第110話 オフにも関わらずまた奴が来た
「はい、というわけでお前らのせいでセアノサスは小さくなり、俺はチ●ポが爆発してEDになった。本当によくもやってくれたなこのゴミカス共が」
サビターは青筋をビキビキと顔面を覆い尽くすほどに怒り心頭になりながら腕組みをしてキレていた。
「すみません、二日酔いで頭ガンガンする状態でそんな話聞かされると全然理解できないんですけど。え?セアノサスさんいつどうやって小さくなったんですか?」
「ぼくもお腹いっぱい食べて寝ちゃったからいつシロップ舐めたのか分かんない」
「……」
苦悶の表情で頭痛と戦っているアリーシアが両手で頭を抑えながら疑問を口にし、タマリはあくびをしながら応え、アルカンカスは地面に仰向けになりながら沈んでいた。
「お前からも言えよセアノサス!許可なくちんこいガキにされたんだぞ!?普通怒るよなぁ!?」
サビターはセアノサスの小さい子供の両肩をユラユラと揺らしながら訴えるように言う。
しかしセアノサスの方は存外悪い気分ではなさそうだった。
「え~?」と困ったように声を出しテレテレとした表情だ。
「でもまた若々しい身体に戻れて良かったなって思ってるし、可愛いまま小さくなれたからプラマイプラスって感じなんだよね~。それに……」
そう言葉を濁しながらセアノサスはタマリの方へ顔を向ける。
「肉体年齢を操作する薬は錬金術の中でも上級者向けなのに、タマリはそれを作って見せた。我が弟子の成長を直接身を以って感じる事ほど、嬉しい事はないよ!カッコいいじゃん!男の子!」
そう言ってセアノサスはタマリのとんがり帽子を外し、彼の頭を撫でる。
彼女の細い指がタマリのサラサラの白髪を優しく撫ぜる。
身長はほとんど変わらない二人だが、精神的には大人のセアノサスに褒められ、年相応の子供であるタマリは首からつむじの先まで紅潮させ、それを悟られないよう急いで帽子を取り戻し深く被り直した。
「あっ見てくださいサビターさん!照れてますよ!あのタマリが!ポーカーフェイスが得意なあのタマリが!」
「ど〜でもいい〜死ぬほど。本当にど〜でもいいよ〜頼むから誰か俺のEDを治してくれ〜……」
サビターは紙を丸めてくしゃくしゃにしたような興味のなさそうな顔で言う。
あまり見ないタマリの照れた表情を見てアリーシアは貴重がって興奮するが、アルカンカスに「その辺にしておけ」と言われて飛んで跳ねるのをやめた。
一通り落ち着いてから、タマリが口を開いた。
「そういえばさ、僕達これからどうするの?」
「どうするって、いつも通りスイーツを作って売ることじゃないですか」
「いや、そっちじゃなくてポーションの方。金の卵を産むガチョーン略して金玉ガチョーンが作れなくなっちゃったよ」
サビターが「なんだその汚ぇ略し方は」と怪訝な表情で首を傾げて言うが、アリーシアは「別にいいじゃないですか」と気にしないように言う。
「スイーツだけでも結構な売り上げ出してますし、なんなら黒字だし、違法ポーションはもう古い!これからは健全なお金の稼ぎ方をすれば良いんですよ」
アリーシアの言葉にサビターは「フンッ」と鼻で笑って一蹴した。
「な、何かおかしいんですか?」
「そんな耳障りの良い言葉言っちゃってよ。お前、大金を一気に稼いだ時のあの脳汁がドバドバ出た感覚を簡単に忘れられるのか?」
サビターの揺さぶりにアリーシアは「ギクッ」とわざわざ声に出して反応した。
そのあからさまな態度にアルカンカスが「本当に口に出す奴がいるか」と苦言を呈した。
「お前ら全員そうだろぉ?汗水垂らして働いて得た数百万のグラッドよりも!法にめちゃくちゃ触れまくって1億2億を稼いだあの興奮と高揚感を忘れられるわけねぇよなぁ!?」
「そうね、私も自分の商品が億単位で動いてるのを見た時は正直興奮したわ」
セアノサスは下腹部を押さえて呼吸を若干乱しながら顔を赤らめて言う。
「うぅ……!」
「その言葉はずるいよ」
「俺は別にどうでも良い」
サビターは舌なめずりをしながら下衆な顔でそれぞれ3人に詰め寄る。
アルカンカス以外の2人はどこか心当たりがあるのか、サビターの目をまともに見ながら否定する事が出来ず、目を逸らしたり、口笛を吹いて誤魔化そうとしていた。
「俺は何も大金を一気に稼ぐ事に罪悪感を覚えろなんて言ってるわけじゃねぇむしろ逆だ。ジャンジャガッポリ稼いでこの世の金で買える物全部買えるくらい金を稼ぎてぇ。それはお前らも同じだろ?」
「わ、私は借金を返さないと……」
「僕も学校の修理費を稼がなくちゃ……」
「俺は日銭を稼げればそれでいいんだが」
「お前には聞いてねぇよ無銭飲食野郎!」
サビターに熱いところを突かれ、「グッ!」と痛いところを突かれたような声を出し、アリーシアに「本当に痛いところ突かれたらそんなあからさまな声出す人いるんですね」と呆れた視線でアルカンカスを見つめながら言った。
「でも、僕たちのショーバイ全部ニーニルハインツギルドにバレちゃったよ?それでもまたポーション売るの?次やったらころす、みたいなこと言われてたよね?剣でしょーしつまじっくやった時みたいにほんとーにころされちゃうよ?」
タマリは「ブォンブォン!」と言って剣で空気を切る動作を見せ、「ぐぇぇ!」床に倒れて死ぬような真似をした。
「オイオイ、この俺を誰だと心得る?」
「私の王子様♡」
「人間のクズですかね?」
「殺しても死なないゴキブリ野郎だな」
「睾丸爆発ED男」
「そうか、だが今の俺は寛大だ。お前らの事は後で殺すとして、俺には先の未来を見える。近い将来あくせく働かずともマスをかきながらでも1億2億100億と稼ぐヴィジョォンが見えているのさ……」
サビターはビジョンの部分だけ吐息多めに自信たっぷり気に言うが、肝心のセアノサス以外の3人の反応はと言うと、「コイツ適当なことばっかり言うからなぁ……」とでも言いたげな、胡散臭い人間を見るような目つきだった。
「はいバカ。お前らバカ。俺がそんなヘマするわけねーじゃん。いいか、聞いて驚けそして崇め奉れ!俺が計画しているのはな──」
サビターが最後まで何かを言おうとしその時、店内でビーッビーッ!とアラーム音が鳴り響いた。
「え、え、なんですこれ?」
「Jアラート!?ウッソだろなんでこんなタイミングで……!」
突然のアラーム音に困惑するサビター以外の4人はどういうことかと辺りを見回す。
「Jアラートってなんですか?」
「JはジョニーのJだ。最新の防犯セキュリティで要注意人物が近づいてきた時はこうやって警報がなる。ちなみにアイツは超要注意人物リストの一番上に載ってる」
「この国の英雄なのに要注意人物リスト最上位なのか……」
アルカンカスが引きながら呟くと、店の扉の前にジョニー・ニーニルハインツが立っていた。
ジョニーはインターホンを押し、来訪を告げる。
「…はい」
『俺だ。今日は営業していないのか?』
ジョニーは知ったか知らずかは彼の仏頂面から推察することはできないが、休日中にも関わらず
「見てわからないのかな?看板見ろよクローズって書いてるだろクローズって!!」
『すまない、俺は漫画の話には疎くてな。小栗旬が主演の映画なら見たことはあるんだが』
「そっちのクローズじゃねぇよ!ていうかお前映画見んのかよ初耳だわ!」
サビターはジョニーに対してインターホン越しにがなり立てる。
しかしジョニーはサビターの言葉など意に介さず淡々と話を進める。
『そうか、休みならちょうどいい。お前達に報告する事がある。ここを開けてくれないか』
「嫌だね。アポとって出直してきな」
『俺はまだ陛下にお前らが違法ポーションを売っていた事を伝えていなくてな、お前らの今後をどう扱うか話し合うために来たんだが、そうか分かった。このことは陛下に報告させて──』
つらつらとわざと仰々しい言葉を並べて話すジョニーに対しサビターは急ぎドアを開けて彼を店に強引に引っ張るように引き入れた。
「是非未来の話をさせてもらおうか!未来イイよな未来!な!お前らもそう思うだろ!?」
「「「み、未来最高~」」」
アルカンカス以外の三人が声を震わせながらサビターに同調した。
各々自分の行いに後ろめたさを感じているのか滝のように汗を流しながらぎこちない愛想笑いを浮かべていた。
「そうか、それは良かった。意見が合って俺も嬉しいよ」
ジョニーは満足そうに頷き、サビターは作り笑いを浮かべる裏で何が意見が合って嬉しいだ今すぐぶち殺してやりたい、と頭の中で殺意をマシマシにしていた。
「ああ、俺はコーヒーにプディングを頼む。生クリームとチェリーをカラメルの上に添えてくれ」
ジョニーは営業していないのにも関わらずスイーツと飲み物を要求した。
サビターはギリギリ(本当は既に顔に出ていたが)殺意と怒りを顔に出さず、「か、かしこまりしたー」と言ってアリーシアに目配せする。
「あ、はい。今持ってきますからねー」
「ああいや、サビターに持って来させてくれ」
「は?なんで俺が……」
「俺の部下がこの店に来た時に聞いたんだがサビター、どうやらお前は碌に働きもせずにセアノサスと絡み合っていたそうじゃないか」
つい最近の情報まで握っているジョニーを見てサビターはギョッとし、背中に悪寒を感じた。
「な、なんでお前が知って……」
「それは良くないな。心を入れ替えたと言っていたお前が、そのような体たらくでは俺もお前の素行を陛下に報告せねばならない。できれば俺もそれはしたくないんだ」
「あー!はいはいはいはい!分かった分かりましたよ!今持ってくるよこの野郎!」
ジョニーのあからさまな脅迫にサビターは「ぐぎぎ…」と歯軋りしながらジョニーを睨むと、足音をダンダン!と大きく音を立ててキッチンの中へと入って行った。
「「「「悔しいとぐぎぎ…って本当に言うんだ……」」」」
スウィートディーラーの四人はあっけらかんとしながらサビターを見送りながらそう言った。
「どうだ、あのバカは。相変わらず君達に迷惑をかけているか」
ジョニーは鼻で笑いながら返答なんて分かり切っている、といったような表情で四人に問う。
「「「「はい(うん)(ああ)」」」」
セアノサス以外の三人が阿吽の呼吸で返答した。
「だろうな」
ジョニーはそれだけ呟くと、「でもまぁ」と言葉を紡ぐ。
「もしサビターがまた君達を困らせたら俺やギルドの者達に言え。アイツにマナーを叩き込んでやる」
「は、はぁ。それはどうも……」
「だから奴の事はこれからもよろしく頼む。アイツ、一人じゃ何もできないんだ」
「「「「でしょうね(だろうな)」」」」
ジョニーの奴は一人じゃ何もできないという言葉に秒速で同意しながらもお互い笑い合いながらそれ以上は何も言わなかった。
そして彼等四人のその表情を見て満足気に小さく頷くと同時に、キッチンからサビターがトレーにプディングとコーヒーを乗せて現れた。
「おらよ、プディングとコーヒーだ」
サビターはそう言ってトレーからプディングとコーヒーを持ち上げてガチャン、と少し音を立ててテーブルに置いた。
「それじゃ、話してもらおうか。俺達の今後について、な」
「そう急くな。先ずはプディングを食べさせてくれ」
ジョニーはそう言ってプディングの黄色い部分にスプーンを挿し込み、割いてスプーンの上に乗せ、プルプルと震わせながら言った。
「俺達今日オフなんだから早く話してくれよ!」
「悪かった、そう焦るな。それじゃあ早速本題に移る」
プディングを口に入れて頬張り、咀嚼して飲み込んだ後、ジョニーは口を開いた。
「サビター、セアノサス、アリーシア、タマリ、アルカンカス。君達には今日からジョニー・ニーニルハインツギルドの傘下に入ってもらう」
「「「「「え……?」」」」」
ジョニーの言葉にスウィートディーラーの面々は目を見開いて驚きの声を上げた。




