第111話 福利厚生は手厚くしろ
分割投稿です。時間を置いてまた投稿します。
「悪いんだがもう一回言ってくれないか?」
「俺のギルドの傘下に入れ」
「お断りだ馬鹿野郎」
「何故だこの野郎」
サビターのふざけた回答にジョニーも同様のトーンで疑問をぶつける。
そのジョニーの謎の言動にサビター以外の4人は眉を顰めて怪訝な顔をしていた。
「お前俺の事さんざなじって追い出したよなぁ?それがなんで急に引き戻すような真似すんだ?」
「元々お前の事はほとぼりが冷めてから戻すつもりだった。幹部とはいえ罪を犯したのになぁなぁにすれば不破が生まれる。不破が生まれればギルドの結束力に関わる」
ジョニーは淡々と事実と理由の言葉を並べて語るが、サビターは全く納得しておらず、喧嘩腰の口調で喋り続ける。
「一組織の頭張ってる男が吐いた唾飲んでんじゃねぇぞコラ。謝罪としてそのスーパーサイヤ人みたいな金髪頭丸刈りにして土下座しろよ。お?」
サビターはそう言ってジョニーの眼前まで顔を寄せ、ガンを飛ばして睨みつける。
だがジョニーはそんなことをサビターにされても何ら変わらない涼しい顔で話し続ける。
「お前は素行こそ問題だが、戦闘力と功績だけは折り紙つきだ。性格は野糞のように鼻につく最低な人間で、その糞に集るハエのようにしつこく鬱陶しい奴だが、それでもお前は俺達の家族だ」
「ふふ、相変わらず二人は仲良しさんね。珍しくサビターを褒めてるわ」
「え…?この人本当に褒めてるんですか?ボロクソに貶してるじゃないですか」
アリーシアはドン引きしながらセアノサスに耳打ちしていたが、セアノサスの方はそんな事微塵も考えておらず、ニコニコしながらこう返す。
「あの人、サビターと絡む時はあんな感じなのよ。本当はそんなこと思ってないわ」
「今その言葉とは裏腹に実は仲が良いと言っている方々が今にも殺し合い始めそうなくらいメンチ切りに切りまくってるんですが」
二人は剣や銃に手を伸ばし、今にも殺し合いを始めそうな勢いで殺意を飛ばして険悪な空気を醸し出していた。
そんな恐ろしい様子をアリーシアは青ざめた表情で見ながらセアノサスに問いかけるが、セアノサスは「懐かしい〜」と微笑ましい顔で彼等を見つめていた。
「雑草が国家転覆を企んだ際、実際にこの国を救ったのは我々ではなくお前と、その仲間達だった。そんな優秀な戦闘力を持つ者を野放しにするのはもったいない。是非ともこの国の為に貢献してほしい」
ジョニーはサビター達一人一人の顔を見て真面目な顔と声のトーンで言い放つ。
「お前の言いたい事は分かるぜ。猛者は放し飼いをせずに国の元で飼い慣らしておきたい。だが俺達はただの菓子屋だ。朝から夕方まで働いて、そのあとでモンスターを狩ってくださいなんて言われたら疲れて死んじまうぜ」
サビターの言葉にジョニーは「勿論」と付け加えて話す。
「タダでとは言わない。俺達は国家に所属する冒険者だ。正当な報酬は払うし、俺のギルドと同じ福利厚生を付けよう」
「例えばなんですか?」
アリーシアが福利厚生と聞いてサビターの肩にぶつかりながらジョニーに問う。
サビターは「痛ぇ!」と言ったが彼女は全く気にしていなかった。
「そうだな、例えば、休日は完全週休2日制で休みたい日があればいつでも休める。休日出勤はナシ、報酬は依頼を達成すれば取り分は全て受注者の物になり、頑張れば頑張った分インセンティブで報酬を追加支給する。他には一流のマッサージ師によるリンパ、オイル、指圧、鍼灸、を無料で受けられたり、王国内のカフェで格安で飲食を出来たり、トレーニングルームを無料で使えたり、後は男性アイドルのライブに行け──」
「私、アリーシアは決めました。貴方のギルドの傘下に加わります」
アリーシアは澄んだ瞳でジョニーの提案を引き受けた。
彼女の瞳はキラキラと輝いており、期待に満ち溢れていた。
「お前!最後のアイドルのくだりで決めただろ!」
「や、そんなことないですけど。ていうかめちゃくちゃ好条件じゃないですか!こんなの引き受けない方がおかしいですよ!もう私は決めましたからね!」
「そもそもお前に決定権はねぇよボケ!」
アリーシアの勝手な判断にサビターは怒鳴りつける。
「じゃあちゃんと福利厚生は手厚くしてくださいよ!休み少ないし重労働だし!ていうか貴方ちゃんと働いてくださいよ!」
「なんだとぉ!?」
サビターとセアノサスがお互いを罵り合っている間にタマリがジョニーのマントの裾をクイクイッと掴んで引っ張る。
「まほーつかいむけのふくりこーせーある?」
「あぁ、あるぞ。欲しい魔導書があるなら申請すれば経費で落としていつでも貰えるし、研究したい魔法があるなら資金と場所も提供する。魔法の杖も扱う者の意見を取り入れた100%オーダーメイドのものを用意するぞ」
「ぼくタマリ・マリソンズはきょーからニーニルハインツギルドのさんかにくだります」
タマリもアリーシアと同じように瞳を輝かせながらジョニーに服従の言葉を伝える。
「お前も勝手な事言ってんじゃねぇよ!かどわされんな!」
アリーシアに続きタマリも陥落し、一気に二枚抜きされたサビターは焦り始める。
「君もどうだ、アルカンカス。元ゲンジの君の戦闘力はきっと俺のギルドの中でも善き事に活かせると思うのだが」
間髪入れずにジョニーはアルカンカスも勧誘する。
サビターは流石にコイツなら誘惑に打ち勝てるだろ……と思いジョニーを鼻で笑った。
「…まぁ俺は元々弁償の為に働いていただけだし、それはもう返せたものだと考えている。それにアンタの言う通り俺も元ゲンジの端くれ、秩序維持のためにこの力を使うならいいかもしれんな」
明確な回答は出さないものの割と前向きな返答をし、3人もジョニーの方についてしまった。
「お前はまだ弁償終わってねぇよ!秩序維持よりウチの店の清潔感を維持しろ!」
「……?何いってるのサビター?ここはボスのジョニーだんちょーに付き従わないと」
「そうですよサビターさん。団長さんの命令は従わないといけないんですよ?」
いつの間にか3人はジョニーの方へと物理的に寄っており、サビターを咎める。
「お前らのボスは俺だバカ!おいジョニー!このバカ共を甘い嘘で誘惑するのはやめろ!ウチは挽き肉は禁止なんだ!」
「ひきぬきだよバカサビター」
タマリの訂正にサビターは「うるせぇ裏切り者が!」と中指を立てる。
それに応じてタマリも変顔をしながら中指を立ててサビターを煽った。
「甘い嘘も何も全て実在してるものだが。それは一番利用していたお前が良く知っているだろう」
「……あっ」
次々と魅力的な待遇により骨抜きにされてしまったアリーシアとタマリを叱りつけていたサビターは今までの怒りがウソのようにすっぽりと抜け、口を半開きにして意図的に忘れていた都合の悪い真実を思い出す。
「酒場に毎日通い、その度に経費で落とし続け、気に入った銃を見つけたら仕事上必要だと言って200丁近くも経費で落とし続け、更には冒険者向け風俗店で週八で通い続けそれと──」
「お、俺ェ!!古巣に戻るのも全然悪くないっ思っててェ!!!わだかまりも解けたみたいだしもう戻ろっかなって考えてたとこなんだワァ!!!!」
聞かれたら自分の信用に関わると感じたからか、サビターはジョニーの告発を大音量の怒号で塞ぎ消す。
「貴方が一番エンジョイしてるじゃないですか。さぞかし居心地が良かったでしょうね」
「なんか話きいてるとまだまだ余罪ありそうだね」
「必死にアリーシアとタマリに食い下がっていたのは全部本当に存在しているものだったからか。説得力が増したな」
ことは出来ず全て聞かれ、ごみを見るような目で三人全員に睨まれていた。
「風俗店に週八、ねぇ」
サビターは背後のセアノサスのやや低い声色に背筋をゾクリと立てながらゆっくりと後ろを振り向く。
「いや、俺は、あぁ…その、ね」
「分かってますよぉ。貴方は常時体力が満タンで疲れ知らず。溜まるものも溜まる。それは仕方ないことです。えぇ仕方ない事です。でもいいんです。最終的には私の元に戻って来たんですから」
セアノサスは砕けた言葉から以前のような丁寧な言葉に戻り、サビターに一歩ずつ近づき、遂には眼前まで擦り寄り、彼の股間に右手を伸ばす。
その次の瞬間、セアノサスは彼のモノをズボン越しにギュウッ!と固く握り締める。
サビターは「ヒュッ」と上擦った声を出して顔を青褪めて冷や汗をダラダラと土砂降りの雨のように垂れ流す。
「でも、週八は通い過ぎですよね?念のため再教育した方が良さそうですねぇスケベさん?」
「あっが……ぎ……!つぶ、潰れる!潰れるゥ!」
「でもあまり私以外に現を抜かすと今感じてる痛み以上に甘美な痛みを与えてあげるわ。あぁ、今夜早速してあげようかしら」
「スミマセ、スミマセン!許して!許し……!」
サビターは痛みによる苦痛を逃がす為ハァハァと言いながら必死に許しを請い、そして気絶して倒れた。
「まぁちゃんと反省したのは見ればわかるからこのくらいにしてあげましょうか」
セアノサスはサビターを三人とは違う、蛇が得物を狙っているかのような鋭く細い目つきでサビターを見ていたが、直ぐに態度を変え、いつもの明るい少女の顔へと戻す。
「あっ!私はサビターさんと一緒にいれるなら別に戻ってもいいですからね!団長!」
「ああ。君は優秀な錬金術士であると同時に回復術士だ。是非とも俺達の元でその力を活かして欲しい」
ジョニーはそう言って微笑んで頷き、プディングをまた一口食べ、コーヒーを流し込み、口の中で咀嚼して流し込む。
そんな時、タマリが「きになってたんだけど」とジョニーに話しかける。
「ぼくたちがボスのギルドに入ったら、冒険者としてはたらくことになるんだよね」
「ああ、そうなるな。ボスか。今まで団長としか言われていなかったからあまり耳に馴染まないな」
「じゃあこのお店かいたいしちゃうの?」
タマリは心配そうにジョニーに尋ね、ジョニーもまた、一呼吸おいてから口を開こうとした。
「それは──」




