第60話 竜王
何かの乗り物に、チョウホウと二人で乗り込む。すると、移動し始めた。
とりあえず聞いてみるか。
「何があったのか説明して貰えますか?」
「うむ。竜王様にビット殿のことを報告に行ったら、会いたいと言われた。
全てが終わったら、ネーナ殿とイルゼ殿とも会いたいとも言っておられた」
本当に、ただの好奇心だろうか?
シスイ関を破壊した過去がある……。恨まれている?
でも、カンエイは普通に接して来た。
まあ良い。最悪襲われてもステータス差だけで迎撃出来るであろう。
ここで、風景に目を取られた。外を見ると、すごいスピードで走っている。
動物が引いているのではない、自動で走行する馬車の魔導具みたいだ。
「この乗り物は、すごい速いですね。馬車の数倍の速度が出ているみたいです」
「うむ。千年前の技術なのだ。飛ぶ乗り物以外は、残されている。
応用すれば、飛ぶことも出来るのだが、協定で禁止となっている」
「協定? 誰とですか?」
「竜人、獣人、鬼人、鉱人、魔人、小人……、くらいだろうか。それと、エルフ族も参加している」
「そんなに種族がいるのですね。本当に世界は広いや」
「会いたいとかは思わないでくれよ。だが、魔人族に会いに行きたいと言っていたな。
今回の件が終わったら、連絡してみよう」
「本当ですか? ありがとうございます!」
歓談を続けていると、乗り物が止まった。
王城に着いたみたいだ。
◇
今僕は、控室のような部屋で待たされている。そして、一人だ。
メイドっぽい女性の竜人からも、怖がられていた。
襲って来なければ、僕から暴力を振るうことはないのだが、どうしてそんなに怖がるのだろうか?
そんなことを考えていると、扉が開いた。
豪華な服を纏った竜人が入って来た。頭を下げて一礼して出迎える。
「私が、竜王だ。 君が噂の旧人類の青年か。これからはビット殿と呼ばせて貰う」
「はい。竜王様。これからよろしくお願いします」
「本当に言葉が通じるのだな……。五百年前の移住計画以来だが、こうして会話出来ることを嬉しく思う」
挨拶が済んだので、席に座った。チョウホウも同席して貰う。
「色々と話しをしたいのですが、今は緊急事態です。
あの怪物を止める方法を模索しています」
「うむ。協力感謝する。正直我々では、後手に回っていた。
インコウとチョウホウが、ビット殿に協力を仰ぎたいと言い出した時には大騒ぎになったものだ。
だが、こうして対面して分かった。そなたは、随分と純粋な【闘気】を持っているのだな。
羨ましくもあるよ。そして、君がかつて人類が夢見た姿なのかもしれない」
良く分からないな。羨ましい? 人類が夢見た? まあ良い。後で聞こう。
「僕達のスキルが関与しているのは明らかです。協力は惜しみません。
それで、何か打開策はありませんか?」
「まず、指輪を見せて欲しい。チョウホウから聞いている物だ。
話を聞いた限りでは、その指輪であの怪物を止められるとは思わないのだが、確認したいことがある」
空間収納から指輪を取り出す。それをチョウホウが受け取り、竜王に渡した。
竜王は、手に取り色々と試しているようだ。
「……ふむ。なるほどな。このような魔導具があろうとは。
ヒルデガルド殿か。会いたいものだ」
そう言って指輪を返してくれた。
「お知り合いなのですか?」
「面識はない。だが、遠い親戚にあたる。チョウホウもだがな。
いや、その話は後でしようか」
竜王様が手を上げると、何かがテーブルに置かれた。
「これは何ですか?」
「この数日、王城で話し合いを行い、対応策を練って来た。
そして、ビット殿に命運を掛けたいという話になった」
良く分からない。だけど、『それ』を取ってみる。
一枚の紙……それが巻かれている。巻物になるのかな? 魔導具のようである。
「それを身に付けた者は、魂が肉体から離れないようになる。『吸魂護符』と呼ばれている。
そして、ビット殿は不死に近い体を持っていると聞いた。それと、ほぼ無限と言えるエネルギーを生み出せるとも」
あ~、なるほどね。僕のスキルを話したので、そこから推測されたか。
僕の禁じ手……、自爆して止めて欲しいというわけか。
まあ、さっき行おうと思ったのだし、これで保険も手に入った。断る理由はないな。
「……分かりました。ダンジョンごと破壊しそうですけど、やってみます」
「報酬は、魔人領へ行きたいと聞いている。先ほど使者を飛ばしたので、返信待ちだ」
竜王様は出来る人だな。だけど、魔人領はかなり遠いんじゃなかったのか?
「そんなにすぐに連絡が取れるのですか? インコウに聞いた時には、結構な距離があるみたいでしたが」
「緊急時には、飛ぶ乗り物を使用して良いことになっている。
今回ほどの危機は、この千年間なかったので、魔人族も納得してくれよう」
ふむ……。今度時間が出来た時に、他種族とどの様な協定を結んだか聞いてみるか。
「それでは、行ってきます。
チョウホウ。ダンジョンまで繋いでください」
「若者に命を掛けさせることを許して欲しい。だが、ビット殿に命運を託す他ないのも事実だ。
それと、帰って来たら話を聞かせて欲しい。私もビット殿に興味がわいた」
互いに笑い合い、僕は頷いた。
そして、チョウホウが作った門を通り、ダンジョンに入った。




