第49話 会談2
竜人の状況は分かったけど、暴れている魔物の原因が分からない。
ネーナは、行く気のようだ。僕は、交渉事は苦手なので、竜人との話し合いを頼みたいと思う。
そして、イルゼだ。イルゼは、スキルと歴史に詳しい。魔物の弱点を見つけてくれれば、早めに終わるだろう。
リセイ関長は、反対みたいだが……、ネーナの決定には逆らえないだろう。それに、わずかでも【闘気】を覚えたのである。
人類領は、リセイ関長に任せて問題ないと思う。
そうなると……。
「僕が、その魔物を倒せるかが問題になりますね」
僕のつぶやきに、全員の視線が集まる。
「私としては、反対なのだが……。倒せそうか?」
「リセイ関長に第六の関所を任せて、三人で行くのは賛成です。
ただし、戦闘に関しては、イルゼが明確な攻撃方法を示してくれたら参加する形で」
今度は、イルゼに視線が集まる。
「……現段階では、情報が少なすぎるわ。その魔物を見てみないと何も進まないわね。
それと、もし仮にだけど、私達のスキルをその魔物が持っているのであれば、対処方法はあるわね」
イルゼが、大きなネックレスを皆に見えるように前に出した。
ネックレスにはめ込まれた宝石が、光り輝く。
イルゼは、ヒルデさんから貰った指輪を魔道具で再現していたのだ。ただし、完全な再現ではない。
スキルを半分程度だが、封印する魔道具を作成していた。イルゼのオリジナルと言って良い。
「それで、倒せるのか?」
「これでは無理ね。でも、ビットの持つ指輪であれば、スキルを止められるはずよ」
あ~。なるほどな……。
だけど世界で一個だけの貴重品だよ? 僕のスキルの保険でもあるし……。
「指輪は、竜人の頼みとはいえ、使い捨てには出来ないかな。
その作戦だと、イルゼが複製品を完全に再現してからの方が良いかもしれないね」
僕とイルゼの言い合いに、チョウホウが割って入って来た。
「良く分からないのだが、止める方法を持っているのか?」
現物を見せた方が良いだろう。
空間収納より、指輪を取り出して、チョウホウに渡す。
チョウホウは、指輪を受け取ったが理解出来ないようだ。
「チョウホウ。その指輪を持った状態で、空間魔法は使えますか?」
チョウホウは、右手に指輪を持ち、左手を空中に向けた。
何かしらの魔法を使うようだ。空間収納かな?
でも、何も起きない。やはり、ヒルデさんから貰った指輪は高性能である。
指輪だけでもないのだけどね。篭手を擦って心の中で賞賛した。
「……なるほどな。こんな物を持っているとは。まさに『場違いな工芸品』だ」
「それを貸して頂けるかしら?」
ネーナの言葉に驚いてしまった。反射で、チョウホウから指輪を取り返す。
「む!? ねえ、ビット! 私には貸せないということかしら!?」
「……壊したら取り返しがつかない物なんだよ。ネーナでは、摘まんだだけで壊すかもしれないだろう?」
ネーナの【闘気】が膨れ上がる。
全員がネーナを宥める。イルゼから、指輪を渡すように言われたのだが、こればかりは聞けない。
しばらく言い合いになった。
インコウとチョウホウは固まっている。
◇
「……分かりましたの。今回は、私とイルゼで行くのだわ」
また、ネーナがとんでもないことを言い出した。
「止める方法がないのであれば、無駄足だよ? イルゼの複製品が完成するまで待った方が良いと思う」
「ビットは黙っているのかしら! それと、勝算ならあるのだわ!」
なんだろう?
「一年前に、ダンジョンから槍が出たのだわ。その矛先に触れるとスキルが抑えられる現象が確認されているのだわ」
イルゼが、驚きのあまり口元を隠した。
僕はよく覚えていないな。でも、そんな話もしていたかもしれない。
「それと、第二案としては、イルゼを竜人領に連れて行って、複製品を作るのだわ。
竜人達は、良い素材を持っていそうだから、理論さえ伝えれば、すぐにでも完成させられるのではなくて?」
こちらの案は、インコウとチョウホウが頷いた。
それと、イルゼの眼が輝いている。第二案は、さすがネーナだと思ってしまう。
竜人領への立ち入りを断固拒否して来た相手を、上手く丸め込んでいる。
「うむ! その二案をお願いしたい」
インコウが頭を下げて来た。
「それでは、まず王城に槍を取りに行こうかしら」
「ちなみに、その槍は何と言う名なのだ?」
「たしか鑑定結果では、〈ロンギヌスの槍〉と記憶しておりますの」
インコウが頷いた。
「是非ともその槍を頂きたい! 対価は何でも言ってくれ!」
槍の名前だけで、効果が分かるのだろうか?
さて、僕はどうしようかな……。




