第123話 偏向報道、そして過去の再来②
隙のない二段構えの連続投稿です
くそっ、なんだってんだ。俺はあんな風に演出しろと言った覚えはねぇぞ?それになんだあのつぎはぎに加工された喋り方は!?あんなの普通の奴ならやらせだって気づくだろ常識的に考えて……!
俺はイライラしながら街の中を歩いていた。
ふと、俺は何か違和感を感じた。
周囲の視線が俺に向けられていた事に気づいた。
誰かの視線を感じている、それも一人や二人ではなく、何十人もの数だ。
「あれってS氏じゃない?」
「ああ、あのお菓子屋の……」
周囲の奇異の視線が俺を射抜くように向けられる。
「お菓子に変なのが混ざってるっていうあのお店の?」
「客にレモン頭の化け物の幻覚を見せつけて金品を奪うあの!?」
おっとこれはまずい。
明らかに吹聴されたウソを皆さん信じていらっしゃる。
俺は足早に歩いてその場を後にしようとすると。誰からか肩に手を掛けられた。
「よぉサビター。お前こんなところで何してんだ?」
「あ?初対面になんだその口のきき方は?前歯と一緒に礼儀まで矯正するぞコラ」
馴れ馴れしい手つきにナメた話し方。
流石の温厚で礼儀正しい俺もこれには教育が必要だと思い、振り返り凄む。が……
「ウィロー?」
生意気な口を利いた男はかつての俺のギルドの幹部、『必中』のウィローだった。
彼の周りにはあのテレビに出ていた他幹部のナックルとイアリス、そしてギズモとフログウェールだった。
「こんなところで散歩おは奇遇だな。俺達も見回りと言う名の散歩をしてたんだ」
「お前等そんな仲良かったか?幹部が雁首揃えて街中警邏とか、随分と物騒だな」
俺が訝しみながら言うと、ナックルは「いやいや」と言って否定から入った。
「お前が知らないだけで、俺達は結構仲良いぞ。この前なんかキャンプしに行ったしな」
「あ、そう」
「まぁ仲間内ならそういった行き違いはよくあることさ。気にする必要はねぇよ」
ウィローがペラペラとそこまで深堀して聞いていない事を喋る。
俺の知らないところで勝手に仲良くしているのは別にどうでもいいが、今重要視すべき問題はコイツ等があの番組を見ていたのかどうかだ。
もし見てたら間違いなくおもちゃにされる。
さっさとこの場からは立ち去るが吉だろう。
というかさっきから気になっていたんだが、イアリスの顔色が芳しくない。青褪めて身体を痙攣させ、ぶつぶつと独り言を言っていた。
「それにしてもお前、驚いたよ」
「何がだ?」
俺は首を傾げながらウィローに尋ねると、奴はニコニコ笑顔で俺を見ながら
「団長に喧嘩売るような番組出てたろ?お前ホント肝っ玉座ってるよ……S氏」
「!?」
心底他人を馬鹿にするような面持ちで俺に言い放ちやがった。
み、見られてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
コイツ途中まで素知らぬ顔して俺を嬲るとかどんだけ性格悪いんだよ!このクソ野郎が!
「お前みたいな小心者があんなアウトロー気取った風に演出しやがって。団長過去一キレてたぜ。もう薬には手を出さないと言ったではないかってな」
「じゃがジョナサンの奴必死に笑いを堪えていたな。堪え過ぎて腹の臓腑が捩れてしまったらしいが……」
「そりゃ自分の親友があんなありえない誇張されてたら誰だって笑うでしょ」
コイツら好き放題言いやがって!
「いや、ありゃ完全にでたらめだよ捏造なんだよ!薬なんて最初から作ってねぇし次の薬の販売計画なんて練ってねぇし、そもそもアイツにあんな喧嘩上等こくような事言ってねぇんだよ!」
「あああああああああ!」
俺がここにはいないジョニーに向かって弁明にもならない弁明を上げていると、急にイアリスが叫び出した。
「あのクソマスコミ共!公共魔波で私が吐いてるところ公開しやがって!絶対許さないわ!必ず見つけ出して後悔させてやるわ!」
「公開と後悔を掛けた?」
ギズモはクスクスと笑いながら小さく呟いていたが、イアリスの耳に入っていたらしく、「うるさい犬畜生が!」とギズモを睨み、奴は下を俯いて「クゥン」と小さく鳴いて犬のフリをした。
そうだった、コイツそういえば俺の名前聞いた途端吐いてた(ように編集されてた)な。
道理で顔はやつれてるし目に隈は出来てるし、瞳の奥には殺意マシマシの炎が燃え猛っているわけだ。
俺は苦笑いをしながらさりげなく周りを観察した。
少し様子がおかしかったのだ。
急に衛兵の数が増え始めた。
最初は一人二人だったのが、今は市民の数より多台頭し、いつの間にかこの辺に集まり、俺達を囲うようにしてあちこちに点在していた。
「それにしても一体何なんだ?お前らだけじゃなく、衛兵までこの辺に蛆のように湧いて出てきたが……」
「あぁ、そうだったそうだった。実は俺達ある極悪人を追っていてな」
ウィローが思い出すように言った。
それで俺は合点が行った。
「オイオイまた犯罪者が出たのかよ。この国は本当に治安がクソだな。まさか俺に手伝えとか言うんじゃないだろうな」
自分で言っておいてアレだが、この国は本当に犯罪者が多いな。
流石の俺もコイツらには同情を覚えてしまう。
こうも仕事ばかりが増えて、人手は充足しないんじゃ、コイツらに安息の日なんて一生来ないだろうな。
その点俺は今はただの善良な一般市民だ。
ちょっとだけ法に触れたこともあったが、それを除けば俺は英雄、名誉市民。
毎日表彰状をもらってもいいくらいだ。
「いやその必要はない。俺達もいるし、衛兵も総動員している。後はホシが大人しくしてくれればすぐに終わる話さ」
ウィローはキッパリと断る。
それを聞いて俺は安心した。タダ働きはごめんだからな。
「ふぅんそうか。なら精々俺達一般市民様の為に頑張ってくれや。特に俺は今、冤罪をかけられてナーバスな気分だからな」
ガチャリ、と金属が手に当たる音が聞こえた。
冷たい輪っか状の金属が俺の手に重なり、俺は俯いて下を見る。
「……?」
手錠だ。
何故か知らんが俺の手に手錠が掛けられている。
俺は状況が理解できず首を傾げながらウィローを見る。
ウィローもまた俺の真似をするかのように首を傾げて俺を見た。
「サビター。今日流れていた番組の中で少し聞きたいことがある。署に同行願おうか」
「……?」
俺は目を点にして唇を突き出してアヒル口にし、無垢なアホガキのように思い切り惚けたツラを見せた。
「なに、少しお話するだけだ。まぁ1週間もしたら帰れるさ。昔馴染みにも会えて嬉しいだろう?」
「いや、おま、お前悪ふざけも大概にしろよ。ありや捏造なんだ。俺はもう悪事に手を染めてなんかねぇんだよ、分かるだろ?」
ふ、ふざけてやがる!
確かにポーションに変わるヤクの計画を練ってはいたがまだ実行段階にすら移していない!俺の身は潔白だ!
俺は慌てふためきながらも冷静になりながら脱出口を探す。
しかし悲しいかな、コイツらは最初から俺が逃げることを想定して四方八方ありとあらゆる逃げ口を塞いでやがる。
「あーあーめっちゃ分かる。でも一応さ、あんな内容見せられたら形式上でも取り調べは必要だろ?」
「んなわけねーだろボケが!あ!そうだ!令状!れーじょー見せろよれーじょー!」
「ほいれーじょーどーじょー」
ナックルが俺に一枚のペラい神をまるで印籠みたいに見せつけてきやがった。
俺はそれを今だ!と言わんばかりに取り上げて己が口の中に突っ込み、食べて飲み込んだ。
紙が俺の構内の水分を吸い取り、吐き気を催して仕方がなかったがなんとか我慢して飲み込んだ。
「あー!令状食べやがった!」
「ひゃははぁ!これで俺をしょっぴく事はできねぇ!出直してこいよ!」
俺はそう言って勝ち誇るように嘲笑って奴等を見たが、奴等は厚い紙の束を懐から取り出し、俺に見せつけてきた。
令状だった。それも今俺が食べたのと同じ。
「お前ならやるだろうって団長から言われて予備100枚はあるぞ」
そう言ってウィローは白い葉を見せつけながら、「食べ切れるか?」と確実に悪意ある笑顔を浮かべ、意趣返しと言わんばかりに俺を嘲笑った。
「……」
俺はなす術がなくなり、ついに押し黙ってしまった。
「諦めたか。よしそれじゃあ俺達と一緒に──」
「あっ!あんなところにあの伝説の傭兵、フィニアス・デリンジャーかいるぞ!」
俺は奴らの後ろに指を向け、大声でかつてこの国でジョニーより前に存在していた伝説の冒険者の名前を出した。
「なにっ」
「うそ!?」
「マジか!?」
「本当!?」
ギルド幹部や衛兵、果ては市民達までとが俺の指さす方は視線を向け、後ろへと振り向いた。
俺はその隙をつき、手錠を解錠して、奴らが見ている反対方向へと走り出した。
「何を言っているんだ居ないじゃ……あっ!アイツ逃げたぞ!」
「あの野郎!卑怯だぞ!」
ウィローやナックルが怒りの声を上げながら「追え!」と
「「「「「「「待てやコラァ!!!!」」」」」」」
ギルド幹部、衛兵、そして何故か関係ない市民までもが俺を追いかけていた。
何故俺がこんな目に遭っているのか。
俺はただギルド抜けてケーキ屋営んで、たまにポーション売ったりしてただけ……いや、その後はこの国を救ったはずだ。
そして、その後は……ん?その後は……?
あぁ、そうか。
こうなってんの全部、アイツらカメラマン共のせいか。
俺がこんな目に遭ってるのも全部、あのクソ野郎共のせいなのか。
「覚えてろよ畜生共がァァァァァァァァァァ!!」
俺は全力疾走しながら、この街に潜むであろうキベルザとカラブという元凶二人の名前と顔を思い出し憎しみを抱きながら、その後直ぐに街の奴らに捕まった。
マッドギアのとあるダイナーにて。
一人の老齢の男が頭上に設置されたテレビを見ていた。
『あんなもん皿回しの猿だろ』
テレビ画面に顔と声にモザイクをかけられた男の映像が映っており、客達は暇つぶしに見ている者もいれば、歯牙にも掛けず、料理を食べながら電脳遊戯を行っている者もいた。
「ウィルヒルにも怖い極悪人はいるもんだよね。ここの方がヤバい奴らの数も純度も違うけどサ」
テレビを見ていた老人に声をかけたのは、ダイナーの店員だった。
彼なのか、彼女なのか、性別が識別できないほど身体は改造されており、金属の肌を身につけたサイボーグというよりはロボットと言うべき姿だった。
「まぁ、そうだな。あの国は昔から血の気の多い奴らばかりだ。今更文化交流を始めて文明を進めようとしているみたいだが、マッドギアの技術に追いついた頃には、この国はもっと先へ進んでるだろう」
老人は先端を切った葉巻を咥え、火をつけて煙を吸い込んで吐き出しながら言う。
「でもそんな時代遅れの国に半ば敗走する形で停戦協定結ばされたのも、不思議だよねぇ」
「いいやそうでもねぇさ。如何に優れた技術を持ってても、使う人間がポンコツじゃあ意味がない。あの時代のマッドギアはポンコツばかりのトーシローばかりだっただけのことさ」
老人はそう言って鼻で笑うと、「それにな」と言って付け加えるように言葉を紡ぎ、テレビに映るモザイクの掛かった男を葉巻を指代わりにして示した。
「アイツがあの国にいる限り、マッドギアは勝てん」
「なんだい?アンタあのテレビの男知ってるのかい?」
「ああ、そりゃもちろん。なんせあの男は……」
老人は勿体ぶるように言葉を止めて、そしてニヤリと口元を歪めながら
「俺の息子だからな。なぁ?サビター」
老人はサングラス越しの青い瞳で、テレビの向こう側の男、サビターを見据えて言った。




