第55話 対策1
「まず、イルゼの状況を知りたいです」
「そうね、イルゼの状況によってタイミングが変わるのかしら。もう打てる手はないので、確認しに行くのも良いのかしら」
僕の提案に、ネーナとカンエイが頷いた。
カンエイに先導して貰い、竜人領を飛ぶ。上空から竜人類を確認すると、とても整備されていることが分かった。
「随分と発展しているのですね。資材をふんだんに使って道を領土中に敷いているのが分かります」
カンエイが反応した。
「歴史として、君達とは千年は離れているのだ。人手は少なかったかもしれないが、時間はあった。
それと、科学技術が少なからず残されていたのもある。
科学技術とは……、そうだな。千年前の世界での魔法みたいなものだ。厳密には違うがな」
ほう? 興味あるかもしれない。
ヒルデさんの所で、不思議な道具をいくつも見た。
その技術も『科学』と呼んでいたので、同じであろう。人類領に持ち帰っても良いかもしれない。
それと、畑と思われる場所は意外と少なかった。
ただし、家畜と思われる動物は多く見られた。放牧しているのだろう。
山の上に住んでいるのだし、植物は育ち辛いのかもしれないな。
そんなことを考えて観察していたら、大きな街に入った。
人類領の王都以上に大きな街だ。そして、人類領の王城よりも高い建物がいくつも並んでいる。
「すごいですね。壮観です」
「……ビット。今はそれどころではないのかしら。観光に来たわけじゃありませんことよ」
見知らぬ土地に来たのだ。もう少し感動を味わいたい気持ちも理解して欲しいな。
だけど大きな鳥は、開けた場所に降り立った。
そのまま、カンエイに連れられて建物に入る。
ここにイルゼがいるのかな?
◇
中に入ると、数人の竜人が慌ただしく働いていた。
僕とネーナを見ると、一瞬立ち止まるが、すぐに動き出す。
そうだ。今は種族などどうでも良い。後で会話を試みよう。そうしよう。
大広間を進むと、イルゼがいた。
大量の魔導具と魔石をテーブルに並べて、一つ一つ効果を確認していた。
ネーナが語り掛ける。
「イルゼ。状況を教えて欲しいのかしら」
「!? ネーナ様! 戻って来られたのですね。それと、ビットも来てくれたのね」
もちろん僕は、ついでですよね。
「それで、出来そう?」
イルゼと竜人が視線を合わせる。
一日程度だが、もう協力体制を敷いているのか。僕なんか、矢を射かけられて追い返されたと言うのに。
「……結論から言うと、一時的な足止めくらいにしかならないわ。
竜人領にも思ったほどの魔導具はなかったの。国宝級の魔石でも無理ね。
結局のところ、あの槍が一番効果があったみたい」
ダメか。そうすると、僕の指輪を使うしかないな。槍でダメだっので確実性はないが。
ネーナが僕を見ている。自分から言い出せということだろう。
ここで、気になる物があった。
テーブルには、魔石や魔導具が置かれているのだが、その一つを拾い上げた。
「……これ、空間に作用していますね。僕の空間魔法にも反応している」
竜人達がザワザワし始めた。
「それは、国宝の一つだ。はるか昔の魔導師が、残した物でもある。
空間魔導師のみが使えるのだが、その使い手がいなくなり、飾られていた魔導具なのだ」
「どんな効果か分かりますか?」
「亜空間創造という魔法だ。ダンジョンを作るとも言われている。
誰も扱えないので、真偽は不明だがな」
僕は魔導具に魔力を送ってみた。感覚で分かる。
ヒルデさんと過ごした空間。その作り方。
手のひらを前に向けて、魔力を送る。
空間が区切られて、亜空間と呼べる場所と繋がる。門の作成であり、僕の創造した空間と繋がっていた。
「……少し見てきます」
その門を潜ると、足場だけの何もない空間が広がっていた。
イメージ通りである。ただし、起動だけ出来る状態だ。広さを変えたりとかは出来ない。
この魔導具は使い方を覚えれば、切り札になりえるかもしれないと思えた。




