第48話 誕生日パーティーへ行こう③
「うぇい!うぇい!ぐびぐび行くぞオラ!」
アリーシアは見ず知らずの他の客の肩を強引に掴みながら酒をどんどん飲んでいた。
完全に俺達の知っているアリーシアではない。
今ここにいるのは酒飲みゴリラ女だ。
何故酒を飲んだのだアリーシア。
お前はもっと頭が冴えてる奴だと思っていたのに。
あれか?一度酒を解禁すると頻繁に飲みたくなっちゃうあれか?アルの中って奴か?
俺の組織には中がつく野郎はいらねぇんだよ!
「アリーシア?酒入って楽しくなるのは十分分かるがやめとけ?後で後悔しちゃうぜ?」
「あぁん?サビター?テメェこの野郎……お前のせいでぅあたしがどれだけ精神すり減らしてっと思ってっだコラー!?」
アリーシアは俺に中指を立てながら酒を飲む。
既に顔は真っ赤っか、目は座っており焦点があっていない。
ヤベェコイツ完全に聞く耳持たねぇ。
「サビターサビター」
ライラが俺の袖をちょいちょいと引いた。
「これをアリーシアに飲ませろ。酔い覚ましとアルコール耐性が付く薬を混ぜてある」
ライラは冷や汗をかきながら俺にそう言って半ば強引にシャンパンとよく似た色の液体が入ったグラスを手渡す。
「なんだこれ?お前こんなものいつの間に用意してたんだ?」
「アリーシアに頼まれて作ったんじゃ。『もし私が私じゃなくなったらこれを……』って言いながらな」
「なんでそんなシリアスな感じで頼んできたんだよ」
俺は困惑しながらライラからグラスを受け取り、アリーシアへと向かった。
「アリーシア〜?」
「あ?なんだサビター?テメェも飲むか?お?」
アリーシアは真っ赤になった顔でヘラヘラしながら俺と肩を組む。
コイツ本当にアリーシアか?口が汚なさすぎてチンピラと喋ってる気分になってきたぞオイ。
「ほら、アリーシア。お酒。お酒があるよ〜?」
「寄越せオラ」
俺がライラからもらったシャンパングラス(薬)をアリーシアにチラチラ見せると一瞬でそれをガッと奪って飲み干した。
「……あっ」
グラスをすぐに空にして飲み干したアリーシアは真っ赤だった顔が徐々に元に戻り、それどころか顔の血の気が引いて真っ青になっていた。
どうやら即効性だったらしい。
「お……」
「お?」
「お花摘みに行ってきます……」
アリーシアは顔を下げて身体を震わせると、急いでその場から離れて行った。
すっかり酔いが覚め、自分の行いを思い出して恥ずかしく感じたのか、逃げ足は尋常ではない早さだった。
「ありゃもうトイレから出てこなくなるだろ」
俺はトイレに引きこもりに行ったアリーシアを手厚く見送る。
しかし何故アイツはアスホーの酒場での出来事があったのに酒を飲んでしまったのだろうか。
自分がどれだけ酒癖が悪いのかは分かっているはずなのに……
いや、アイツ酒好きだからな。
しかもここの酒は高級で美味かったし、我慢出来なかったんだろう。
「ライラ、あんな便利な薬があんだったら飲む前に渡せば良かっただろ。なんで先に渡さなかった?」
「今度こそ悪酔いしないと思いますと言っていたから渡さなかったぞい」
「アイツバカじゃねぇの?」
俺はどうやらアリーシアという女を過大評価していたようだ。
アイツも俺達と同様、ドがつくほどのバカだ。
「おおっほん!」
アリーシアがトイレに行った後、ビリオネが俺達に近づき、大袈裟な咳払いをした。
まるで何か話したそうな感じだ。
「皆さん、これから催し物を開きますので中央に注目していただけます?」
「なんだ、何かやるのか?」
「なにかやるからそう言っとるんじゃろがアホかお主」
「あぁん!?」
ライラが俺に喧嘩腰で煽ってくると俺は気に入らずライラを睨む。
「いい加減にしてくださる?私の話を聞きなさい!」
しかしビリオネにそれを遮られ、俺とライラは渋々ビリオネに顔を向ける。
「私は先日貴方達に恥をかかされましたわ。屈辱でしたが貴方達のいちごタルトは美味しかった……しかし!美しさやパフォーマンス力においては!私の方が上ですわ!」
ビリオネはそう言って右手で小気味の良い音で指をパチン!と鳴らす。
すると部屋は暗転し、周囲はどよめき、ざわざわと各々声を漏らし始める。
再び照明が再点火し、明るい光が屋敷を照らす。
「な、なんだあれは!?」
客の一人が驚きの声をあげて屋敷のホール中央に注目した。
その先にいたのは、6人のコック達。しかもそれぞれツラの良いイケメンだった。
「ま、まさか……シックス・プリンス!?」
女の客がハッと息を飲み込んで感極まった様子で涙を流す。
他の客も同様に「うそだろ」「生で見れるなんて」「これは夢か現実なのか」などと驚きの声を上げていた。
「えっなに、セックスプリンスてお前、随分とえげつない名前じゃねぇか」
「サビター、お主もう黙っとれ」
ライラは俺を下ネタ大好きなクソガキを見るような、憐れんだ目で俺を見ながら言うと、ホール中央を興味津々な顔で見つめた。
いつの間にかそこには調理器具が用意してあり、菓子作りに必要な甘味料、フルーツ、その他もろもろが置いてあった。
「シ、シシシシックス・プリンス!?」
いつの間にかトイレから戻ってきていたアリーシアか顔を真っ赤にさせながら興奮気味に喋った。
「お、アリーシア。もう戻ってきたのか。ほら、お酒飲むかい?」
俺がニヤニヤしながらグラスを向ける。
しかしアリーシアは俺の煽りなど全く意にも介さず、ステージ中央を見る。
「イケメンの匂いがしたから来てみたら、あのヴァリエールのイケメンパティシエチームのシックス・プリンスがあるじゃないですか!?こ、興奮してきた……!」
アリーシアは鼻を大きく開きながらフガフガと興奮気味に空気を出して喋る。
本当に今日のコイツはどうかしてしまったのだろうか。いつもの冷静なあの女を返して欲しい。そもそもイケメンの匂いってなに?
「彼等は今日、私のためにバースデーケーキを作ってくださりますの。何故ヴァリエールがウィルヒル王国随一と言われるか、その所以を教えて差し上げますわ……」
ビリオネは不適な笑みを浮かべ、俺達に挑戦的な言葉を放つ。
そして、
「さぁ坊や達!私のために最高のショウを見せなさい!」
ビリオネが彼等シックス・プリンス達に声をかけると、彼等は行動を開始した。




