第23話 夢うつつ、彼女に見惚れつつ
シルクは読者の皆様の想像するめちゃくちゃドエロいグラマラスな女を想像してください。
俺は未だかつてないほどの幸運モードに入っていた。次々にルーレットは当たり、スロットはゾロ目が来て、カードゲームは強いコンビばかり俺に舞って来た。
「ダハハハハハハハハハハ!運良すぎだろ俺!マジかよ!?」
現在の俺のチップは10億グラッド相当稼いでいる。もうここまで来たら引き際を考えるべきだろうが、俺は途中で止めようとは考えもしていなかった。
というかシルクに会うという本来の目的をすっかり忘れていた。完全に頭の隅っこに追いやられている。
「げ!またあなたですか……」
俺はカードゲームとスロットを十分に楽しんだ後再び最初のルーレットに戻って来た。ディーラーの男はゲンナリした表情をしている。
「おいおい口に気をつけたまえよ?俺はこれから億万長者になる男だぞ?」
俺はテンガロンハットと目元全体を覆い隠すほどの大きいサングラスを身につけ、クイクイと指で動かしながら言う。その辺の奴らが俺の勝利を祈って俺にくれた。だからありがたく頂戴した。それだけだ。
この時完全に調子に乗っていた。今までこんなに運が俺を味方したことがなかったからだ。正直無敵だとさえ考えていた。
「すげぇぞアンタ!こんなギャンブル見た事ねぇ!」
「やっちまえ!
俺の周りには野次馬達が大勢居た。これまでにない規模の金が動くルーレットを見物するために、カジノのほとんどの客が俺に釘付けだった。
「というか、オーナーの事は良いんですか?彼女もう来てますけど」
ディーラーは思い出すかのように言った。そうだ。そうだった。そういえばそんなやつ探してたな。
「構わん構わん。続けたまえ」
俺は葉巻を咥えてぷかぷか煙を上に向けて吐き出す。
「はぁ……それで、どれにします?赤?黒?」
「黒の13番だ」
俺がそう言うとディーラーは「えっ」と面食らったように驚いた表情で言った。
「さ、流石に同じのは当たらないと思いますよ」
ディーラーの男は俺を宥めるように、考えを改めさせるように言う。
「いいからいいから。ちゃちゃっとやっちゃいなさい」
俺は急かすように手で仰ぎディーラーに言う。ここまで来て止まれるものか。俺は今宵、ゴッドブレスの貯めに貯めまくった金を全ていただく。そして俺は優雅な引退生活を送るのだ。
「アンタ……ギャンブラーだね」
またあの歯抜けのジジイが俺の隣に並んで意味ありげに言ってきた。なんなんだコイツは。さっきも同じセリフ吐いてただろうが。喋るなら別の事を喋れ。歯が抜けて変な音がしているくせに俺の隣に並ぶな。
「あ、あの、俺が言うのもなんですが、もうここで終えられた方が良いと思いますよ」
確かにディーラーとしては口に出すべきではないストップの言葉を俺にかけた。だが、俺はもう止まらない。止まらない。
「黒の13番。全部のチップを賭ける」
俺の気合の入った言葉に、カジノに居た全員が沸き起こった。
「うおおお!すげぇ!すげぇぞ!」
「この命知らず!良いぜ!乗った。俺はアンタに賭けるぜ!」
前例のないほどカジノの場はあったまり、熱狂渦巻く修羅の館と化していた。あまりの覚悟の決まった俺に、周りのディーラー達は冷や汗を垂らしながら俺を見つめる。
「えぇ!?本気ですか!?……良いんですね?もうやりますよ?」
ディーラーは俺に最後の警告を通告した。だが俺はどこ吹く風と言わんばかりにテーブルに足を掛け、指パッチンをしてこう言った。
「さ、やろうか」
俺はディーラーにルーレットを回すよう促す。「後悔しても知りませんよ」と言って彼はルーレットを回す。回るルーレットの上で小さなボールが踊るように軽快に転がる。
カジノのディーラーはそれぞれのゲームのエキスパートであり、客を翻弄するテクニックや小技を習得している。
だが俺が全額賭けたルーレット担当のディーラーはそんなことはしないだろう。なぜなら彼は男の目をしていた。俺に触発されたのか、下手な小細工を使わず、ただ運を天に任せるかのようにルーレットを回していた。
先程まで阿鼻叫喚とも言える程にざわついていたカジノの客達はシンと静まり固唾を飲んでルーレットの玉の行末を見守っている。
回っていたルーレットは徐々に失速し、赤と黒、そして数字が目で追えるほどの速さになる。そして遂に、玉は止まった。
「こ、これは……」
ディーラー、俺、客達。一同が目を見張る。俺はルーレットの中身を覗く。中は黒の、黒の13番だった。再び他の客達は歓声を上げる。
「やったぁ!!!」
俺は両腕を天に掲げてガッツポーズをする。すると周りのギャンブラー達が俺を持ち上げ、胴上げし始めた。
「ちょ、お前らなんだよ!」
「豪運の賭博師の勝利を祝って胴上げだァ!」
「オイオイ!俺はそんな事されたってお前らに一銭たりともやらねぇぜ?だがここの客全員に酒と肉くらいは食わせてやるよ!」
「ふぅ!流石!」
俺を持ち上げて歓声と嬉しい悲鳴を上げる客達に俺は満足感を抱きながら胴上げを甘んじて受け入れる。
「「「「「「「サービター!サービター!サービター!」」」」」」」
それぞれが俺の名前を呼び始め、俺を讃える。こんな、こんなに甘い美酒のような勝利があって良いのだろうか。いや、遂に天は俺に味方をしたのだろう。むしろ今まで天は俺を無碍にしてきたのだ。だが最後には俺に救いをもたらした。
未だ俺を褒め称える声は止まない。まるで夢のようだ。俺がこんなに良い待遇を受けるなんて。街ではウィルヒルのダニ扱いされていた俺が、こんなにも夢のような……
夢。いやちょっと待て。そういえば最後に見たあの数字は本当に13番だったのか?何か、あまりにも都合が良すぎる。そういえばいつも俺は運が悪いのに突然こんなチャンスが巡ってきたことが偶然にしては出来すぎている。
「そろそろ夢から覚めたら?」
俺の上に顔を覗き込むように一人の女性が俺の視界に入る。燃える炎のようなオレンジ色の長髪に物憂げな緑色の瞳の垂れ目。情熱的な赤い唇。あれ、コイツ誰だっけ……
「惜しかったわね。アレが13番に入れば貴方は今頃富裕層の仲間入りだったのに。まさか隣に入っちゃうなんて……」
「えっ?どゆこと?」
俺は言っていることの意味がわからず、寝転がったまま彼女に聞いた。なんだ、周りの景色が何故かはっきりしてくる。と言うよりさっきから何か熱に浮かれていたような、幻覚を見ていたような気分だった気がしてきた。
俺は寝転がっている床から立ち上がる。そもそも周りの人間は胴上げなどしておらず、それぞれ彼等自身がやっているゲームに注視していた。
「あれれ?」
俺は首を傾げて周りを見る。俺はルーレット担当のディーラーに詰め寄り、話を聞く。
「オイ、俺、黒の13番を的中させたよな?」
「いえ、赤の36番ですが」
「んかまま?」
俺は訳が分からず変な声を出す。
「残念だけど、貴方盛大に番号を外してからショックで床に倒れて気絶したのよ。面白かったから飽きるまで放置させといたの。貴方の間抜け面の面白いことったらなかったわね」
俺は呆然としながら女の話を聞く。そしてようやく俺は思い出した。そうだ。彼女の言う通り、俺は賭けに負けたのだ。そしてその現実が受け入れられなくてその場で倒れ、都合のいい夢を見ていたのだった。
そして俺は本来の目的を思い出した。
「シルク……」
俺は彼女の名前を呼ぶ。するとシルクは「そう、私よ」と言ってクツクツと笑い出した。
「……はぁ〜〜〜〜〜〜。俺、負けたのかぁ〜〜〜〜〜〜〜」
俺は心の底から鬱憤を吐き出すかのように吸った息全てを肺から外に吐き出した。もしこの世に溜息選手権があったのなら俺は全国覇者になれただろう。そのくらいショックだった。
だがこの世の終わりという気分でもなかった。大体いつもギャンブルをする時はこんな感じで負けるし、運絡みの物事には俺はいつも悪い目に当たる。だから別に悲しくはない。
「やっとまともに話が出来そうね。私を呼んでたみたいだけど、一体なにをご所望かしら?」
シルクは煙管をたわわな胸元から取り出し、魔法で火をつけて吸ってぷかぷかと煙を吐き出す。俺はその光景に目が離せず、彼女の顔から少し下の部分に目が行かなくなった。
「サビター、貴方ったら本当に遠慮がないのね」
シルクはため息を一つ吐きながら言う。
「いや、お前良い身体してんなって」
「…本当に見境ないわね貴方」
あまりにもはっきりと思ったことを言ってしまったからかシルクは胸元を手で咄嗟に隠しながら言う。胸が見える裸同然と言っても仕方がない痴女専用ドレスみたいな服を着てる癖に何を生娘のように恥ずかしがってやがる。
「……あぁ。実は人探しをしてる」
「あら、カジノのオーナーに人探し?相手間違ってない?」
シルクは怪訝な表情で煙管を吹かしながら俺を見る。確かに彼女の言い分はもっともだが、裏社会を骨の髄まで知り尽くしている彼女なら下手な探偵よりもはるかに頼りになる。
「ウィード、知ってるよな?」
俺が彼の名前を出すとシルクは右の眉毛をピクリと動いた。
「さぁ、そんな人知らないわね」
ほら来た。知らんフリ。だがコイツはクロだ。確実に知っている。
「せっかく来たんだし私の部屋に来なさい。お茶くらいなら出してあげるわ」
シルクはそう言って俺に背を向けて言った。これはお誘いの合図だろう。別にベッドへのお誘いというわけではなく、ここで話すのは人目と耳が憚れるから人気のいないところで話そう、彼女は口に出さずにそう言っているのだろう。俺はそれに大胆に乗ってやることにした。
別にベッドインを期待してるわけではない。彼女は良い身体をしているし、前会った時もテクニックは物凄かったが別にそっちがメインじゃない。別に期待はしていない。期待はしていないのだ。
「あら、そんな期待した顔をしてどうしたの?」
「え?」
「貴方のその顔。とても人に見せられたモノじゃないわよ?」
どうやら俺は彼女とえっちらほっちらする妄想をしていたせいでとんでもない不細工なツラをしていたようだ。しかも下の方が元気なってしまっている。とりあえず醜い顔のモンスターのピージャのことでも考えて鎮めよう。
「ふう、ヨシ。それじゃあ行こうか」
「凄い。貴方どうやって一瞬で落ち着かせたの?あんなに荒ぶっていたのに」
「男は年齢を重ねると色んなスキルを扱えるようになるのさ」
俺は別に誇って言うほどのことでもない事を誇張気味に言いながらシルクの元へと付いていった。彼女ならウィードを知っている。俺はそう確信していた。
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