第122話 偏向報道、そして過去の再来①
「「「「「……」」」」」
番組は終わり、俺達はあまりの内容のひどさに言葉を失っていた。
実際に言っていない言葉が何度も出てきた、
明らかに別のシーンの会話を混ぜて作ったようなつぎはぎめいた会話。
これは明らかに普通じゃない。
リアルなドキュメンタリーなんてものは一切ない、作り物だらけの紛い物のフィクションだ。
全員がお通夜ムードで、俯いたり、呆然としたり、首を傾げていたりと各々反応を見せてはいるものの、衝撃の偏向報道に対して脳と身体がまだ受け付けていなかった。
言いたい事、訴えたい事、怒鳴りつけたい事、山程あるがまず先にどこから突っ込めばいいか分からなくなっていたのだ。
「なんですかこれは」
唖然としながらもまず先に、アリーシアが口を開いた。
「私、ちゃんと言ったのに!お店をメインに取材してって!これじゃあ極悪犯罪者のドキュメンタリー番組じゃないですか!」
アリーシアの漏れ出た言葉は壊れた水道のように溢れ出した。
「誰が極悪犯罪者だこの野郎!というかお前俺に対してなんだよあの受け答えは!人をゴミクズみたいに言いやがって!」
「ち、違います!あれは巷で話題になってた婦女暴行犯について聞かれたから答えただけですよ!編集です!あれは悪意ある編集です!」
アリーシアはそう言って自分は清廉潔白であると宣いやがる。
「お前もお前だタマリ!あんなひどい言い方しやがってよ!俺は害虫じゃねぇぞ!」
「いや、あれは違うよ。魔力をすいとる魔ダニについてどう思うか聞かれたから、嫌いだなぁって感想を言っただけだよ。わなだ、これはわなだ。ぼくを陥れるためにしくんだわなだ」
「じゃあセアノサスとアルカンカスも……」
「「あれはあなた(お前)についてよ(だ)」」
「この恩知らず共がっ!」
俺は頭を抱えて店内を右往左往して歩き回った。
なんだこの番組は!?これじゃまるでかつて超エリートギルドの元幹部だったカリスマの俺が仲間の裏切りに遭いギルドを追放されて闇堕ちして、表向きはお菓子屋の店長をしているが裏の顔は密かに麻薬販売を復活させようとしている犯罪者みたいな扱われ方じゃねぇか!
「何考えてるか知らんが多分勘違いしてるぞ」
アルカンカスが何か言っていたが俺は素知らぬ顔で受け流す。
俺達が見た放送前の映像はそれなりにいいドキュメンタリー兼店紹介のなんて事ない普通のものだったはず……まさかアイツら差し替えたのか?
「ていうかサビターさん!?何ですかあれは!?」
「なんですかじゃねぇよ!聞きてぇ事があるならちゃんと情報を言葉として伝達しろボケ!こっちは分からないことだらけで頭がおかしくなりそうなんだよ!」
「私達の事馬鹿とか猿回しの猿とか、言いたい放題じゃないですか!えぇ!?あまり舐めてると刺しますよ!」
「サビターさんサビターさん。貴方いつの間にジム通いなんてしてたの?確かに最近お酒やらつまみやら食べてお腹少し出てるなとは思ったけど」
「い、いやジムはアイツらに連れてかれたんだ。己を鍛えてるストイックな漢らしさを収めたいって」
俺は一瞬どもりながらもなんとか言い訳を立てた。
本当はセアノサスの言う通り暴飲暴食のし過ぎで腹が出てきたから痩せるために行っているとはとてもじゃないがいえなかった。
「数々の失言があったが、ありゃ捏造だ。悪意ある編集であんな感じになっただけでそんな事言ってねぇよ!……言ってねぇ、よ?」
「自分の発言くらいはせめて自信を持て」
アルカンカスに横槍を入れられた俺はついに我慢の限界を迎え、店から飛び出した。
「あっ!逃げた!」
「いいわよいいわよ。溜まったストレスを発散しに行っただけだから。すぐ戻ってくるわ」
アリーシアの怒りの声とセアノサスの間延びした声が聞こえたが、俺の耳からは直ぐすっぽ抜けて言った。




