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大好きなベラくんへ

作者: 唄

大好きなベラくんへ。


探さないで下さい。後を追いかけてこないでください。


ベラくんは覚えていますか。太陽の光が強く、蒸し暑い夏の日のことです。湖で砂のお城を作って、お姫様ごっこをしましたよね。私が王女様役でベラくんは王子様役です。王子様はかっこよくて、私が海流に流されたのを助けてくれました。あのまま流されていたら、今頃は無人島にでも住んでいたかもしれません。


もし一人だけ無人島に連れて行くことができるなら、ベラくんを連れて行きたいです。二人で自給自足生活、想像してみると楽しそうだと思いませんか。


少なくとも一生をお城で過ごすよりも楽しいのではないでしょうか。


こんな形でのご挨拶で申し訳ございません。


湖のときのように後を追ってこないでください。

                

               ミリカより


「ーーーさま。ベラリュート様!」

手紙に寄せられていた意識が現実へと戻ってきた。


「どうしたのですか?その手紙に何か変なことでも書いてありましたか?」


「懐かしい人から手紙がきたんだ」


最後に湖で遊んだのはいつだっただろうか。

それにごっこ遊びも懐かしい。


「手紙がきたっていつの話ですか。その手紙、何年も前からありますよね」


「そうだったか?」



「ベラリュート様の幼馴染からですよね。いつも机の奥深くにしまってるじゃないですか」


幼馴染と言いながらも許嫁でもあった。でも向こうの事情で婚約は破棄されて、長いことあっていない。


「馬車の事故で亡くなってしまったそうですよ」



そんな話を聞いたのは今日が初めてだ。


「えっ、そうなのか?」


「ベラリュート様もよく知っておいででしょう。知らせを聞いてから一か月部屋に籠って、仕事もしないで食事も取りませんでしたよね」



「死んだ?いつ?」


「八年前でしたかね〜。ベラリュート様が十八才の時です。本当に覚えていらっしゃらないと?」


「ああ、覚えていない」

十八歳というと婚約破棄が決まったぐらいの年か…。


ミリカには次の嫁ぎ先が既に決まっていた。


婚約破棄の原因は国の事業の失敗によるものだった。他国と婚姻を結ぶより国内での勢力の確立が必要になり、婚約の話は消えた。ミリカは国のために国内の公爵家の子孫と手を組むと決めたのだ。


その数年前からベラリュートは先帝から引き継いだ国を回そうと必死で公務に当たっていた。


再び会うことのないままお互い別々の道を歩んだ。


国が違うのでパーティーで全くと言ってもいいほど会えない。


「ベラリュート様はミリカ様が大好きだったということは覚えていますか?」


「それは、覚えている」


好きで好きで大好きだった。本当は公務より優先したいくらいに。


後から出てきた公爵家の子孫なんかに取られてしまうのが憎たらしかった。


「なぁ〜んだ。一番肝心なことは覚えているんですか。それじゃぁ、後は簡単、簡単。上手くやってくださいよ」



「お前は誰だ?」



「二人の恋の架け橋、恋のキューピットですよ」


突然、ありったけの光が世界を照らした。何もかもが恋のキューピットとやらに吸い込まれていく。


全部吸収されたときに世界の色がガラリと変わった。


湖の綺麗な波の音。風に揺れるキラキラとした髪。


やることはしっかりと脳に刻み込まれている。ただ、刻々と感情は募っていくばかりだ。


「ベラくんなら追いかけてきてくれると思っていました」


心底嬉しそうに彼女は笑っていた。


ここが天国でも地獄だったとしてもどうだっていい。ベラリュートは彼女を追ってあの世にまで辿り着く。


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