第62話 エピローグ
「はっ!?」
目が覚めた。そして、背中に感触がある。
草の上で寝ていたようだ。
周り見渡すと、地平線まで草原が広がっていた。
何処ですか、ここは?
空間収納から、篭手とコート、棍棒を取り出す。
そして、【闘気】を魔力に変換する。これで準備完了だ。
とりあえず、飛んで上空より見渡そうとした時であった。
──パン
足を撃たれた。矢ではないので、魔法だと思う。
まあ、【闘気】を纏っている僕には、怪我はない。驚く程度だ。
狙撃の方向を見ると、数人の人影が見えた。
ここで、シスイ関の時の失敗を思い返す。
「僕から近づくのは止そう……」
とりあえず、地上に降りて、相手が近づいて来るのを待った。
数分後、彼等は来た。馬に乗って。
そして、その姿に驚いてしまう。 人族でも竜人族でもなかった。長い耳と鋭い眼つき……、話に聞いていたエルフ族が、目の前にいた。
エルフ族は、両手に魔法を発動出来る様にして、僕を観察している。
とりあえず、話しかけてみるか。
「こんにちは、僕はビットと言います」
エルフ族は、驚いている。だが、返事はなかった。
さて、どうしようか……。
数秒の対峙。睨み合いが行われて、ここでようやくエルフ族が口を開いた。
「……旧人類の貴殿は、何処から来たのだ? 何故このような何もない所にいるのだ?
それと、その【闘気】は誰から教わったのだ?」
おお、言葉が通じる!
「竜人達が保護している地域で育ちました。ダンジョンでトラブルがあって、放り出されたみたいなのですが、今いる場所を教えて貰えないでしょうか?」
空間収納より、地図を出す。インコウとチョウホウに貰った地図だ。
それを見た、エルフ族は警戒を解いた。
交渉は、成功したようだ。何でも暴力で解決しようとしてはいけない。
自画自賛であるが、上手くいったと思えた。
◇
「……旧アフリカ大陸ですか。結構遠くに飛ばされたみたいですね」
この場所は、僕が生まれ育った半島の南に位置する大陸であった。
もう少し南下すると、砂の大地が広がっているのだそうだ。
「北から来たのか。それと、ダンジョンに怪物を閉じ込め、討伐した話は聞いている。
竜人領より、見つけたら保護して欲しいとも依頼を受けている。
だが、一年ほど前の話になるぞ? 何をしていたのだ?」
「……一年か。ネーナが怒っていそうだな。
ダンジョン内の時間は、操作されていたみたいなので、僕がどれだけの時間を亜空間で過ごしていたのかは分かりません。
でも、早めに帰らないとですね」
苦笑いが出た。
「一応聞くが、魔人族に用があるのではないか?」
僕は驚いた。
「知っていることを教えて貰えますか?」
「旧アメリカ大陸では、魔人族が戦争をしている。三人の魔人が王を名乗って争っているのだそうだ。
ただし、実際のところは分からない。本当に殺し合いをしているとは思えないのが実情だ」
「その三人の中に女性はいますか?」
「三人共、女性と聞いている」
……ヒルデさんの依頼を熟すのは、まだ当分先になりそうだな。
「それと、音声だが手紙を預かっている。この世界に住む、旧人類を保護している種族全てに配られた。
聞いてみるか?」
手紙? 音声?
「お願いします」
エルフ族が、空間収納より何かを取り出した。僕には良く分からない物だ。
竜人領で見た科学とやらだろう。
そのアイテムから音声が聞こえて来た。
『ビットへ。魔人族と連絡が取れたのだわ。私は魔人領で待っているので迎えに来るのかしら。ネーナより』
その場で崩れ落ちてしまった。 ネーナは何をしているのだろうか……。
「あはは。大丈夫か? というか、君が噂のビットなのだな。世界中で噂になっているぞ」
エルフ族の人達が笑い出した。
僕にとっては、笑い事ではない。ため息が出た。
気を取り直して、エルフ族と向き直す。
「エルフ族は、今は何をしているのですか?」
「我々は、他種族と多少なりとも交流を持つことにした。今は平和に暮らしているだけだ。
ただし、旧人類の保護は行っている。一応協定も結んだのでな。
竜人領に移った人類の祖先は、エルフ領からも移住させたと言えば伝わるかな?」
インコウの話とは、違った印象を持ってしまった。
エルフ族とは、もっと好戦的だと思ったのだが……。主観が違うのかな?
いや、千年前とは関係性が異なるのであろう。
「まず、竜人領に僕の無事を伝えて貰いたいのですが。お願い出来ますか?」
「うむ。承ろう」
「ありがとうございます。それと僕は、東に向かい魔人領を目指します。そう伝えてください」
「ふむ。よかろう。他種族にも貴殿のことは伝えておく。して、どうやって移動するのだ?」
「走ります!」
◇
今日も僕は走っている。今は届け物はない。ネーナを迎かえに行くためだ。
それと、ヒルデさんの依頼を熟すためでもある。
「関所の完成は当分先かな……。とりあえず世界一周して、ネーナを迎かえに行って、ヒルデさんの依頼……、〈魔王を自称する女性〉へ協力して、人類領に帰る、かな?」
今僕は、笑顔で走っている。この世界を知ることが出来るのだから。




