その知らせは吉報か、凶報か
小説初投稿になります!
いたらない点も多いと思いますが、暖かく見守っていただけると幸いです。
よろしくお願いします!!
「アリス、フォースティング侯爵家より婚約の話が来ている。」
「はぁ!?お父様、どういうことですの!?」
父に呼ばれて訪れた執務室にて告げられた話に、端くれといえども貴族らしからぬ言葉が飛び出すのは無理もないことだった。
ーーフォースティング侯爵家。
この国の五大貴族のうちの一つとして数えられるほどの名家中の名家。広大で恵み豊かな領地を代々守り抜き、繁栄させてきた。さらに魔術に特化した功績をいくつも残しており、今まで何人もの宮廷魔術師を輩出している。
対して我が家、アルジャーノ伯爵家は人の良い両親と、これまた人の良い領民に囲まれて贅沢とは言わないまでも、それなりに楽しく過ごしている。強いて言えば芸術に特化した家である。
父は絵画の才能があり画家として名を馳せ、母は国一と言われているピアノ腕を持ち家庭教師を、兄は領地経営を学びながら宮廷音楽団でヴァイオリンを担当、と言うように各々がその分野で活躍している。ちなみに私は、母からピアノを受け継いでいる。
そんな格差どころの話ではない両家である。ましてやどう考えても、あちらにとって何の利益にもならぬ縁談だ。
いつもなら、ある程度のアリスのお転婆には目を瞑りつつマナーや礼儀にはうるさい父が、あまりの事に動揺しているのはアリスと同じなのか、咎めることも忘れて話を進めたのだった。
「落ち着きなさいアリス。落ち着くんだ。」
「どっちかと言うと、落ち着くのはお父様ですわ。」
「これが落ち着いていられるか!?何故家なんかに…。」
ガタガタと震える手で紅茶の入ったカップを持ったせいか、父の居る机の回りだけ紅茶が溢れてしまっていた。
しかしアリスには思い当たる節があった。いや、思い当たると言っても、接点といえばこれくらいかな?程度の物である。それこそ、久しく日照りが続いたのに雨が降ったのは私の祈りが届いたのかな?とかその程度の、相手にとってはとるに足りない事程の。
「あそこは確か男が3人年子でいたでしょ?言ってきてるのは三男のリュークあたり?」
「あそこ、って・・・フォースティング侯爵家と接点があっるのか!?」
「お母様が昔、フォースティング家にもピアノのレッスンに伺っていたのです。確か5歳くらいの頃でしょうか・・・それにたまに付いて行っていましたの。」
「どういう事!?あのアリスが侯爵家に出入り!?私は初耳だよ!?」
そう、今でこそ引退し、家でひっそりと父や兄と共に領地経営に勤しんでいる母だが、全盛期の頃は全ての貴族から声がかかっているのでは?と言われるほどひっぱりだこであった。
ピアノの才能は勿論、教師としての才能も十二分に備わっていた母は教えるのもうまく、特に幼い子どもの相手をしながら教えるのがとても上手かったのだ。
そんな母が唯一手こずったのがこのフォースティング侯爵家だった。なんせ男三人兄弟。部屋で大人しく?無理無理!遊ぼうぜ!ってな具合で元気一杯のため、まずピアノに向き合って座ることから教えなければいけない始末。
母としては、無理にやらせるものでもないですし、好きなことを伸ばしてみては?とやんわり辞退の方向に持っていこうとするも、この現状を知った侯爵婦人は子ども達に怒り心頭。
絶対に人前に出しても恥ずかしくないようにするという、それでこそ男子三人の母ですねと思わせるような力強さで母に続行を願い出たのである。そこまでお願いされてはと、母も教師魂に火がついたのか、あの手この手で三人をピアノに向かわせようとするも撃沈。
そこで白羽の矢が立ったのが私。
透き通るような白い肌に、くせのある栗色の髪の毛をふわふわさせて、のぞく翡翠色の瞳にまるで天使のようだと言われていた。さらに侯爵家三男であるリュークと同じ年ということで三人とも年が近く、私のかわいさに釣られてレッスンを受けるのでは!?という、なんともお粗末な母による苦肉の策なのであった。
しかし母は忘れていた。私、アリス・アルジャーノの性格を。いくら見た目が天使だろうと肌が白かろうと、その実中身はただのお転婆娘。自分の家では一人で庭で走り回ったり木に登ったり、一人に飽きれば只でさえ少ない侍従や執事に要らぬちょっかいをかけ仕事を増やし、日に日にたくましくなって行った事を。
そんな私が、自分の家より何倍もお屋敷や庭を見てどう思うか。今まで出会ったことがなかった、年の近い、それも男の子達に出会ってどうなったか。
えぇ。そりゃもう遊びました。広いお庭?鬼ごっこするしかないよね。たくさんのお部屋?かくれんぼするしかないよね。美味しいお菓子?わーい!そんな具合でまさかの秘密兵器にあっさりと裏切られた母は当たり前のごとく自分の娘をこっぴどく叱りつけ、泣きながらピアノに向かわせられる私を見て、結果的に男三人も「この人を怒らせちゃダメだ・・・」となり、真面目にレッスンを受けるようになった、という話である。
まぁ言うなれば四人は幼馴染みである。そんな中でもリュークはメキメキと腕を上げていき、今では数々のコンクールで優勝し、王家のパーティーなどでも演奏を披露している。だから侯爵家の人間で我が家に恩があるとすればリュークくらいかなと。と言っても、同じ学園に通ってはいるものの最後に話したのはもう何年も前だし、婚約を申し込んでくるほどとは思えないけれど。
ちなみに、この頃父は自らの絵画の個展のために王都へ通い詰めていた事もあり、私が着いて行っている事までは知らなかったようだ。母も自分の仕事に娘を連れて行くのは、さらには男の子ばかりの所に放り込むのは後ろめたさもあったのか父には言っていなかったようだ。あとは、少々お転婆が過ぎる私が侯爵家に出入りする事を父が全力で止めてくる事を懸念したのだろう。
別に隠すことでもないしこれらのことを父に伝えると、あぁ、なるほどねぇと、幾分か納得した様子ではあるが、複雑そうな表情には冷や汗が滲んでいる。おおかた私が侯爵家で粗相をしていないかを心配しているのだろうが、今まで父の耳に入るような事が無かったと言う事はそういうことだ。そこまでの事はしていないと言う事。
「しかし三男・・・?侯爵家からは長男との婚約をと・・・」
「はぁ!?長男!?ってまさかユリウス様!?」
「こら、アリス。言葉遣いに気を付けなさい。」
先の説明でスッキリしたのか、すかさずアリスへの指摘が入った。だがそんな事を気にしている場合ではない。
「ごめんなさい、お父様。でもユリウス様って・・・何かの間違いでは・・・?」
そう、ユリウスが私に婚約を申し込むなどというおかしな事が起こるはずないのだ。
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