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第21話 ライラの嫉妬心とそれに巻き込まれた哀れな俺


 計画は立てても失敗する。


 たとえそれがどんな策士がどんな天才的なプランを設計しても、運が悪ければ失敗する。

 別に後ろ向きだとか捻くれてるだとかじゃない。事実だ。俺は事実を話している。


 ならば計画など立てない方がいい。

 無計画ノープランの方が人生案外上手くいく物ではないか?俺は最近考えを改め始めた。

 そんな俺の人生観を変えたのは年端も行かないガキだった。


「打倒ヴァリエール!打倒ビリオネ!奴より美味いスイーツを作るぞ!」


 一人だけ盛り上がっていたクソガキがいた。

 ピンク頭の鼻水垂らしてそうな間抜け面だ。

 トラブルメーカー、もしくは混沌の使者、奴と居ると俺に安寧は訪れない。


 見ろ、アリーシアは愛想笑いでどうにかその場を切り抜けようとしている。


「あんな事言ってますけど良いんですか?」


 アリーシアが俺を心配しつつ声をかける。彼女の目は病人を見るような目だった。

 可哀想な物を見る目でもある。


「俺は今死んでるので話しかけないでください」

「ああ、重症ですねこれは……」


 俺は店のソファーに寝そべりながら涎を垂らして仰向けになって会話をしていた。

 天井を見ているように見えるが実は見ていない。

 というより目の焦点が合っていなく、まるで薬中のようだ。


「あうあ~」

「大丈夫?」

「ほわわ?」


 俺の瞳にタマリの顔が映り込んだ。

 コイツの場合は心配と言うより好奇心で俺の様子を見ているのだろう、まるで面白い物を見る目だ。


「あ?だうあ~」


 俺は今完全に壊れているので言葉にならない声を上げて答えた。

 タマリは無表情ながらも目だけは笑っていて俺を見るのを辞めるとアリーシアに顔を向けて、


「もうダメかもねサビター」


 首を横に振って重症の患者を諦めるかのようなニュアンスで言った。


「大丈夫ですよ、タマリ。彼は今休憩中なだけです。すぐにいつもの調子に戻りますよ。多分」


 アリーシアは哀れな生き物を見る目で俺を見て言う。


 俺がここまで精神的にどん底に陥っているのには理由がある。

 大体がライラのせいだ。

 というか今までの困り事大体全部あいつのせいだな。


「お前、なんでいつも厄介事ばかり持ち込むんだ。金の成る木かと思ったら貧乏神だよお前は」


 俺は一度人間に戻り、ライラに困ったように言う。


 実際困っていた。


 せっかくポーションを売る捌く算段が出来上がっていたのに、事もあろうに彼女は店の存亡を賭けた勝負を吹っかけた。

 正直言って理解できない。

 一体何を考えている?


 俺はライラの顔をチラリと見る。

 ライラは顔を少し歪め、悔しそうな表情をしていた。

 いちごタルトが入っていた空の紙パックを恨めし気に見ながらライラはゆっくりと口を開いた。


「…美味かった。あのいちごタルト。ワシが作るよりも美味かった」


 そりゃそうだ、と俺は心の中で呟く。

 ビリオネはプロの職人だ。

 あのいちごタルトを食べれば、素人の俺でもすぐに合点が行った。

 あんな端から端まで計算尽くされた菓子は未だかつて食べたことが無かったくらいだからな。


「彼女は錬金術を使えるわけではないが、錬金術師と見紛うても遜色無いほどのケーキ作りの技術を持っておる」

「じゃあなんで勝負なんか挑んだんだ?馬鹿なのか?錬金術に脳味噌全部持ってかれてアリ以下の知力しか残ってないのか?」


 俺は詰めるようにライラに問う。

 コイツの身勝手な行動にはほとほと呆れてしまうが、俺はさらに呆れた。

 なぜならライラはこの状況でも笑っていたからだ。


「ワクワクしたんじゃ。ワシ以上に美味いケーキを作る女に。ワシは奴を超えたい。だから勝負を挑んだ!」

「ああ、やっぱりお前はバカなんだな」


 俺は両目を両手で覆った。

 この世に神がいるのなら、お前は悪魔だ。

 俺にこんな厄災を残して消えたんだからな。


「ポーションはどうするつもりだお前。俺はこれ以上待てねぇぞ。それに表のシノギだってほったらかしにできないだろ」

「それについては心配は無用だ。モノフエールを使い、さらに長期間鮮度を保てるアイテムを使ってストックは保存できるようにしてある。ポーションと新作メニュー開発は並行して行う。お前の期待を裏切りはせん。そして何より……」


 ライラは覚悟を決めた真面目な表情で俺達一人一人を見つめる。


「ここは潰させない。それにこの店を軽んじたあの高飛車お嬢様に一泡吹かせてやる。お主達はワシを信じろ」


 こうなった原因はコイツにあるのに、俺は責めようとは思わなかった。

 売られた喧嘩は必ず買うというコイツのスタイルは嫌いじゃなかったからだ。


 どうせこの女と組んだ時点で俺の運はほぼ無くなったような物だ。

 ならばとことん狂ってやろう。


「分かったよ、もう何も言わねぇ。いや、あと一つ、これだけ言わせろ」

「なんじゃ」

「ぶちかませ。目に物見せてやれ」


俺はそれだけ言って、黒のレザージャケットを羽織って外に出る準備をする。


「?どこにいくんじゃ?」

「ウィードの知り合いの知り合いの知り合いに会いに行く。お前はお前に出来る事をやれ。おれもそうするからよ」

「言いづらくないですか?」


 アリーシアが何か言っていたが俺は気にせず店から出て行った。




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