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第119話 僕達が撮りたいのは③


 サビターはウィルヒル国内のとあるバーで酒を飲んでいた。

 この国では定番の琥珀色の液体が丸い氷と溶け合う酒、メルガンを飲みながら、彼は己を呼んだ相手を待っていた。


「お待たせしてすみません、サビターさん」

「ああ良いってことよ。アンタらの奢りだっていうならな」


 サビターは若干顔が赤みがかった様子で言う。もう既に瓶を二本空にしており、泥酔二歩手前のような様相をしていた。


 サビターが待っていた相手は自らを取材したいと申し出た取材班の二人、キベルザとカラブだった。

 二人は「もちろんです」と言いながらバーカウンターの席に着く。


「それで、今日は俺と話したいことがあるんだろ?」

「ええ、まぁ……」


 キベルザは言葉を流しながら目線を下に移す。三人は飲み物を注文し、一息つく。


「今回はオフレコでお話しさせてください」


 一口飲んだキベルザはサビターに向き直って改まった様子で言った。


「おふ、れ……?あぁ、いいぜ。実は俺からも、お前らに言いたいことがあったからかな」


 サビターはオフレコの言葉の意味も分かっていないのに快諾した。

 サビターは「お先にどうぞ」と言ってキベルザ達から初めに話すよう促す。


「サビターさん。あれは、一体何なんですか」

「あれってのは、なんだ?」

「惚けないでくださいよォ!」


 キベルザは突然天井を仰いで叫び出した。


「なぁ、酔うにはまだ早すぎるんじゃねぇの?まだ一杯目だろ?それ」

「あぁこれただのコーラです」


 キベルザは「ほら」と言って落ち着いた表情でグラスを見せる。

 グラスの中は茶色の液体に湧き立つ泡が確認でき、確かにただの炭酸飲料であることが分かる。

 サビターは突然叫んだり落ち着いたりするこの男を見て情緒の不安定さに少し驚いていた。


「それで、あれってのはなんなんだ?」

「今までの行動ですよ!バイトの女性にガンつけられて腰をヘコヘコしたり、元ギルドの幹部達に詰られても報復の一つもせず腰をヘコヘコして、一体どういう事なんですか!?」

「あのな、その腰ヘコヘコって言うのはやめてくれるか?俺がアリーシアやあの幹部連中に足蹴にされて興奮してるみたいな感じになるだろ」


 サビターは呆れ顔でやめるよう言うが、「いいえ言わせてもらいますよ!」とキベルザは続けて言う。


「今の貴方は周囲の人間と馴れ合って腐りかけている!昔の貴方はあんなんじゃなかった!戦場では敵の生き血を浴びて喜びの雄叫びを上げて殺戮をする不死身の超人兵士だったはず!」

「なぁお前らの目から俺はどんなふうに映ってるわけ?俺はそんな狂戦士じゃねぇわ」


「そもそも」とサビターはカウンターに着いた手を顎に乗せて眉を顰めながら言葉を続ける。


「お前らとは喋ってまだそんな日にちも経ってねぇ。なのにどうして俺の事が分かるってんだ?」

「僕達はずっと前に貴方と会っている!」


 キベルザはダァン!とカウンターに拳を打ちつけて怒りを放つ。

カウンターに置かれていたグラスの中身が波のように揺れる。


「少し僕達の話をさせてください。まず初めに僕達、なんでサビターさんを尊敬しているか……ちゃんと話した事はなかったですよね」

「そういやそうだな」

「実は僕達はウィルヒル王国の元軍人だったんですよ」


 キベルザがグラスを握りながら語る。

 カラン、と氷が音を立てて少しグラスの下へと落ちる。


「と言っても大して何も活躍してないただの下っ端ですが。実はサビターさんと昔一度だけ会った事があるんです」

「……」


 サビターは二人の顔を見て顎に右手を当てて考え込むが、首を傾げに傾げても、彼らの事を思い出せず、「あー……」と気まずそうに言葉を漏らす。


「あぁすみません。会ったというには語弊がありました。当時僕達はマッドギア領の侵攻作戦に参加してました。でも魔力無しの雑兵ばかりが集まった部隊で、対して敵側は人間を超えた機械兵士。皆無駄死にするものだとばかり思ってました」


 カラブは謝りながら訂正する。

 サビターは黙ったまま酒をちびちび飲みながら二人の話を聞き続けた。


「予想通り、僕達の居た部隊は数時間も持たずに壊滅状態で、もうだめだ死んでしまう……そう思った時、ニーニルハインツギルドの皆さんが現れたんです…!」


 カラブは当時の様子を思い出し、若干興奮気味に語る。


「やはり、ウィルヒル王国随一のギルドの方々は最強の二文字が似合う方ばかりでした。皆魔法や特殊能力を使って敵の圧倒的物量と科学の力を捩じ伏せていました」


 でも、とキベルザは言葉を区切る。


「そんな人達の中で一人だけ異質な人がいたんです。魔力や特殊能力を持たない身でありながら、先陣を切って冷酷無比に次々と敵を殺す男が」

「随分と物騒な奴だなソイツは」

「貴方の事ですサビターさん。あの時の貴方は、不死身の能力も持っていなかった本当にただの人間だった。そんな貴方があのジョニー・ニーニルハインツの隣で戦っていた。僕達のような存在にとって、貴方は憧れの人だったんです」


 キベルザはそう言ってサビターと向き合いながら言う。

 カラブもまたうんうんと首を縦に頷きながら同調する。

 だがサビターは「はっ」と鼻を笑って一蹴する、ら


「俺はギルドをデカくしたかったから参加しただけさ。戦争で大きく貢献できれば、国家公認のギルドとして取り立てられ、飯の量も質上がるからな」

「あの時の貴方は生きる活力が凄まじかった。どれたけ強い敵が現れても、貴方は決して倒れず敵を討ち倒した。でも、今の貴方は……腑抜けてる」


 カラブはそう言って肩を落としながら言い、キベルザはため息を吐いた。


「僕達は昔の貴方を撮りたいんです。今のような、平和に慣れてしまったような姿じゃない」

「へぇ、随分とナマ言うじゃねぇか」


 サビターはホルスターからB.B.を抜いてキベルザのこめかみに向けた。

 カラブは動揺して冷や汗を流すが、キベルザは震えながらも興奮していた。


「そう、そう……これですよこれ!僕はアンタの中に眠る凶暴さが見たかったんだ!」


 キベルザは嬉しそうに言ったが、サビターはただただ白けた表情でキベルザを見つめていた。


「お前…今の俺は日和ってて、過去の俺はギザギザしてた……みたいなこと言ってたよな?」

「ええ!でもそれは僕達の思い違いでした!今の貴方は俺達が求めてた危険なアウトローそのものだ!カラブ!何やってる!早くカメラを回せ!」


 キベルザはカラブに早く撮影するよう催促した。カラブは慌てながらもカメラを点けて撮影の準備をしていたが、サビターはその様子を見た瞬間、呆れたように銃を下ろした。


「え、さ、サビターさんなんで……」

「お前等は俺の何を知ってるんだ?」

「え?はぁ?」


 サビターの言葉にキベルザ達は口を開けてポカンとした表情になる。


「昔お前等が見た俺の姿は俺の一面に過ぎねぇんだよ。実際俺が前線に出てたのも、目立ちたかっただけだしな。俺は今も昔も横暴で自己中で自己顕示欲が強い。だがそれと同時に俺の女や仲間には完全に尻に敷かれて頭が上がらねぇ」


 サビターはそう言ってカウンターに顔を下に向けたまま語る。

 キベルザとカラブは呆然としながら彼の顔を見ていた。


「俺もお前らの期待に応えようと悪っぽい姿や行動してみたが、やっぱダメだ。俺はカッコいい時とダサい時がある。カッコいいところだけ見せたくても見せられねぇ。意識したら余計演技臭くてぎこちなくなっちまう」

「そんな事ありませんよ!僕達はサビターさんのことを──」

「いや、いい。いいんだ。カメラ向けられて分かったよ。どれだけカッコつけても結局ボロが出ちまう。所詮俺は目立ちたがりで寂しんぼのガキのままさ」


「でも」と言ってサビターはニヤリとしながら言葉を続ける。


「そんな俺でも愛想尽かさないで付いて来てくれる仲間がいる。それが分かってるだけで俺は十分だ。わざわざカッコつけたり馬鹿やったりする必要なんざ最初からなかったんだ」

「サビターさん……」


 キベルザは彼の名前を呟く以上に何も言えず、カラブもまた、どう言おうか迷っていた。


「あ、これもオフレコ…?で頼むぜ」


 サビターはそう言って酒を一気に飲み干し、「もう一杯!」と言ってバーのマスターに追加の酒を要求する。


「最近体内のアルコールの分解の機能を遮断する事ができるようになってよ!これでいつどこでも酔えるぜ!ギャハハ!」


 順調に酒が身体に溜まり、出来上がっているサビターを見て、キベルザとカラブはわだかまりが消えたようなスッキリとした表情でお互いを見合って頷き合うと、


「サビターさん。あと少し質問にお付き合い願えますか?」

「ん〜〜〜おっけ!」


 そう言ってサビターは何を聞かれるかも分からずにまた快諾した。

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