第53話 怪物2
飛翔生物……僕は大きな鳥に乗り、眼下の魔物を見る。いや、あれはもはや怪物と言った方が良いだろう。
あんな魔物がいるわけがない。あれが増えるのであれば、この世界を覆い尽くしているはずだ。
賢者の石を取りに行った世界を思い出す。あの世界が良い例だ。
怪物は、不気味に蠢いている。
僕の焔が付いた部分は、切り離されて消え始めている。
インコウは、『魔物を取り込んでいることの方が問題がある』と言っていた。
触れたら、取り込まれる可能性がある。
周りの竜人も中長距離からの攻撃のみだ。
今は、魔法特化型だ。外部からダメージを与えるのではなく、内部破壊の魔法を撃ってみるか。
僕は、再度【闘気】を生成して篭手に吸収させて魔力へと変換する。
……魔力が溜まった。
水魔法:水流操作
魔法発動の起点を、怪物の中心に指定する。そして、起点を中心に液体の流れを操作した。液体の流れる方向は適当だ。
普通の生物であれば、これで爆発する。そう、生物であれば、普通はこれだけで息絶える。息絶えるはずなのだが……。
手応えはある。あの怪物の内部は、グチャグチャになっているだろう。
だが、爆発することも、血を噴き出すこともなかった。
魔力が尽きたので、魔法の発動を止めた。
「ビット。どうなのかしら? 何かしたようだけど、変化が見られないのだわ」
「……怪物の体内をかき混ぜてみたのだけど、思ったような効果が出なかった。
なんだろう? 何か見落としている気がする。
いや、生物として考えては、いけないのかもしれない」
「先ほどの火魔法を撃ち続けた方が、効果があるのではなくて?」
「あの魔法の連発は、出来ないかな。僕の全力の攻撃魔法なんだ。
僕の【闘気】にも限りがあるし、現実的じゃないね。僕の体力も無限ではないんだよ」
ネーナが考え出した。
「……海に連れて行きましょうか?」
僕達のタブーであり、竜人達も危険な魔物がいると言った海か。確かにアイディアとしては悪くない。
だけど、現実的じゃないな。
まず、今は内陸部だ。海に連れて行くのに何日掛かるか分かった物じゃない。
そして、仮に海に落としたとしても、それで息絶える保証はないし、『魔物を取り込む能力』が消える保証もない。
あの怪物が、『陸地よりも怖い魔物』を取り込み出したら終わりだ。
「方向を変えさせるのは賛成だけど、海に落とすのは、問題の先送りだと思う。あれは怖い。ここで仕留めたいね」
ネーナがさらに考え出した。
ダメ出しだけじゃなく、僕も分析してみるか。
ステータス変更:インテリジェンス特化
僕は、知性を上げて、【闘気】を目に集中させた。怪物の魔力の流れを視る。
魔力の流れを視覚化してみた。
怪物の心臓と思われる部分から、魔力が溢れている。
なんだあれは? 無限とも思える魔力が放出されて、体の修復及び維持を行っている。
「あの部分を取り除けば、再生は止まるか……」
「ビット。なにか分かったのかしら?」
ネーナが、僕の独り言に反応した。
「怪物の中心部……、心臓だと思われるところから魔力が放出され続けている。あれがなにか分かれば、対策になると思うのだけど、心臓を抉り出す方法がないな」
ネーナが、カバンに手を入れた。そして、赤い結晶を僕の前に差し出した。
「え!? 賢者の石!?」
「これがなにか知っているのかしら?」
ヒルデさんが、使っていた物だ。そして、僕が異世界から取って来た物でもある。まあ、代わりにポムムさんを連れ帰ったのだが。
大分前になるが、本物を見せて貰っていたので、見間違える事もない。
その本物の〈賢者の石〉をネーナが持っていた。
「それは、何処で手に入れたの?」
「ロンギヌスの槍で吹き飛ばした時に、あの怪物から出て来たのだわ。魔力の流れが異常だったので回収してみたのだけど、正解だったみたいね」
この世界で百年に一人の逸材がいたのか。それが暴走してしまっている。
こうなると、対処方法が変わって来る。あれは、〈超回復:再生〉を発動していると考えられる。
心臓部を取り除いても、復活しかねない。
「ありがとう、ネーナ。少しだけ疑問が解けた。それと、海はダメだね。
あの怪物は、現時点でこの世界のどの生物よりもしぶとい生き物になっていると思う。
海に落としても、数百年後とかに陸地に戻って来そうだ。それも今よりも何百倍って大きさで。
それとあれは、〈再生〉だと思う。一度取り込んだ肉体の状態になるまで、賢者の石で生み出した魔力を使って、無理やり復元しているみたいだ」
ネーナが苦虫を噛み潰したような表情を作った。
そうだ、今重要なのは、『どうすべきか』だ。
再度、怪物の観察を続ける。
少し離れた部分にも魔力が集まっていることが分かった。あの部分は、魔力の供給も多いが、血流も他の部分に比べて段違いに多い。元々重要な臓器だったのだろう。
脳になるのかな? 眼も耳も付いてないが、あの部分から体全体に信号を送っている?
もう、魔力の流れも、血流の流れもグチャグチャで、合成獣としか言いようがないが、二ヵ所だけは、形を変えられないのであろう。
その部分を凝視する。魔力が何かに変換されている……。
ハッとする。
「……ロベルト!?」




