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第109話 俺のエレクチオンをどうにかしろよ


「最近な、セアノサスの性欲が俺を超えてて困ってるんだ」


 サビターが眉を顰めて額に手を当てながら首を横に振る。

 

「じゃあえっちやめれば?」

「だから俺は行商人からこんなものを買ったのさ!」


 そう言ってサビターは一瓶の錠剤を取り出した。


「それはなに?」

「とある国のとある秘境でしか採れない薬草から作った精力剤。これを飲めば一か月、一年だってギンギンだぜ!」

「バカじゃないの?」

「玉に溜まったモノを吐き出さないままでいると虹色に光って玉と下半身が爆発するっていう副作用はあるけどな!」

「バカじゃないの?」


 サビターの話を心底どうでもよさそうな顔で目も合わせずに言う。


「もう店の中でえっちなことするのやめてよ。僕たちのほうまで被害をこうむってるんだよ?」

「タマリ、そりゃ違うぜ。あれは言わばヨガだ。ヨガは身体の健康のために行う。健康のためなら誰でもやるだろ?まぁちょっとエロいかもしれないけどよ、それがヨガだ」

「ヨガなめんなよ」

「全くだ。ヨガの神様に罰が当たるぞ」

「いや、神なんて一々下々の人間のカス事なんざ気にしないから大丈夫だって」


 サビターは呑気にそんなことを言う。

 彼等が何故店内で談笑に入っているかと言うと、既に営業は終わり、彼等は後片付けをしている最中だった。

 しかしサビターはまだ疑問気な顔をしたままだった。


「なぁんでアリーシアは今日来なかったワケ?そんでしかも──」


 疑問に浮かんでいたのはアリーシアが来なかっことについてだ。

 アリーシアは体調を崩して今日は来られないと事前に連絡があった。

 その際代わりの人物を向かわせると言われてどんな人が来るかと思っていたサビターはチラリとある人物を横目に見た。


「な、なんですか?」


 アリーシアそっくりな少女を見ながら、彼は首を横に傾げて見た。


「ちっこいアリーシアだなぁ」

「なっ!?わ、私はアリーシアの従妹のアリスです!似てるだけです!」

「喋り方まで似てて益々違和感があンだけど」

「た、たまたまです」

「言い訳の仕方までそっくりだな」


 サビターが訝し気にアリスと名乗るアリーシアの顔を覗き込みながら見ていると、アルカンカスが「まぁ「そう言うな」と諭す。


「アリスのおかげで今日はなんとかなったろう。アリーシアは病欠だったし、セアノサスやお前はフラッとどこかへ出かけてしまうし、店は火の車だったぞ」


 アルカンカスの言葉にタマリとアリーシアもうんうんと頷く。

 実際店の中はヒドイ有様だった。

 ただでさえ働かないサビターはセアノサスとどこか得消えてしまい、接客と会計に忙しいアリスは子供特有の若さと体力でどうにか店を回し、タマリはあまりの錬金術の忙しさに目が回りそうになりながらもなんとか力を振り絞っていた。

 そのおかげでぎりぎりながらも閉店まで持ちこたえることができた。


「ああ悪いな。どうしても買わなければならない材料があってよ、でも大丈夫だ。もう揃ったからな」

「ただいま!帰ってきたわよ!」


 サビターがそう言った途端、セアノサスがテーブルに大きな買い物袋をドカッと音を立てて置きながら話す。

 買い物袋の中には食材が色々どっさりと入っていた。それが四袋も。


「慰労会、してなかっただろ?明日は店が休みだし、今日一日はハメ外して疲れを取ってくれ。準備は俺とセアノサスがするからよ」

「えっ、そんな悪いですよ私達もてつだいます」

「ぼくもぼくも」


 アリーシアとタマリはそう言ったがサビターとセアノサスは彼等を静止する。


「社員を労うのは俺達ボスの役目だ。椅子に座って待ってろ。今俺達が疲れもぶっ飛ぶようなすけぇ料理出してやるからよ」


 そう言ってサビターはメガネとイヤホンを装着し、せあのさすは腕捲りをしてキッチンへ入り、錬金釜へと向かう。


 彼等はそれぞれ調理と錬金術の分担作業を行なった。

 サビターが肉や油、野菜を使った火を扱う料理で、セアノサスは錬金釜に食材を入れ、かき混ぜる。

 セアノサスの動きは熟練の戦士のような腕前で火力の調節と絶妙な混ぜ加減で調整しつつ、釜の中を棒で混ぜ、サビターは彼らしからぬ慣れたような手つきで食材を切り分け、熱された油が塗られたフライパンの上に落とし込む。


 サビターとセアノサスがキッチンに入ってから1時間後、テーブルの上には5人では食べきれない程の料理が並べられていた。


「まっ、こんなもんか」

「いやこんなもんかってなんですか!?サビターさん料理なんてできたんですか!?」


 アリーシアはとても信じられないと言いたげな驚いた表情で声を出す。

 彼女達の目の前には大人数を対象としたパーティに出てきそうな量の料理と酒、ジュースがそこかしこに並べられていたからだ。

 しかもどれもが光星シェフが作りそうな美しい見た目を誇っていた。


「バカだなお前、俺が器用に包丁使えると思うか?これだよこれ」


 そう言ってサビターはイヤホンとメガネを指でトントンと叩く。


「これが俺の耳元で手順を教えて、メガネのグラスがより詳しい調理方法を教えてくれるんだ。便利だろ」

「まぁ私は錬金術のプロだから、そんなもの必要ないけどね」

「いや素人が包丁を正しく使える理由は……?」


 セアノサスはそう言ってエプロンを畳み、椅子に座る。


「この匂いは……」


 アルカンカスが鼻腔をひくつかせながらピクピクと鼻頭を動かす。


「おお、やっぱ気づくよな。お前欲しがってただろ」

「ジンジャーラテとミートパイか…」


 アルカンカスは一言そう呟くと口角を僅かに上げながら微笑む。


「んじゃあ早速食っちまうか!お前ら!今まで悪かったな!これは俺とセアノサスからの謝罪と反省の証だ、好きなだけ食って飲んでくれ!」


 サビターの言葉に3人はそれぞれお互い顔を見合わせる。

 すると3人同時に腹から尋常じゃない音量の音が鳴った。


「でもアリーシアがいないわね」

「えっ!?あぁ、アリーシアの分も取っておいて後日渡しましょう!」


 セアノサスはアリーシアが居ない事を残念がりながらも「それもそうね」と言って納得し、全員で料理に向かい合う。


「「「「「いただきます!」」」」」


 そう言ってアリーシア、タマリ、アルカンカスの三人はすぐに空の皿の上に料理を山のように盛り付け、勢いよく口に運び始めた。


「う、美味い!労働の後のメシは何とも言えん!」

「今日くらいは身体の事は気にせず、ひたすら食べまくります!」

「ぼくはせいちょーきだからいくら食べても問題なっしんぐ」


 三人は今日一日の激務で腹は極限まで減り憔悴していたのだろう、皆血走った目で食べていた。

 ジュースも酒も味わうことなどまるでせず、そんな事はまるで二の次のように胃に流し込むためだけに咀嚼していた。


「もぐもぐもぐもぐ!」

「がつがつがつがつ!」

「くちゃくちゃくちゃ!」


 三人のがっつき具合にサビターとセアノサスは若干引き気味になりながらも各々よそって食べていた。

 もはや当初の目的を忘れて自分達で盛り付けていた皿を綺麗に空に、汚く空にしながらも更に盛り付けて、固形物も液体も一緒に流し込んでいた。


「あらぁ?アリスちゃん?貴方そんな背高かったっけぇ?」


 セアノサスは泥酔しながら虚ろな目でアリーシアに声をかける。

 もう既にメタモポニータシロップの効果が切れ、大人の姿に戻っていたアリスもといアリーシアは「そうだっけぇ?」と言いながらニコニコしながら酔っ払いながら料理を食べていた。


「あら、なにかしらこれ?」


 ふらふらしながらボトルに入っていた酒を注ごうと立ち上がったセアノサスが床に転がった液体の入った小さな小瓶を発見する。

 中身は黄昏色の綺麗な色だった。

 そしてそれは三人の間では超重要なアイテムだったはずのなのだが、タマリが落としたことにアルカンカスとアリーシアは気づいておらず、また落としたタマリ本人も気づいていなかった。


「ん?もぐ、ああそれおししょーがつにつくったシロップだよくちゃ」

「へぇ?パンケーキとかに合いそうね。使ってもいい?」

「うん、もぐもぐいいよいいよがつつ、ぼく食べくちゃるのに忙しいからあとでねもぐもぐもぐもぐ」


 タマリは目の前の皿にしか目も耳も注視していて、会話などほとんど聞いていなかったのですぐに受け流してしまった。

 そしてそれについてはタマリだけではなくアリーシアやアルカンカスも同様だった。


「う~ん甘~い!タマリありがとう!凄く美味しいわ!」

「ゆあうぇるかむぐむぐ」


 セアノサスは小瓶の中身を全て使い果たしながら、パンケーキの上に乗せて食べてしまった。

 味は舐めた者が違和感を感じないように美味しく甘味になるよう調整していたおかげで、セアノサスは気づくことなく摂取した。しかも小瓶の中身全て。


「お前ら!今までホントに悪かったな。店の中でするのはなるべく控えるようにするよ!お前らの負担になる真似はもうしねぇ!だからこれからも頼むぜ!」


 サビターは酒を飲んで真っ赤な顔で笑いながら謝罪をする。

 一見反省してない態度に普通の人間なら一発入れたくなるかもしれないが、当の謝られてる本人達は食事に夢中でしかも酒が入っており、判断力が鈍りに鈍っていた。


「別にいいですよ。もう慣れましたし」

「俺達もいつまでも根に持つような奴じゃない」

「じょーしきの範囲でならいいよ」


 そう言って三人は彼等の事など一切見ずにただひたすら食べまくっていた。


「ねぇサビターさぁん、私なんだか熱くなってきちゃった……」


 セアノサスはそう言って頬を紅潮させながら潤んだ瞳で衣服をわざとはだけさせ、サビターを誘惑した。


「そっかぁ。熱くなってきたんじゃしょうがねぇなぁ。とりあえずベッド、行こうか」


 そう言ってサビターは錠剤をありったけ口の中に流し込む。


「あら?サビターさんそれなぁに?」

「お前とヤるのに必要なアイテムさ。コイツで今日はお前をひぃひぃ言わせてやるぜ」

「その暴れん坊将軍が今日はどこまで持つかしらね」

「無論死ぬまで!」

「「アッハッハッハッハッハッハッ!」」


 そう言って二人は店の寝室へと移動し、激しい夜の戦いが始まった。


「あれ?ぼくたち、なにか大切なことわすれてない?」

「そうですかぁ?気のせいじゃないですか?」

「多分思い違いだろう。ん?アリーシア、お前アリーシアか?大きくなったなぁ!」

「何言ってんですか?私はアリーシアですよ?」

「こりゃもうかんぜんにできあがってるね」

「「「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」」」


 三人は酔っ払いながら、ゲラゲラと笑って食事を楽しみ続けていた一方で、あの二人はというと……


「ふっはぁっふっ!どうだぁセアノサス!感想を14万字で答えよ!」

「んあっ気持ち♡気持ちいいっ♡」

「14字だろそれ!」


 サビターはセアノサスとベッドの上でお楽しみタイムを堪能していた。

 現段階ではサビターの方が優勢なようで、セアノサスは終始よがっていた。


「イイ感じによがってるじゃねぇか。これもやっぱり朝のヨガのおかげかな?」

「あんっ♡そこっそこイイ♡でもヨガは関係ないと思う♡」


 絶頂に達しながらもはっきりと意見は物申すセアノサス。

 そんな彼女とサビターは休みも取らず数時間ずっと行為に及んでいると、先に体力が尽きたのはセアノサスの方で、彼女はサビターより先に眠りについてしまう。

 布団を被った彼女は藍色の頭髪だけが見えており、サビターは「おいおい……」ため息をもらす。


「セアノサス、言ったはずだぜ。今日の俺はいつもと違うってなぁ。さぁ起きやがれ!第二ラウンドの始まりだぁっ」


 サビターはそう言ってセアノサスが被っていた布団を剥いだ。

 しかし、そこにいたのは頭髪以外はちんまりとした、裸の姿の少女であった。


「……あ?」


 サビターは目を点にさせながら呆然と目の前の少女を見る。

 少女は見た目は小柄で胸も臀部も小さく、顔は幼気な顔立ちをしておりすぅすぅと寝息を立てている。


「は?え?ちょっと待て、俺はさっきセアノサスと一緒に……誰、いやでもコイツの顔同じ、だよな?え?マジでどういうこと……」


 サビターは混乱しながらも彼女に近づき、顔をマジマジと見る。

 絵面が完全に犯罪一歩手前だが、彼は確かめずにはいられなかった。

 実際に少女の顔を見つめると、幼い顔立ちではあるものの、セアノサスの顔だった。

 何故突然ライラの時同様に身体小さくなったのか、そして何故このタイミングなのかと思案していると、


「うっ!?」


 サビターの下半身に異常が発生した。

 彼の下半身のとある部位、はっきり言うと睾丸が虹色に発光していた。


「あっ、やべぇ!あの薬の副作用か!玉が!玉が爆発する!」


 サビターは突然の危機に慌てふためくが、睾丸が発光しているのに対し、竿の方は萎びていた。


「くそっ!俺はガキの身体は対象外なんだ!セアノサス!頼む!起きてくれ緊急事態なんだ!」

「んんぅ~むにゃむにゃ……」

「もう満足したから自分は夢の中ってか!?ふざけんなよ!」


 サビターは怒って喚き散らしたがセアノサスは満足げな表情で口元を緩ませながら眠ったままだった。


「ああクソ、なんでだ!?なんでこんな事に……!?」


 サビターは頭の中で原因を追究しながら自分が飲んだら弾が爆発する精力剤を飲んだ事など頭の一番奥に追いやって忘れながら、先程の出来事を思い出した。

 突然アリスなんていうアリーシアと似た少女が現れた事、タマリが怪しげな小瓶を落とした事、そしてそれを拾ったセアノサスがパンケーキに塗りたくって食べていた事、そしてアリスが突然身体が大きくなり、アリーシアに変わった事、全てに合点がいった。


「あ、あ、アイツらかァァァァァァァァァァ!!!」


 サビターはチクショウと悪態を吐きながら叫ぶ。

 しかし玉は光り、竿はしょぼくれており、役目は果たせそうもなく段々と光が強くなり最早爆発一歩手前まで来ていた。


 そしてカッ!と一際強く光った瞬間サビターは「うおおおおお!」と腹の底から声を出してこう言った。


「俺のエレクチオンをどうにかしろよォォォォォォォォォ!!!!」


 魂の叫びと共に、サビターの下半身は破裂した。


 虹色の刹那の光がスウィート・ディーラーの店内で輝き、そしてサビターはまた死んだ。


 仲間に最低な恨み言を吐きながら。


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