第61話 再度ダンジョンへ
ダンジョンに入り、明かりを灯した。
見覚えがある縦穴……、入口に近い場所らしい。
いや、チョウホウが助けてくれた場所なのかもしれないな。
眼下を見る。
怪物が、巣を拡張していた。
少し緊張する。自爆技は一発勝負である。
右手に魔力変換の篭手を装備しているので、左手に吸魂護符を巻き付けた。保険があると言ってもやはり怖い。
ここで冷静に考える。 何を目的にするかだ。
「……やっぱり、賢者の石の分離だろうな」
どうすれば、この怪物を止められるかをずっと考えていた。
触れられないので、どうすることも出来なかったが、何をしても良いのであれば別である。
心を静め、恐怖心を抑え込んだ。
空間魔法:空間破砕
僕の周囲に近づいた物質を塵に変える空間を生成した。
そして、篭手とコート、棍棒を空間収納に収める。
僕は、【闘気】を全開にして飛んだ。一応は、【闘気】を翼状に変形させれば飛ぶことは出来るのだ。
燃費が良くないので今までは行わなかったが。
怪物が襲って来るが、空間魔法と【闘気】により、僕には届かない。
だが、何時までも持つわけではない。急いで、賢者の石を探した。
怪物は、もはやアメーバ状である。先日は、肉のスライムと表現したが、その姿を変えていた。
糸状の網を突き抜けて、襲い来る触手を避けて進む。
もう、ダンジョンのほとんどの部分を浸食しているようである。
だが、魔力の流れは、一方通行だ。上流を目指せば賢者の石があるはずだ。
時々、アンデット系の魔物を見かけた。
リビングアーマーやデュラハンなどは、捕食されないらしい。この怪物は、金属を捕食出来ないのかな?
まあ、助ける気はない。話も聞けないであろうし。
そのまま進んだ。
◇
そこは、行き止まりだった。
大きな扉があるのだが、怪物はそこで止まっていた。
扉を開けられないみたいだ。
「……ダンジョンのボス部屋だよな。扉を開ける手順が分からないのかな?
いや、ダンジョンボスが侵入を拒んでいる?」
どうやら、ダンジョンの最奥で足止めを喰らっているらしい。
ダンジョンのフロアボスに知性があるのであれば、賢明だと思う。
怪物の魔力の流れを見ると、扉の前から流れていた。あそこに賢者の石があるのであろう。
「ふぅ~」
大きく深呼吸をする。
これからすることを考えると、どうしても躊躇ってしまう。だけど、やらなければならない。
「ネーナは、また悲しむのだろうな」
責任感と後悔。逃げ出したい気持ち。色々な感情が僕の中で渦巻いている。
だが、怪物は待ってくれなかった。触手が僕を襲って来たのだ。
僕は、思考を停止させた。
ステータス変更:バイタリティ特化
僕は、僕のスキルの根源に【闘気】で干渉した。ヒルデさんに禁止されていた奥の手。
僕のスキルが加速度的に暴走を始める。そして、周囲の物質をエネルギーに変換し始めた。
物質と空間が、崩壊して行く……。
怪物を見ると分解されて行くのが確認出来た。そしてダンジョンが、崩壊し始めた。
僕は、ここで意識を失った。
◇
どれくらいの時間が経ったのだろうか……。
亜空間を漂っているみたいだ。
「ロベルトとイルゼに突き落とされた時と同じだな」
苦笑いが出た。
一応手足を確認すると、特に外傷はなかった。まあ、裸なのはしょうがないか。
左手に巻き付けた護符は消えていたので、効果はあったのかもしれない。
そして、両手で何かを掴んでいることに気が付いた。
「これは……賢者の石か?」
だけど、色が違う。紅い結晶ではなかった。蒼い色である。
僕は、【闘気】を流し込んでその正体を探る。そして理解した。
この石は、ロベルトのスキルを賢者の石が取り込んだ物であった。
幻想級のお宝である。どんな負傷もこのお宝があれば治せるのだから。国に献上すれば、国宝認定は間違いないだろう。
だけど、ただ一人で亜空間を漂う僕には、不要な物でもあった。
ため息を吐いて、蒼く変色した賢者の石を空間収納に収める。
そして、空間収納より予備の服を取り出して着る。また、毛布を出して体に巻き付けた。
もう出来ることはない。運に期待するだけだな。残念ながら、ラック特化はないのだ。
前回は偶然ヒルデさんの空間に辿り着いたが、今回は分からない。
正直、自爆技を使って生きているのである。それだけでも幸運と言える。
「ネーナに会いたいな……」
それだけ呟いて、僕は眠りについた。




