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第34話 っげぇ〜……


「ほう。これが例のポーションですか。いやはや、なんとも美しい色をしています」


 スーツの男はポーションだらけのカゴの中きら一つを手に取り、品定めをする。今回ライラが作ったのはプレーンタイプの緑色のポーション。


 材料は単体でも傷や病を癒す高品質なガッデスハーブ。それ以外にも様々な果実や薬効成分を持つ植物を使用している。今更だがこれ本当に麻薬か?ただの質の良い回復薬にしか聞こえないぞ。


「それでは次に中身を確かめていきましょうか」

「別に良いけどよ、俺達は変な混ぜ物なんてしてないぞ。まぁ変な作り方はしてるが」


 俺がそう言うとライラ(変装していて今は黒髪で長髪)が俺のケツに蹴りを入れて来た。ここはシリアスな場面だぞ。真面目にやってもらわないと困るぜ。


「今夜、この取引にぴったりなマスコットを連れて来ました。その子にこの商品の品質を確かめてもらいましょう。そこのキミ、連れてきてくれ」


 スーツの男がその辺の仲間に言うと、ソイツは鎖で繋がれた半裸のおっさんを連れて来た。そう、半裸のおっさんだ。しかも首に鎖が繋がれて四足歩行で歩いている。半裸のおっさん?なんで?


「えっなにっ?なんなん?」

「なんじゃコイツは……」

「へんたいだ。へんたいがきた」

「えぇ…?この方は一体……」


 得体の知れない人物が突然出て来たことにより、俺達は疑問と混乱を呈した。考えても見ろよ、俺達が真面目な顔で商売してる時に突然小汚いパンツしか履いてないおっさんがこっちに向かって来てんだぞ?


「ああ失礼。この子は我々の会社のマスコットであるヤクチュウです。大丈夫です。噛みませんよ」

「お前ヤクチュウとか名付けてるけど著作権とか大丈夫か?」

「鈍色に光る蟹の脳味噌には平家建ての特急電車が走る!」

「ハハハヤクチュウ、今日も絶好調だな」

「どこがだよ。完全に頭ぱっぱらぱーじゃねーかソイツ」


 ヤクチュウと呼ばれているおっさんは涎と鼻水を垂らしながら据わった目で狂言も垂れ流していた。


 こいつ等イカれてやがる。このおっさんがどんな人間だったか知らないが、他人を薬漬けにして平気な顔をして取引を続行しようとしてるなんて、頭のネジが足りない奴等がする行為だ。だがそれは俺達も同じ。ここで気圧されては立場がない。ここは俺も頭のネジを一時的に飛ばすしかないようだ。


「へぇ。ヤクチュウねぇ。主食は麻薬か?朝はシリアルに違法ポーションでもかけて食べるのか?」

「は?いえ、彼は人間ですから人間の食べ物を食べますが。何をおっしゃっているのですか?」

「ぶふっ!」

「ぶひゃひゃ!」

「ふふは」


 殴り飛ばしたい。このスーツ野郎も、それと俺の背後で指差して爆笑してるウチのアホたれ三人共も。


「いやはや、中々面白い事を言うお方だ。ですが貴方が言う事もあながち間違ってはいない。ヤクチュウは、元は我々の元で働いていた従業員だったのです。がしかし、我が組織で得た売り上げをこっそり持ち逃げして高跳びしようとしました。我々の組織は仲間を大切にすることを信条にしています。しかし、その信条を裏切れば我々もそれ相応の罰を与える他ありません。よって彼には我々の組織のマスコットになってもらいました。泣ける話でしょう?」

「…ああそうだな。ソイツもお前んとこのマスコットキャラクターになれて泣いて喜んでるぜ」


 俺はチラとおっさんを見る。俺の視線に気づいたのか、おっさんは俺の顔を見ながら「太陽の裏にアクリルプレートはあるのだろうか」などと訳の分からないことを宣っていた。


「さ!親睦も深まったことですし、早速品物を確かめていきましょう」

「そうだな。取引は早ければ早いほどいい。ミシェル、ポーションを出してくれ」

「ワシに命令するでない……私に命令口調で言わないでくれるかしら」


 コイツ、いつもの喋り方が心身共に染みついてしまっているせいなのかまるで隠すつもりのない喋り方で会話しやがって。最後の方に修正に持ってこようとしたんだろうが、遅すぎるわ。


「ではまず、最初に我々がいつも贔屓にしている麻薬ポーションのハーレムと比べてみましょう」

「えっ、あのハーレムってお前らが取り扱ってたのか」

「はい。ハーレムは依存性が高く安価で作れる代物。ですが製造者である取引相手が少々問題のある方でして。取引で得た金を毎晩豪遊して散財しているらしく、ギルドの方々に目を付けられているのでちょうど縁を切ろうと思っていたのでちょうどよかったですよ」


 スーツの男がヤクチュウにハーレムを渡す。コンクリートの床の上にピンク色の液体の入った瓶を置いておくと、ヤクチュウは即座にそれを手で掴み、瓶を天高く掲げて液体を口の中に誘導するように落とした。


「オッ!アァ~!馬の顔面に呪詛~」

「うんうん、高まってきたな~」

「何が高まってきてんだよ」


 ヤクチュウは相変わらず啓蒙めいた不気味な言葉を発してヘブン状態になっていた。一つ違うとすればさっき登場した時の飢えたような殺気走ったような目つきではなく、恍惚とした表情であった。


「ヤクチュウ、今飲んだお薬は100点中何点だい?」

「アバンギャルドな毘沙門天!」

「そっか~いつも通りか~」

「オイ今の結局何点なんだよ」


 俺の質問には男は答えず、あひあひ言っているヤクチュウを見てニコニコしたまま腕を組んでいる。このままでは埒が明かないので次は俺達のポーションを試すよう言った。


「まぁハーレムはいつも通りの品質か。クオリティーを保ってくれるのはありがたいが……」


 俺達に聞こえるか聞こえないくらいの声量で男はボソッと呟いた。さっきまでニコニコ張り付いたような気味の悪い笑顔が一瞬崩れ、苛立ちに近い表情を見せた。それだけこの男の中でハーレムを精製している売人は多大な迷惑をかけているのだろう。しかしここでチャンス到来だ。俺達がライラの作ったポーションが伝説級の麻薬だと言うことを証明できればいい。


「失礼、お見苦しいところを。さて次はそちらのポーションを試させて頂きましょう」


 今度はライラの作ったポーションを床に置く。ヤクチュウはハーレムを飲んでキマっていたのか、天井を見てぼーっとしていた。


 だがポーションの存在に気づいたのか、ヤクチュウはそれを手に取り、グビグビと喉に流し込んだ。


「さて、どんな反応をすることやら」


 スーツの男は興味深そうにヤクチュウを見る。その目はさながら実験動物を見るかのような目だった。まぁ、実際見た目がハゲ散らかした小汚いおっさんなだけで行為自体は動物そのものだった。なのでそう見るのも仕方がないのか。


「……ヴィ?ヴィヴィヴィ?ナハハハハハハハ!?」


 突然ヤクチュウは壊れた機械のように痙攣を起こし、仰向けになって震え出した。


「おや、ヤクチュウー、大丈夫か?どうかしたのかな?」


 スーツの男は上部だけの心配をしながら右手の人差し指と中指の爪をいじりながら感情が乗っていない言葉をかける。


 やがて痙攣が終わって大人しくなったヤクチュウ。しかし、今まで慌しく痙攣していた姿とは対照的にまるで死体のように動かなくなった。ピクリとも動かない。


「なぁオイ、コイツ動かなくなったんだけど。どうなってるんだ?おいミシェル、コイツになにした?」

「いや、ワシは…うおっほん。私は何もしていない。コイツが薬漬けでオーバードーズして死んだだけじゃない?」

「殺してんじゃねぇか!?取引パーだよパー!ついでにお前の頭もパーにしてやろうか!?」

「や、やめろ!私は悪くない私は!…ん?お、おい見ろ、ヤクチュウが目を覚ましたぞ!」


 ライラの言葉に従って俺はヤクチュウを見た。するとヤクチュウはライラの言う通り、目を開けて上半身を起こした。ヤクチュウは周りを見ると目を丸くしながら


「ここは…どこだ……?」


 と、まるで記憶喪失になった人間のテンプレートな言葉を喋った。というか正気に戻ったのだろうか。人間の言葉を喋っている。人間の言葉というのはさっきみたいに訳の分からない文字通りの薬中の言葉を並べている状態じゃなく、ちゃんと意思疎通が出来る人間の言葉だ。目にも光が宿っている。あひあひ言っていた人間とは思えない。


「おやおや、どういうことでしょうか。ヤクチュウが人間に戻ってしまいました」


 スーツの男は首を傾げながら呟いた。多分ハーレム以上のアヘリ具合を期待していたんだろうな。だがいざ蓋を開けてみたらまさか正気に戻るとは全く考えていなかったんだろうな。


「いや、わし…じゃなくて私の作るポーションはただのポーションだ。ただ、生臭くない味と香りにして身体だけじゃなく精神も癒すために改良しただけの物。そこのハゲ散らかしたおっさんもそのポーションの効果が表れて薬物中毒から正気に戻しただけだよ」

「しかし正気に戻られては困るのですが……」

「まぁ見て。私が造ったのはただのポーションじゃない」


 スーツの男はヤクチュウを再度見ると、目を少し大きくして見やった。


「あ、ああなんだこりゃあ……こんな、こんな気持ちいいことがあっていいのか……!?」


 ヤクチュウだったおっさんは涙を流して感動していた。「はぁぁぁぁぁぁ」と深呼吸をして気持ちよさそうにしている。完全に正気に戻った矢先でまた自分の世界に浸っていた。


「あ、あの、俺も使ってもいいか?」


 スーツの男の背後で護衛をしていた奴等の一人がゴクリと唾をのみながら聞いてきた。スーツの男は一瞬目を細めるが、直ぐに元の表情に戻し、「どうぞ」と言って促した。


「お、おおお……!?」


 護衛の男がポーションを一口飲むと、カッ!と目を見開いた。


「す、すげぇぇぇ。悩み事だらけでクソの詰まった便所みてぇだった脳味噌が、めっちゃすっきりはっきりしゃっきりしてきた……!ボス、俺この仕事やめて酪農やります!」


 護衛の男もまた感動して涙を流し感動していた。しかもその場のノリで仕事を辞めようとしていた。あまりにその男の瞳は澄んでおり。まるで三日間徹夜続きだった男がシャワーと快眠を果たしたような、清々しい表情を見せていた。


「私はただ中毒性の高い粗末なドラッグを作る奴とは違う。これはアートだ。私は芸術品を売りに来たのだ」


 ライラはライラで悦に浸りながら自分の作ったポーションを愛しい自分の子供を撫でるように頬擦りしながら語る。


「他の奴等が造る違法ポーションは低品質な素材に素人同然のレシピだが、私のレシピは違う。さながら難解な計算式を導き出すようにレシピを開発し、神秘の技術である錬金術を用いて素材の声に耳を傾けながら作っている。だからこれだけ高品質な商品を作れるのだ。これだけ聞けば、結果を見れば違いが分かるだろう?」

「……」


 スーツの男は顎に手を当て何か考え事をし、そしてニコリと俺達に向けて微笑んだ。


「確かに効果の程、拝見させて頂きました。このポーションの効能には私の雇用主も大変満足しております。約束通り取引致しましょう」

「雇用主も満足って、どういう意味だ?お前ンところのボスはここに居ないんだろ?」

「ああ失礼。私のこの眼鏡を通して見ているんです。私の雇用主は多忙ですが、マルチタスクは得意ですから」


 そう言ってスーツの男は右の指でパチン、と小気味の良い音を鳴らす。すると屈強な男二人が成人男性の半身ほどのサイズであるカバンを四つ持って来た。男達がそれを地面に丁寧に下ろしてゆっくりとジッパーを開ける。


「…マジかよこれって……」


 中に入っていたのは、大量の金貨だった。その金貨達がカバンにギチギチに詰め込まれている。あまりの量と質に、俺は圧倒されていた。


「事前のやりとりでは一億グラッドとのお約束をさせていただきましたが、貴方達にはとても期待していると私の雇用主が仰り、彼の計らいで4億グラッドに変更させていただきました」


「っげー…っげー……っげー……」


 俺は目の前の大量の金にすっげーのすが抜けてっげーしか言えなくなり、言葉を失った。人は自分の想像を超えるものを見た時、本当に言葉が出なくなるんだな、と俺は呆然と感じていた。


「「「っげ〜……っげ〜〜っげぇ〜〜〜」」」


 金に目が眩んだ俺の部下達(馬鹿達)3人も俺と同じような覇気の抜けたような言葉遣いで驚いていた。


「1人1億差し上げます。これほどの物を強力して作られたのですから、それ相応の支払いをするのは当然だ、と私の雇用主も仰っております」


 俺達は何の文句もなかった。喜んでポーションの箱を彼らに渡し、俺達は金貨がパンパンに詰まったバッグをそれぞれ一つずつ持ち上げる。


「本日は実に実りのある取引でした。もしご縁があれば、また会いましょう」


 スーツの男はぺこりと頭を下げて、俺達のポーションを部下に運ばせて闇の中に消えていった。


 あっけない取引だった。あれだけ渇望し、準備も計画も進めて、実行にまで漕ぎつけた。こんなに一瞬で終わってしまうと、こちらとしても呆けてしまう。


 だが、俺の背中あるこの金貨の重さが俺を現実に引き戻した。俺達は今日、一晩で4億グラッドを手に入れた。俺達4人で、だ。


 だが明日は店を開けなければならない。故に俺達は帰る。4億を手に入れても、早く店に帰って店の準備をしなければ、と大金を手に入れたのにも関わらず俺達は足早にこの建設途中の建物から去った。




 

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