ、あの少女の事ですか。彼女はここにはいませんよ?」

「とぼけるなよ。いるんだろここに。お前アイツの事勧誘してただろ」

「まぁ勧誘はしましたが、彼女は来ませんでしたよ。まぁ代わりに……」


 アルバアムが言葉を全て紡ぐ前に、上の階段から一人の女性が現れた。


「お前……!?」


 その人物は肩にかかる程に長い青髪で大人びた雰囲気を持つ女だった。俺はその女を良く知っている。だが何故この場に居るのか理解できない。


「セアノサス……!?」

「お久しぶりですね、サビターさん」

 




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