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第101話 燃ゆる不死鳥の如く、とはいかないものだ②


 ジョニーはそう言い、また普段なら聞けない王国最強の男のこぼれ話が気になり、皆が彼の言葉に目と耳を傾けた。


「その前にまずは少し俺の話をしよう。俺はこんな見た目だから、よく勘違いされる」


 ジョニーは彼等に向かって打ち明けるかのように口を開いた。

 サビターについて話すのかと思いきや、まず初めにジョニーは彼自身についての話を切り出した。

 突然の言葉に参列者達はこぞって首を傾げる。


「見た目は厳めしいし、声も威嚇するような音で人を寄せ付けない。オマケに俺の出自は特殊でな、正統な貴族の血は受け継いでいない。だから全ての身分の人間達から良い扱いはされなかった」

「当時齢13の俺はそんな扱いに対し腐っていた。妾の子だとからかってきた相手には半殺し以上に痛めつけ、奇異の目で見てくる者には睨み返し、周囲の者達を寄せ付けようとはしなかった。不貞腐れた思春期のガキだ」


 ジョニーは思い出しながら語るかのように空を見上げ、自嘲気味に笑う。


「サビターと出会ったのはその時期だ。アイツは親も家族もいない、友も居ない、仲間もいない、天涯孤独の男だったが、自由に生きていた」

「アイツはふざけた男だった。ガキとはいえ魔力持ち、そして奴は生まれつき魔力を持たない分際で『目がムカつくから』というふざけた理由で喧嘩を吹っかけてきた。俺は大人の冒険者にも引けを取らないくらいに強いと自負はしていたが、アイツはしつこかった。本当にしつこかった。俺がどれだけ殴っても何度でも立ち上がり色んな戦法で俺を追い詰めて負かした」


 ジョニーの言葉に参列者一同はざわざわと声を上げる。


「顔は腫れ上がって口の中は血でいっぱいで気分が悪かったのを今でも覚えている。だがそれとは裏腹に、気分は爽快だった。アイツは殴り合っている時、俺の目を真っ直ぐ見ていた。家柄も出自も見た目も関係ない、俺という人間を見ていた」

「喧嘩が終わった後、アイツは何を思ったのか俺と一緒にギルドを作ると宣言した。俺の返事など全く待つことも無くアイツは俺を連れ回した。仲間も増え、国にも幾度となく貢献した。ここだけの話だが。その度アイツは戦績を全て俺に譲った。悪評のある俺よりお前の方が市民の覚えが良いからと、勝手に情報を改ざんして伝えた」


 ざわつきは次第により大きくなり混乱が沸き起こる。

 幹部達は「遂に言ってしまったか」とでも言いたげにため息をつき、団員達は驚きの顔を見せる。


「アイツは誰よりも見栄やみかけを気にするくせに目立つのが恥ずかしいからと俺に功績を押し付けた。訳の分からない男だろう?」


 ジョニーは途中で話が脱線していることに気づき、しまったといった少しハッとしたような表情になった。


「俺が言いたいのは、サビターは噂や評判なんかで決められる男じゃないということだ」


 ジョニーそこで初めて滅多に見せない微笑みを聴衆に見せた。

 目を下に向けながら口角を僅かに上げるその姿は恥ずかしがりながら自分の好きな物を話すような少年のような仕草だった。


「アイツは国じゃ問題ばかり起こしていたが、曲がりなりにもこの国を想っていた。逃げる事も可能だったのにそれをせず戦ったのはこの国の人々、そして大切な仲間を守るためだ。不死身とはいえアイツはその身を顧みず、さらに自分の不死性が失われてもなお戦った。そんなアイツに遺された俺達が出来るのは丁重に奴を弔い、そしてアイツが守ろうとしたこの国を、民を、仲間を、家族を、友人を、俺達が守る。それが生きている者だけが出来る唯一の事だ」

「俺は皆の知らないサビターの一面を知って欲しかった。国を救った英雄が違法ポーションの売人だなどと数百年も言い伝えられては奴も地獄で不満を漏らすだろうからな」


 ジョニーの冗談か本気で言っているのか分からない発言に参列者達は反応に困るように黙り込んでいるど彼は檀上から降り、「それでは」と仕切り直すように参列者全員に声を掛ける。


「長々とした思い出話はこの辺りにして、サビターを弔ってやろう。それではお二方、よろしく頼む」


 ジョニーの言葉に呼ばれた二人はニーニルハインツギルドの幹部、『魔導』のフログウェールとスウィートディーラーの魔法使いタマリだ。

 二人共魔法使いの中でも最上級の使い手であり、魔導越者だ。

 恐らくこの二人に並ぶ魔法使いはこの国にはまだ居らず、最高の魔法使いによる聖炎魔法が見られる事に興奮する市民や他の魔法使い達が歓声を上げた。


「まさか俺以外にも、そして幼い魔導越者がいるとは…世界は案外狭いものだ……」

「ジジイでもすごい魔力量だね。ぼくとジジイ、たたかったらどっちがかつんだろ」

「俺も気になるが、まずは旧友を葬ってから決めてもいいだろう」


 そう言ってフログウェールはタマリの頭を撫でながら話し、タマリはまんざらでもなさそうな顔で為すがままになると、タマリに一本の杖を渡す。


「なにこれ」

「聞いたぞ。君は魔力量が凄まじく並の杖じゃすぐに壊れてしまうらしいな。俺のコレクションから一つやろう。君の魔力にもそれなりには耐えられるはずだ」


 フログウェールに杖を渡されたタマリは「ありがと」と言って受け取ると「おおー」と感嘆の声を上げる。


「これはなかなか……」

「それじゃあ始めるぞ」


 フログウェールに言われタマリは頷き、杖を棺に向ける。

 杖の先から僅かな橙色の光がゆらりと現れたその瞬間、七色に燃える虹色の炎がゆるやかに出現し、サビターのは言った棺を包み始めた。


「すごいやこの杖……」


 タマリは自分の出したいように魔法が出せている事に感激し、フログウェールはその様子を可笑しそうにしながら聖炎を放出していた。


 虹色の聖炎は周囲の人間に心地よさをもたらした。

 直接当たれば火傷をするが、適切な距離を取れば心を和らげる日の温かさが参列者達の心に優しい温もりを与えた。


 聖炎葬の目的はサビターを天国へ送り届ける他に、身体や心に傷を負った者達を癒す為でもあった。


 聖炎葬の炎はただの炎ではない。


 元々この世界の魔法は人類が発達させてきたものであり、そこに神の存在は介在していない。

 そんな人類の英知である魔法を魔法使いが神に祈り神の力の一端を借り受ける、それこそが聖炎魔法である。

 術者が優秀であればあるほど聖炎魔法は強大な効果を発揮する。

 この葬儀に参加している者、参加していない者もその恩恵に与り癒しを享受していた。


 虹色の聖なる炎はサビターを包み込むように収束していたが、段々と形が変わり、巨大な両の掌となって棺を囲む。


 それをやっていたのはフログウェールではなく、タマリであった。

 彼は涙目になりながら杖を真っ直ぐ向けて集中していた。

 フログウェールもまた彼の意思をくみ取りタマリを補佐するかのように杖を棺に向ける。


 朧気だった掌の形をした炎はより明確な形となって棺を包んだ。

 パチパチと火が爆ぜるような音がなり、火力が上がって来た。

 薄くて透けていた虹色の炎は棺が見えなくなる程層が濃く厚くなる。


 このまま燃やし続ければそう遠くないうちに完全に燃やし尽くす。


 棺と遺体が燃える様子を見ていた参列者達はそのまま見守る者、眼を瞑り両手を合わせて祈る者など様々な形で哀悼の意を示していた。


 アリーシアやアルカンカスは、セアノサスはじ…っと燃える様子を見つめていた。

 大切な友人、仲間、家族が地獄ではなく、天国へ導かれるよう祈りながら。


「……ん?」


 参列者の一人が何かに気づくような声を上げる。

 炎の燃える音はパチパチと言う音の他に轟轟という音が鳴っているためそれ以外に音があまり聞こえていなかったが、小さくドンッドンッという何かを叩く音が聞こえ始めた。


「なんだ……?何の音だ……?」

「なんか聞こえないか?」

「ああ、何か叩く音が聞こえるような……」


 一人だけでなくもう何人かも謎の音に気付き始めた。

 それもそのはず、音は最初こそ弱くて小さかったものの段々と音は強くなっていき、最終的には参列者全員の耳に届くほど音は強く、激しく上がって行った。


 ドンッ!!ドンドンドンッ!!!


「えっジジイなんかへんな音するんだけど。どゆこと?」

「俺も知らん……怖……」


 聖炎魔法を発動している二人も何が起こっているのか全く理解できていなかった。

 そして、突然音は静まる。


 ドゴォッ!!!


 かと思えば大きな破壊音がなった。

 一体どこからなのか、葬儀中に何者かが混乱を招こうとしているのか、冒険者達は武器を構えたが、どこにも姿は見当たらない。


「え……なに、あれ……」


 参列者の内の一人が顔から血の気を引かせ、青ざめた表情である一定の方向に指を差した。

 それは皆が円で囲むように並んでいた中心部、つまり燃える棺であった。


 そこに人影があった。

 炎の中に佇み、ユラユラと蜃気楼のように揺れるその姿は、人の形をしているがあまりに不定形だ。


 その人影は炎の中から出るようにゆっくりと歩を進める。


「ヲ、ヲヲヲヲヲヲヲヲヲ……」


 謎の人影はかすれた声を出しながらゆっくり、だが確実に歩く。

 そして、炎の外からはみ出し、遂にその姿を衆目に晒す。


「…あ、ああ……」

「うあ……」

「い や あ あ あ あ あ あ あ」


 参列者達の全員が恐怖による悲鳴を上げた。

 なぜなら、彼等の前に現した人影の正体は虹の炎に身を焼かれた肉が焼け落ちた骸骨だったからだ。


「な、なんだ奴は!?」

「わ、分からない!」

「ば、化け物ォォォ!!」


 参列者達は恐怖により錯乱し、慌てふためいていた。

 ジョニーだけが何故か腹を抱えて片膝を突いて大笑いしていたが、周囲の誰もがそのことに気づいていなかった。

 冒険者達も突然の出来事に混乱し、武器を携え攻撃をした。

 魔法使いもそれぞれ魔法で攻撃を喰らわせた。


 しかし、燃える骸骨はそれを素手で受け止め、威嚇するように口を開いて武器を振るった冒険者に近づいた。


「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!」

「ご、ごめんなさいィィィィィィ!」


 冒険者達は自分の攻撃が効かない事に仰天し、急いで逃げ始めた。

 見た目もその要因の一つだが、攻撃が効かないと分かった途端直ぐに退却を図るのは冒険者達たるもの咄嗟の判断力だ。


「え!?なに!?なんですあれ!?」

「わ、分からん。なんだあの醜い骸骨は」

「こわいィィィィィィジジイこわいよォォォォォォああああああああ!!」


 アリーシアはドン引きしながら、アルカンカスは冷や汗を流しながら傍観しタマリはフログウェールに抱き着きながら恐怖のあまり号泣していた。

 フログウェールもまた目を見開きながら口をあんぐりと開け驚いていた。


「アヂィィィィィィィィィ!!アヂィィィィィィィィィヨヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!!!!」


 骸骨の化け物は身体を生きたまま聖炎魔法により焼かれていた。

 虹の炎が彼の全身に周り身体全体が炎で身を包まれており、痛みにより金切り声を上げ絶叫していた。


 骸骨の化け物は発狂しながらも足取りを確かな足取りである方向へと向かっていた。


「ぼ、亡霊だ……」


 ニーニルハインツギルドの幹部のウィローがわなわなと身体を震わせながら口を開く。

 その姿は恐怖により身体が強張り、身動きが取れない状態となっていた。


「フザケンナァァァァァァァ!!アチイジャネェカバカヤロォォォォォォォォォ!!!」


 燃える骸骨は激昂しながら周囲の参列客達に襲い掛かり追いかけまわしていた。


「うわわわわわわわ!骸骨だ!骸骨だァァァァァァァァァァァ!」

「ヒィィィィィィィィィィィィィィ!喋る骸骨よォォォォォォォォォォォォ!!」

「しかも燃えてる!燃えてるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


「サビターの怨念が朽ちた身体に取り憑いて怨嗟を振りまいてるんだ……!」

「うわああああああ!俺こんなガタイしてるけど幽霊はマジでダメなんだよォ!勘弁してくれ!」


 恐怖で動けないウィローの後にナックルが頭を抱えて蹲る。

 幽霊など恐れなさそうな大の男二人が恐怖で震える様子は女性陣からしたらドン引きな様子だったが、彼女等もまた焦燥の様子を見せていた。


「き、聞こえていたんだわ……私達がサビターの悪口をしこたま言っていたのを……」


 イアリスが戦慄しながら冷や汗を頬から顎まで伝い、カルラは「どうしましょうどうしましょう」と手を口元に当てながら錯乱していた。


「まさかとは思うんだけど、アイツ……私達の方に近づいてきてない?」


 ヘリエスタが声を僅かに震わせながら燃える骸骨の方へと指を差す。

 皆が骸骨の方へ目を向けると確かに彼等に向かってゆっくりと歩いていた。


「うわぁホントだァッ!?」

「ひひひひぃぃぃぃぃぃぃ!!もうやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「げひゃあっ!ん、ニゲロ!」


 ウィローやナックルだけでなくドルソイまでもが逃げ腰で逃走しており、まるで歴戦の戦士とは思えない。


 すでに参列者のほとんどが発狂して逃げており、残っているのは何人かの冒険者とニーニルハインツギルドの幹部達とスウィートディーラーの店員のみだった。

 しかし、大半が怖くてその場を離れようとしていたが。


「……」


 そんな折、セアノサスだけは動かず燃える骸骨の方をずっと注視していた。

 恐怖により身体が動かなかったのではない。

 待っていたのだ、燃える骸骨が彼女の方に来る事を。


「セアノサスさん!やばいですよ早く逃げましょう!あれきっとサビターさんの怨念により生まれたゾンビですよ!絶対私達に襲い掛かって来ますよ!」

「いや、多分そんなんじゃないと思います……」

「ええ!?」


 アリーシアは逃げようとしてたがセアノサスの言葉を聞いて怪訝な顔をしながらも一応耳と顔は傾けた。


「ほら、よく見てください。何かを伝えようとしている風に見えませんか?」

「ええ~……?そうですかぁ……?」


 セアノサスの言葉に戸惑いつつもとりあえず逃げの姿勢から傾聴の姿勢に変更し、様子を見守る事にしたアリーシア。

 一先ずは燃える骸骨の様子を観察しながら待つことにする。


「ユルサン…ユルサンゾォォォォォォォォォ!!!ヒトヲコケニシヤガッテヨヲヲヲヲヲヲヲヲ!!!!」


 怒りと同時に身体から更に虹の炎を吹き出した。

 身体の周りは炎で包まれておりただの骸骨よりより一層魔物や悪霊という言葉が似合う様相と化していた。


「ああやっぱダメです私もう無理です逃げます!!」


 アリーシアは即断で退散し、スウィートディーラー陣営で残るのはアルカンカスとセアノサスのみとなった。


「…一応言っておくがあの骸骨の男はサビターであってサビターではないと思うぞ。魂の抜けた肉体に悪霊が取り憑くというのはよくある話の一つらしいからな」


 アルカンカスは元気づけるように彼女に語り掛ける。

 だがセアノサスはアルカンカスの言葉を聞いてもなお燃える男に近づいた。


「アア?ナンダア?オマエ、モヤサレタイノカアアアアア?」


 燃える男はセアノサスに威嚇するように近づき手を伸ばす。


「ちょっとセアノサスさん!マジで危ないですって!逃げてください!」


 アリーシアが警告し、アルカンカスがライトブレードの柄を握る。

 タマリもまたビビりながらも魔法の杖を骸骨に向けていた。


 しかしセアノサスは無表情で燃える骸骨の男を見続けていると何を思ったのか彼女は骸骨に向かって右手を差し出し、骸骨男の頬に添えた。


 誰もが彼女の右手が火傷をする事を予期した。

 しかし、セアノサスの手が火傷で負傷をする事はなかった。


「やっぱり、貴方だったんですね」


 ちょうど彼女が触れた頬骨の辺りの炎が鎮火していた。

 まるで彼女の手を傷つけないようにするために。


「……」


 骸骨男は眼球のない真っ黒な空洞の瞳でセアノサスを黙ったまま見つめる。


「オレハ……」


 パァンッ!


 骸骨男が何かを言おうとした時、唐突に甲高い音が鳴り響いた。

 セアノサスが骸骨男に向けて左手でビンタを喰らわせたのだ。


「……エ」


 骸骨の男は息と共に戸惑いの声を出した。

 周りの逃げ惑う者達、立ち尽くして様子を見守る者達もまた目を丸くして見ていた。


「あのさぁ、私の事ナメてる?」


 セアノサスは声を低くし睨みつけるような表情で骸骨を睨みつける。

 普段の彼女は温和そのもので怒った顔などニーニルハインツギルドでもスウィートディーラーでも見たことが無い程だったのに、今の彼女は眉間には多重の皺が寄って瞳は燃えるように本気で怒り、イラついていた。


「エ、イヤソノ……?」

「私の事馬鹿にしてるから何度もこんなバカみたいな演技に引っかかると思ってんでしょ?ええ?」


 セアノサスは骸骨の右頬を左手でポンポンと叩きながら今度はまた本気の一撃で平手打ちを喰らわせた。


「グェッ!」


 距離と共に言葉で詰められ始めた骸骨の男は先程まで噴き出していた虹の炎はすっかり沈黙し、完全に消え失せた。

 今ではただの裸の骸骨男だ。


「楽しかった?」

「ハ?エ?」

「泣きじゃくって目元晴らして、傷心になってた私の姿見て楽しかったかって聞いてんの」

「イャソレハソノ……」


 周りの者達は状況を完全に理解しておらずぽかんとしているのに対し、ジョニーだけは必死で口元の噛みしめながら平静を装うと必死であった。


「謝って」


 セアノサスは低い声を維持したまま骸骨の男にそう言った。

 しかし骸骨の男はバツが悪そうに下に俯いたままだった。


「謝ってって言ってんの。さっさとそのふざけた姿から元に戻って、誠心誠意謝ってって言ってんの」


 セアノサスの言葉を聞いて数秒が経過ししばしの沈黙が流れたあと、骸骨の男の身体がみるみるうちに変化していく。

 骨しかなかった身体には臓器が生成され、それを覆うように筋線維が作られていく。

 そしてさらにそれを覆い尽くすかのように肌が浮き上がり、人の形を作り上げ、最終的には、皆がよく知る男の顔が出来上がった。


「す、すみません、でした……」


 全裸で地面に両膝を折り曲げ頭を擦り付けて情けない声と見た目で土下座を行ったのは、正真正銘死んだと思われた男、不死身のサビターその人であった。


 国を救った希代の英雄は、仲間の女にビンタをされた挙句土下座を強要されていた。






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