第114話 飲食店の密着取材は忙しそうで見てる側はなんだか申し訳なくなる
魔導テレビという言葉にサビターを耳をぴくりと動かす。
「魔導テレビって、確かアレか?魔石を元にエネルギーを作り出して映像魔法を人為的に作り出すあの魔導機械か?最近流行ってるのは知ってたが、そのでぃれくたー?が来るのなんて俺は聞いてねぇぞ」
「あぁ、ごめんなさい。サビターさんの代わりに私がお返事をしたんです。だってサビターさんってテレビに出るのは苦手でしょう?」
「まぁな。全国共通魔波で猿回しの猿に誰がなるかよ。そもそもそんな手紙あるなら俺に言えよ!俺はここの一番偉い人間なんだぞ!?」
「貴方さっき責任者は私達全員だって言ってましたよね?」
ころころ変わるサビターの言葉にアリーシアは呆れた表情で言葉を返す。
「猿回しなんてとんでもない。我々はサビターさんの事を尊敬してるんです!」
キベルザの言葉にカラブも同調し、首を縦に振る。
サビターはそんなキベルザの言葉に耳を明らかに大きくし、「ん?」と言って彼等の言葉を待つ。
明らかにもっと言えよと顔に出ており、アリーシアとタマリとアルカンカスは苦い顔していた。
「本当はグルメ番組の取材ですけど……サビターさんがお菓子屋さんで働いていると聞いてこれは絶好の機会だ!って思ったんです!」
「もっと良い店あるでしょうに……ウチは味だけは保証しますけど店内の治安は幕末の京都とさして変わらないですよ」
「それは言い過ぎじゃないかしら?せいぜい夜の歌舞伎町くらいでしょ?」
「いずれにせよクソみたいな治安だな」
アリーシアとセアノサスの例えにアルカンカスは鼻で笑いながら反応する。
「今回我々はサビターさんの素晴らしさをもっと広めたいと思いここに来ました。我々、いや俺は貴方の大ファンなんです!この国では貴方は悪評があることで有名ですが…魔力を持たぬ身でありながらかの有名な人魔対戦で活躍し、この国のみならず世界を守り抜いたあなたの事はもっと世界によく知られるべきだと思うんです!」
「ほう」
サビターはキベルザ達の顔を直視せず、横目で聞き涼しい顔で聞いている風にしていたが、耳は完全に彼等の言葉を期待しており、鼻は天井を突き破りそうなほど高々になっていた。
「そしてつい最近起こったグラス産業の国家転覆を阻止したのは、国民の過半数はニーニルハインツギルドであると思われてはいますが、我々は貴方こそがこの国の真の救世主であると気づいています!」
「ほう!」
「ウィルヒルではジョニー・ニーニルハインツ氏が脚光を浴びていますが、真に大衆から崇め奉られるべきは、サビターさん、あなただと俺は思うんです!」
「ほう!ほう!ほう!ふぉう!!」
サビターはべた褒めされ、悦に浸り全身で絶頂を味わっていた。
その様子にセアノサス以外の三人は害虫を見るように見下していた。
「オイオイそんなに煽てるなよぉ。まぁくるしゅうないくるしゅうないぞぉ~」
サビターはテーブルに足を乗せながら椅子の背もたれに背中を預けて気持ちよさそうに言う。
本当はもっと言ってほしいのかチラチラとキベルザとカラブをチラ見していた姿を見てセアノサス以外の三人は死んだ魚のような目でうんざりしながら天井を見つめて早くこの時間がすぎないかと祈っていた。
「だからお願いです!どうか我々に貴方を取材させてください!」
キベルザとカラブは二人共頭を下げて懇願した。
「ん?悪ィ耳ィ悪くてよォ。もう一度言ってくれや。えっナニ?俺の事を取材したいって?」
「本当は全然聞こえてるのにわざと聞き耳立てて……ウザイです……」
「おっ、お願いです!どうか我々に貴方の真の英雄の姿を、全世界に広めさせてください!」
二人は頭を下げ続けたまま頼み込む。
「ん?ナニ?俺の最強無敗百戦錬磨勇猛果敢不撓不屈英雄伝説、不死身のサビター様英雄譚を制作させていただきたいって?」
「いや絶対そこまでは言ってないです」
「よくもまぁここまでちょーし乗れるよね」
「コイツ、もうこうなると止まらないな。これ以上悪化する前に早く殺した方が良いんじゃないか?」
煽てられて完全にスイッチの入ったサビターに唖然とした表情で呆れるセアノサス以外スウィートディーラー店員達。
セアノサスだけはニコニコと愛らしい物を見るかのように微笑んでいた。
「まぁそこまで言われたら俺も無下にはできねぇなぁ」
サビターはため息を吐きながらやれやれ仕方ないとでも言いたげな顔で言う。
「「では!?」」
キベルザとカラブは引き続き頭を下げたまま是非を問う。
迫真の声色にアリーシアはギョッとしながら様子を見守る。
「密着取材、やっちゃう?」
「は、はいっ!ありがとうございます!!」
サビターはもったいぶりながらも取材に了承し、キベルザとカラブはお互い抱き合いながら大喜びをした。
「俺は今まで取材NGだったが、特別に撮らせてやる!カッコよく俺を映せよ?」
「ありがとうございますっ精一杯サビターさんの勇姿を映させて頂きます!」
「オイオイいきなり来て早速撮影かよぉ!お前ら節度ってモンを知ろうよ節度をさぁ!」
大の男二人がキャーキャー言いながら飛び跳ね、そして大の男が満更でもない風に鼻頭を人差し指で擦りながら照れくさそうに笑う。
そんな光景を本当にうんざりした、明後日の方を見ながらどうでも良さそうにしているアリーシア達が全員同じタイミングで大きなため息をついた。
「これどう思います?」
アリーシアがタマリとアルカンカス、そしてセアノサスに問う。
「いや、あやしすぎでしょ」
「サビターを尊敬している人間なんぞ存在するわけがない」
「ですよね」
三人はうんうんと頷きながら煽てられて調子に乗っているサビターを哀れなピエロを見るような目で見る。
「確かにサビターは人に尊敬されるような性格はしていないけど、あの人戦績だけはあるから、そっちの方に目が行ってるかもしれないわ」
セアノサスはそう言うが、完全に人格の方については否定している。
彼を愛している人間でも彼の最低な人間性は美化しきることはできなかったようだ。
「あの、具体的に聞きたいんですけど貴方達が作るどきゅめんたり…?というのはどういうコンセプトなんですか?」
アリーシアがどんな映像を作るのかをキベルザとカラブに聞くと、二人はよくぞ聞いてくれましたと鞄の中から少し厚みのある紙の束を取り出した。
「我々が今回作るのは、サビターという謎に満ちた傭兵の過去、そして今後の未来に迫るノンフィクションドキュメンタリーです!」
「グルメばんぐみって言ってなかったっけ」
「俺もそう聞いたんだが」
「サビターさんの過去……?確かにそれは気になりますね。私達が知ってるサビターさんは元ニーニルハインツギルドの幹部で、ハイエナが徳を積んで人間になったような人間ということしか知りませんからね」
「サビターはにんげんしっかくのクソ野郎!」
「お前等今月の給料覚悟しとけよ」
サビターのふざけた態度が一切感じられない低い声にこれは本気だと感じたアリーシアは「すみませんでした」と刹那の瞬間で謝罪をしている中で、アルカンカスが「俺からも聞きたい事がある」と右手を上げる。
「お前達は何故サビターに取材を?この国には市民ウケが良い人間が他にもいるだろう?何故よりによってサビターなんだ?コイツは戦いだけが取り柄のロクデナシだぞ」
「言いたい放題言うじゃねぇか。俺がテメェ等の給料袋握ってるの忘れてんのか?それとも喧嘩上等か?お?」
サビターは頬をピクピクさせながら手にBBを持ちながら激怒一歩手前にまで進行していたが、アルカンカスは我関せずとキベルザ達の答えを待つ。
「確かに、かのジョニー・ニーニルハインツを取材すればそれなりに良いモノを作れるでしょう。彼はこの国の代表的な英雄だし、彼の素顔や語られていない物語も市民は知りたがるでしょうしかァしっ!」
キベルザは言葉を徐々に早く口に出し、一呼吸置いて止める。
最初は冷静だったのに彼の言葉尻が高速になったことで一同はビクリと肩を震わせる。
「我々は、僕はこの国の光であるジョニー・ニーニルハインツの対となる影の存在に光を当てたいのです!サビターさんはこの国の第二の希望の存在になると、確信していまァす!」
キベルザは拳を突き立てそう言い、カラブはパチパチパチパチと拍手をした。
「フッ……そうかそうか。この俺を、世界はようやく認めざるを得なくなったというわけか」
「おっ、ちょーし乗ってる」
「乗ってますね」
「乗りに乗ってるサビターも愛しいわ」
「調子のいい奴だ。こういうヤツが人生を楽しく生きるんだろうな」
セアノサス以外は胡乱な物を見る目で思い思いの言葉を口にしていた四人だが、サビター本人はもはや撮影を受ける満々で断る選択肢はなさそうだと判断し、諦める事にした。
かくして、サビターのドキュメンタリー番組作成が開始された──




