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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

窓ぎわの東戸さん~東戸さんと新しい出会い~

作者: 車男

 「もうあれから2年経つんだよ、東戸さん!」

「ほんとだねえ。1年の時のの対面式なんて、記憶ないよー」

新学期が始まって数日後、今日は入学式を終えた新入生に部活動紹介などを行う、”対面式”がある。昼休みが終わると、私たち3年生はめいめい、体育館へ移動することになっていた。2年前の私は、入学してまだ数日で、そんなに友達もいない中どんなことをするかもわからず、ドキドキしながら体育館へ向かったものだ。ちなみに、幸運なことに私と東戸さんは3年連続で同じクラスになっていた。今年は4組だ。神様にお礼を何度言っても足りないくらいだ。

 体育館へ到着すると、始業式と同じように、出席番号順に並ぶ。前に座る東戸さんは、新入生を意識してか、上履きに白いハイソックスをしっかりと履いていた。それに、上履きを脱ぐこともしなかった。いつもより落ち着いた様子で、女の子座りをして待っている。それでもやはり我慢しているのか、上履きとソックスに包まれた指が、くねくね動いているのがわかる。みんな並び終わると、横のあいているスペースを向くように言われる。そこに新入生がやってくるらしい。

「それでは、新入生の入場です!後方にご注目ください!拍手ー」

生徒会書記になった、こちらも3年連続で同じクラスの上野さんの司会に、一斉に後方に視線が集まり、盛大な拍手が始まった。みんな、どんな新入生が来るのか楽しみにしている様子。部活生は、一人でも多くの新入生を獲得しようと、目を光らせていることだろう。

「あ…」

新入生が入場し終わり、私たちの前に並んだ。今年の新入生は105人で4クラス。その中で一人、私はちょうど正面に立った女の子に注目していた。ふと東戸さんを見ると、身を乗り出して、私の注目する女の子のことを同じように見ているようだった。

「それでは新入生の皆さん、お座りください」

目の前に座ったその子は、東戸さんよりも小柄な、ショートヘアの女の子。肩に着かないくらいの、やや茶色がかった髪。真新しい制服は少し大きめで、スカート丈はひざ下だった。そして何よりも私たちの目をくぎ付けにしたのは…。

「ねえねえ、西野さん。あそこのあの子、見た?見た?」

東戸さんが私の肩をつつきながら、小声で聞いてくる。

「うん、見たよ。…靴下、履いてないのかな」

「びっくりしちゃった。いつもなのかな?なんで靴下履いてないんだろう」

正面に座ったその女の子は、なぜか靴下を履いていなかった。素足のままで、上履きを履いているようだった。そんなにはっきり見たわけではないから、短いソックスを履いているのかもしれないけれど…。でもスニーカーソックスは、履いちゃダメって校則になっていたような…。

 今私たちが注目するその子は女の子座りをして、足先はスカートに隠してしまっている。とても大人し目な印象で、隣に座る子と話したりする様子はなく、あたりをキョロキョロと見渡している。

「直接聞きたいなあ。何組なんだろう?」

「この位置だったら、1組じゃないかな?いちばん手前だしね」

「あとで教室のぞいてみようかな…!」

「不審者だと思われるよー」

東戸さんは、その子を見て気持ちが昂ぶったのか、暑くなったのか、私との小声での会話の間に、上履きを両方とも脱いでしまった。ソックスをはいた足が私の方に来ているので、ソックス越しの小さな足の指がすぐそこに。かわいい。

「あれ、上履き脱いじゃったの?」

「んー?うん、だって暑いしねー。…靴下も脱いじゃおうかな」

「それは、…任せるよ」

それから、新入生代表のあいさつ、在校生の挨拶があって、お楽しみの部活動紹介が始まった。私はこの担当ではないから、みんなと一緒に見学しておく。合わせて、向かい側にいるあの子の様子も気になってしまう。いつしか隣の女の子と仲良しになったのか、紹介を見ながら時折笑い合っているのがわかる。一通りの部活動紹介が終わると、最後に生徒会の紹介があって、対面式は終了。途中でやっぱり彼女に影響されたのか、もぞもぞと靴下を脱いで、ポケットに入れる東戸さんにドキドキした。赤くなった素足の指が私の手のすぐそこにあって、足の裏をコチョコチョしたい衝動に駆られたが、恥はかかせたくないし私も巻き込まれてしまうし、そこは我慢した。

 司会の指示に従って、新入生から退場していく。気になっているその子は、みんなと一緒に立ち上がると、体育館を後にした。改めて見てみても、短い靴下などを履いている様子はなく、やっぱり素足で上履きを履いているようだった。やんちゃっていう印象でもないし、不良さんっていうわけでもない、大人しそうなかわいい女の子。なのになんで素足なんだろう…?その子は東戸さんのように途中で上履きを脱ぐことはなく、かかとを踏んでいる様子もなかった。一度、話してみたいな。けれど、かなり親密にならないとそんなこと聞けないよな。名前も知らないし。

 次に私たち3年生が退場する。立ち上がると、東戸さんは脱ぎ置いていた上履きに足を通すと、さっきの子とは対照的に、かかとを踏んで歩き出した。まあでも上履きの存在を忘れて裸足で歩きださないだけ、ちょっと大人になったかな?

 「新刊が入荷したらしいんだけど、一緒に図書室いかないー??」

そんな誘いを受けて、私と東戸さんは、放課後に図書室へ向かった。結局対面式で靴下を脱いだまま、東戸さんは履きなおすことなく、上履きもほとんど机の下に置いたままで過ごしてしまった。新学期始まったばかりでまだ席替えはなく、私と東戸さんは再び前後の席になって、授業中は東戸さんの足プレイを後ろから見ることができる特等席だ。どうやら今日、東戸さんの推しの作家さんの新刊が入ったらしい。私も、何かいいことがある予感がして、東戸さんと向かうことにした。春の図書館は、入学したてのあの頃を思い出す。上履きを図書館に置いたままで、東戸さんの裸足をたっぷりみられる1日だったな。

「あ、あったあった」

図書室に入った途端、東戸さんはかかとを踏んで履いていた上履きをポイポイと脱ぎ、ひょいと靴箱に入れると、ペタペタと素足のままで図書室へ入った。目当ての小説は無事に見つかったらしい。即座に貸し出し処理をしてもらって、満足げな東戸さん。

「私も何か探してくるから、どっか座っててよ」

「おっけー。じゃあ、窓際のあそこあたりにいるね」

新刊コーナーをいろいろと見ていると、ドアの開く音がした。それから少ししてふと隣に誰かが立ったので見てみると、そこには一人の小柄な女の子が。大きめの制服、長めのスカート、ショートヘア、どこかで見た顔。ちらと足元に目をやると、なんと素足だった。東戸さんよりも小さくて、白くてかわいらしい素足。間違いない。あの時私たちの真正面にいた、あの新入生だ。

「…-さんの新刊、ないや…」

「あ、その本ー」

彼女がつぶやいたのは、先程東戸さんが持っていってしまった本の作者だった。いったいどんな偶然か、彼女も東戸さんと同じ本を探してひとり図書室へ来たらしい。今日の終わりのホームルームで配布された”図書通信”に載っていたので、彼女もそれを見たのだろう。東戸さんが持っているのを知っていた私は、とっさにそれを伝えようとした。しかし、急に見知らぬ先輩に話しかけられてびっくりしたのか、その子はびっくりしたような表情を私に向けた。

「…え?」

「あ、ごめんね、驚かせちゃって。探してる本、たぶんあの子が読んでるやつじゃないかな?」

そう言って、窓際に座って早くも集中している東戸さんを指さす

ここから見ると表紙の文字は見えないが、色合いや大体のレイアウトでわかるのだろう、その子はコクコクうなずいて、

「あ、はい、あれです、あれです。そっか、先越されちゃった…」

「ごめんね、あの子、一度読みだすとなかなか長くって…。予約もできるから、いましておいたら?」

「あ、よやく、できるんですね!ありがとうございます!」

「やり方、教えたげるね」

それから一緒に図書室カウンターへ。私よりも10センチほど小柄な彼女。まるで妹みたいでとてもかわいい。予約の手順を教えて、その本の予約を終えると、その子は深々とお辞儀をして、

「こんなに親切に、ありがとうございます。入学したてでドキドキしながらここ来たんですけど、助かりました!…お友達を誘ったんだけど、みんな図書室には興味ないらしくって!」

そう言って、にっこりとほほ笑む。えくぼもかわいい。お互いに、おしゃべりOKな入り口近くのテーブルに座って、話をすることに。

「わからないことあったら何でも聞いてね!…私、3年の西野(にしの)小毬(こまり)。みんなからはコマちゃんってよばれてるんだ。よろしくね」

「コマちゃん…先輩!わたしは、1年の後畑(うしろばた)梨帆(りほ)っていいます!よろしくです!」

「りほちゃん、ね!本が好きなんだ?」

「はい、小学生のころから好きで、図書室の本結構よんでました!」

私と通ずるものがありそう。それから図書室閉館の時間まで、私とりほちゃんはどんな本が好きでどんな本を読んできたのか語り合っていた。東戸さんはというと、閉館いっぱいいっぱいまで先程の本に集中しており、図書委員さんに声をかけられてあわてて席を立っていた。

 靴箱から上履きを取り出し、素足をそこに通すりほちゃん。足先をそっと突っ込み、手を使ってかかとまでしっかり上履きに収める。制服はぶかぶかだけれど、上履きはけっこうぴったりサイズだった。東戸さんは本を読みながら図書室から出てくる。その足元を見ると、またしても裸足のままだった。

「ちょちょちょ、東戸さん、上履き、上履き!」

「え…?あー、また忘れた!」

無事に上履きを取ってくると、足先だけ突っ込んで、かかとを踏んだまま歩き出す。

「東戸さん、その本、りほちゃんが待ってるから、早めに返すんだよー」

「りほちゃんー?私?…あ、その子?え、うそ!?」

東戸さんは今気づいたというように、りほちゃんにぺこっとお辞儀をした。それからしばし動きが止まる。明らかに、目線がその子の足元に向かっている。

「…あのー、なにか…?」

「えーっとね、…りほちゃん、靴下、どうしたのかなーって思って」

次第に興奮しているのがわかる東戸さんをおさえつつ、私が代わりに、聞いてみた。するとその子は、途端に顔を真っ赤にして、

「あ、靴下、ですよね…。今日の掃除の時間に、トイレ掃除してたんですけど、靴下が濡れちゃって、それで、脱いで乾かしてたんです…」

「なんだー、そういうことかー」

東戸さんは事情が分かると、落ち着いたようだった。どうやら、毎日素足、というわけではないらしい…?

「…でも、そちらの先輩も、靴下履いてないですよね…?」

「あ、私?うん、暑くなって、対面式のときに脱いじゃったんだ」

「そう、なんですね。濡れたわけじゃないのに、ですか…?」

りほちゃんは、なにか意味ありげな視線を東戸さんに向けていた。足元と、顔と、視線を動かしている。

「うん、そうだよー。あ、名前はね、東戸(とうと)里穂(りほ)っていうんだー。おそろいだね!」

「え、東戸さんも”りほちゃん”だったの?!」

「そうだよお!友達の名前忘れないでよー」

「ごめんごめん!」

「東戸先輩…」

その子、あゆちゃんは何か考えるように東戸さんをじっと見つめていた。

「んー?どうしたの?」

「あ、あの、つかぬことを聞きますが!」

りほちゃんは、ぐいっと東戸さんに顔を近づける。東戸さんとの身長差は、5センチくらいだろうか。急に近づかれて、思わずのけぞる東戸さん。

「…この学校って、あの、その」

「なになに?」

「…や、やっぱりなんでもないです!し、失礼します!」

「あ…ばいばい、りほちゃん!」

何か聞きたそうではあったけれど、りほちゃんは一度立ち止まってぺこりとお辞儀をすると、パタパタと廊下を早歩きで行ってしまった。

「あー、行っちゃった」

「なんだったんだろね?」

「…素足、かわいかったなあ」

東戸さんがとろんとした顔になっている。私にはりほちゃんが聞きたかったことがなんとなくわかるけれど、たぶんまたここで会うことはできるだろう。その時を気長に待とう。


つづく

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