第56話 対策2
僕は、空間創造系の魔導具を持って考えていた。
ヒルデさんと過ごしたあの空間は、この魔導具だったのではないだろうか?
亜空間創造……。言葉からの推考になるが。
僕の作った空間を、竜人達が興味深そうに見ている。誰も扱えなかった魔導具を、旧人類の僕が使ったのだ。まあ、そうなるか。
「……チョウホウは、今何処にいますか?」
「チョウホウは、竜王様の所だ。前も言われたと思うが、チョウホウは貴重な能力の持ち主でな。前線には立たせられない」
万が一も起こせないのか。人類領に来た時は、油断していたのだろうな。ネーナにボコられるとは思わなかったのだろう。
しかし、チョウホウの協力がないとなると厳しいな。僕もチョウホウを当てにしていた。
「この魔導具を使える人、もしくは使い方を知っている人はいますか?」
「儂が知っている」
少し歳を取った感じの竜人が前に出て来た。
「お名前をお聞きしても良いですか?」
「……そなた達には、竜人は皆同じに見えように。まあ良い、コウコンだ。
儂は、チョウホウほどではないが、空間魔法を使える」
「助かります。これは、一回限りの使い捨てですか?」
「……いや、何度でも使える。使い方を知りたいのだな。
まずその巻物を開き、どのような空間にするかを書き込む。いや、イメージを持って魔力を注げば良い。
そうすれば、イメージした亜空間が作られる。何もイメージしないと、現在のように何もない空間が作られるだけだ。
閉じ方になるが、巻物に注がれた魔力を消してしまえば、亜空間は解除される」
「使用者は、亜空間の中に居続ける必要がありますか?」
「ないな。ただし、この世界との繋がりを維持するために魔力を消費し続ける必要はある。
亜空間を元の世界から切り離すと、何処へ行くかは誰も知らない」
ヒルデさんは、元の世界から切り離したのだろう。
それでも、他の世界と繋げる技術があったので、問題はなかったのだろうな。
……チョウホウが参戦出来ないのであれば、この魔導具を使うか。
「ネーナ。作戦を変更する。この魔導具とダンジョンを使用して足止めしようと思う」
「良いですわ。ビットが時間を稼いでいる間にイルゼと竜人で新しい魔導具を完成させるのだわ。
この方針で行くのかしら」
「イルゼ。一応の確認なのだけど、あの怪物には、ロベルトが捕り込まれている。それで……」
「分かっているわ。でも、気にしないで。
逢瀬を重ねて来たのは事実だし、未練がないと言えば嘘になる。酷い喧嘩別れしたのが最後だったのも後悔している。
助けたいとも思っているのだけど、あそこまで自分勝手な人だもの。
正直諦めているわ……」
かなりあっさりしているな。
僕は、ロベルトとイルゼが恋仲だと思っていたけど、違かったのかもしれない。
「とりあえず、捕獲はする。その後、引きずり出せたら、話してみて」
「……多分なのだけど、ロベルトの寿命は尽きていると思うの。スキルだけが生かされていて、魔物が取り込んでいる。
私の分析では、そんな感じだった。
肉体は死んでいると思うので、無茶なことはしないでね」
ふむ。イルゼの観察力は、僕の魔力感知よりも正確な情報かもしれない。
まあ良い、方針は決まった。
後は、この魔導具を僕が使いこなせるかだな。
◇
コウコンに教わりながら、魔導具の発動を試みる。
ちなみに名前は、『封神巻子装』とか言うらしい。亜空間に別荘を作る物ではなく、何かを閉じ込めておく魔導具みたいだ。
今回の件には打って付けである。
ステータス変更:マインド特化
僕は、篭手にて【闘気】を魔力に変換して溜められるだけの魔力を生成した。
そして、魔力を供給して封神巻子装を起動させる。今回は何もない広い空間で良い。出来れば時間を加速させたいが、それは後でも良い。
とにかく、広い空間のイメージ……。封神巻子装の封が外れて、巻物が広がった。
僕のイメージが、具現化して文学として表示されて行く。
目の前に亜空間への扉が開かれた。
「はぁ、はぁ……」
僕は膝をついて、座り込んだ。
「これ、かなりの魔力を持って行かれますね……」
「起動出来るだけでもすごいのだよ。この魔導具の有用性は理出来るだろう? だが、この百年誰も使えずに飾られておった。
しかし、これではダメだな。この入り口の広さでは、あの怪物を閉じ込めるのは無理がある……」
確かにそうである。
目の前には、三メートルほどの亜空間へ続く輪が広がっている。あの巨体は、どうあっても入らないだろう。亜空間の中は広いので、使えそうだが、入り口の形を変えることは出来なかった。
どうする? イルゼにも魔力の供給を頼むか?
いや、マインド特化した僕の方が、魔力は多いと思うので、イルゼが加わってもあまり変化はないか。
竜人達も同じである。起動すら出来なかったのだから。
もう少し考える必要があるな。
ここに来て手詰まり感が出て来た。




