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第9話 異世界2

 慌てて飛翔する。

 全長数キロの亀だろうか? この異世界は、大地を亀が覆っていたのだ。

 そのうちの一匹を起こしてしまったようだ。


 巨大亀は、憎悪の眼で僕を睨んで来た。

 亀が移動すると、大地が見えた。湯気が立っており、マグマも見える。


「そうか。大地の熱を吸収することで、この亀は生きているのか」


 そんなことを考えていると、亀が後ろ足で立ち上がった。そして、僕の目の前に大きな口が開かれている。

 そのまま、食べられてしまった。



 今は、亀の胃の中である。火魔法で明かりをつけた。

 下には、消化液の海が広がっている……。

 だが、亀が動く毎に、津波が襲って来る。この津波は強酸と思われるので、浴びたら溶けそうだ。

 念の為【闘気】を纏い津波を弾きながら、亀が動かなくなるまで待つことにした。


 数分の後、亀の動きが止まった。多分、元の位置に戻ったのだろう。

 さて、動くとしようか。


 先程、亀の甲羅を割ったのだし、体内であれば、破壊は容易だろう。

 僕は、【闘気】で剣を生成して、胃壁を切り裂いた。大量の体液が襲って来るが、【闘気】の防御にて僕には掛からない。

 体液が出なくなったので、胃壁の隙間から体内に侵入した。


 各臓器の隙間をすり抜けて、進んで行く。

 ヒルデさんは、『心臓に賢者の石がある』と言っていたので、心臓を目指すことにする。

 血管を触り、上流を探して行く。

 たまに、大きな鼓動が聞こえた。

 方角は合っていると思われる。


 体内に魔物とか飼っていそうだが、そんなこともなく、抵抗なく心臓まで進むことが出来てしまった。

 多分だが、体外……特に甲羅には、何か住んでいそうだな。まあ、確認する必要はないけど。


 目の前には、巨大な心臓がある。

 体感的に一時間だろうか? 一時間に一回、鼓動を打っている感じだ。

 とりあえず、心臓の周りを回ってみた。

 赤い石は何処にもない。そうなると、破壊して中を確認する必要がある。

 無駄な殺生はしたくないが、こればかりはしかたない。

 ここで、少し考える。心臓を破壊したら、この亀の体内は血で埋まるだろう。そうなると僕は、生きて出られない可能性がある。


「心臓の破壊はダメだな」


 更に考える。〈探索〉とかあれば良かったのだが、あいくにと僕には取れなかった。

 僕にあるのは、〈超回復:体力〉と【闘気】、そして魔導具で発現出来る魔法のみだ。これでまず賢者の石の有無を確認する方法を考案しなければならない。


 そんなことを考えている時であった。


『そこな人、待って欲しい』


 驚いた。ヒルデさんが教えてくれた、【念話】だ。それと、僕が亜空間に飛び込むことになった理由でもある。

 少し離れた場所に、僕に【念話】を送って来た人が現れた。いや、人ではなかった。


 スライム……、そう思わせる異形の魔物が、そこにはいた。





 少し、間合いを取りながら、【念話】にて会話を始める。

 相手を観察する。ゼリー状と思われ、内蔵というか〈核〉が見える。体積は、僕より少し少ないくらいだ。


『僕は、ビットと言います。端的に言います、〈賢者の石〉を求めてこの世界に来た転移者です』


『ふむ……、異世界の転移者か。しかも〈賢者の石〉を求めてか』


 初めて魔物と意思疎通が出来た。これが出来るのであれば、開拓村に戻った時に便利だなとか考えてしまう。


 そしてこのスライムは、暗に〈賢者の石〉を知っていると言っている。

 ここからは交渉だな。出来れば、戦闘は避けたい。


『出来れば、譲って欲しいのですが。対価になる物があれば教えてください』


『対価……か。我々が困っている問題の解決でも良いかな?』


 思いもしなかった対価が来た。


『まず、話だけでも聞かせてください』



 以下、スライムの話の要点を纏める。


 この異世界は、元々たくさんの種族がいたらしい。だが、〈氷河期〉なる時期に入ってしまい、数多くの知的生命体の命も、栄えた文化も消えてしまった。

 この亀……、大霊亀というのだそうだが、この様な大型の生物に寄生して生きる以外の生物は絶滅したのだとか。

 スライム族は、大霊亀から栄養を貰い生き残っているらしい。


 他にも生き残りの生物がいるかもしれないが、亀から動けないので調べられないとのこと。

 〈氷河期〉は、後数千年は続くと思われるので、のんびりと待っているのだそうだ。


 だが、足りない物資もある。

 スライム族は、本来は草食なのだそうだ。亀の血を取り込んだり、亀の体温で苔等を栽培しているが、どうしても生の草が食べたいらしい。

 本来であれば、数千年待たなければならない所に、僕が来たというわけだ。



『草を大量にお渡しすれば、〈賢者の石〉を貰えますか?』


『いや、違うな。種が欲しいと言えば分かるかな? この亀の中でも育つ種が欲しい』


 なるほど。しかし、そんな草などあるのだろうか?

 そんなことを考えていると、眼の前の空間が歪んだ。その歪みから、袋が一つ落ちて来た。

 中身を確認する。

 植物の種であった……。


 まあ、間違いなくヒルデさんであろうな。

 スライムに視線を向けると驚いていた。


『種が送られて来ました。栽培出来るか確認したいので、苔を栽培している所に案内して貰えないでしょうか?』


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