第48話 会談1
「僕に頼み事ですか?」
思い当たる節がない……。でも、インコウとチョウホウは、かなり慌てている。
「一年前にここに来た、大脚竜なのだが、制御不能に陥ってしまい、各所を破壊している。いや、魔物を取り込んでいることの方が問題があってな!」
意味が分からない。インコウは、焦りすぎだな。
とりあえず、鳥から降りて貰い、お茶を出す。
二人は勢い良く飲み出した。
その間に、ネーナが指示を出して、テーブルと椅子が運び込まれた。
関所の上で、会談だ。
「それで、大脚竜とはなんですの?」
交渉事なので、ネーナに任せる。
ネーナが話し始めると、インコウとチョウホウは、落ち着きを取り戻した。
「……、うむ。我々の言葉では通じなかったか。失礼した。一年前に大きな魔物が一匹いたと思うのだが、あれを我々は大脚竜と呼んでいる」
僕が、アルゼンチノザウルスと呼んだ魔物だな。
「ふむ、あれですのね。それが制御不能とは?」
「我々は、大脚竜を十匹ほど飼育している。そのうちの一匹が、テイムを受け付けないことから始まった。
いや、異常な行動を見つけた時からだな。
その大脚竜は魔物を踏み潰しては、その血肉を足から吸収する能力を得ていたのだ。まるで、足裏に口があるかのように……」
良く分からないな。魔物の性質が変わったのか?
「……推測するに、他生物を取り込んで、体の構造が変わったのかしら? あなた達、竜人がどうやって生まれたのか分からないので、何とも言えないのですが」
「いや、我々とは方法が異なる。我々も口から栄養をとる。あれは、とにかく異常としか言えない」
本当に分からない。何が起きているのだろうか。
「制御不能であれば、処分も検討するべきではなくて?」
「うむ。日々巨大化していく大脚竜を見て、我々も処分を行おうとした。だが、出来なかったのだ。傷を負わせても即座に回復してしまう。それこそ、首を落としても、数秒で生えるのだ」
……そんな生物がいるのか? いや、僕達は一人だけ心当たりがあるな。
ここで、イルゼが割り込んで来た。
「ネーナ様、緊急故、ご無礼を致します。竜人の方にお聞きしますが、その時落とされた首はどうなりましたか?」
「……塵のように消えたと聞いているが、心当たりがあるのか?」
ネーナとイルゼが頷き合う。
「心当たりがあります。〈超回復:負傷〉の回復方法に酷似しています」
今度は、インコウとチョウホウが視線を合わせた。
僕は、良く分からない。ロベルトのことだろうけど、ロベルトが生きていて大脚竜を再生しているのだろうか? もしくは操っている?
いや大脚竜が、ロベルトを取り込んだのかもしれないな。
「その者は、無敵だったのか?」
「いえ。回復を行う度に寿命を消費していたはずです。それと、カロリーが不足していれば、回復が行えませんでした」
イルゼは、なんでそこまで知っているのだろうか? 僕が勉強不足か?
「軍隊を派遣して十日間攻撃を行い続けたのだが、討伐出来なかったのだ。こんなことは、今でなかった。
どう考えても、生物の理を超えている」
イルゼが考え出した。
ロベルトではない可能性があるな。そして、僕に近いスキルでもある。
「……エネルギー源が、問題ですね。仮にビットと同じであれば、辺り一帯を消滅させる可能性があります」
それこそありえない。
「ちょっと待ってください。竜人達は、魔物にスキルを与えているのですか?」
「いや我々は、そなた達のように、【闘気】を変化させる技術は持ち合わせていない。なので、対処方法が分からないのだ」
整理すると、人類領に来た魔物が、スキルを取得してしまい暴走しているってことかな?
だけど、成人の儀式は、魔方陣や長大なチュートリアルを用いた、膨大な労力を必要とする。偶発的に魔物が取得したなどありえない。
竜人達からしても、ありえないし、僕達からしてもありえない魔物……。
実際に見てみないと、結論は出ないだろう。
「見てみるしかないですね。実際に見てみないと対処方法も分からないですし」
「そうですわね。私とビット、それとイルゼで行きましょうか」
ネーナは、こうゆう時来たがる。でも、今回は来て貰った方が良いかもしれないな。
それと、イルゼは、スキルに詳しい。
反対の理由がない。
ネーナが正しい。今回は、三人での行動が最適だろう。
ここで、リセイ関長が割って入って来た。
「三人に抜けられると、関所の復旧を含めて厳しいのだが……。特に不測の事態が起きた場合、私一人では対応出来ないことも考慮に入れて欲しい」
でも、リセイ関長も【闘気】を覚えて強くはなっているのだけど。それに、リセイ関長にしか出来ないことも多々あるし。
「……最悪、三人全滅も視野に入れて行動になりますわね。でも、行く必要はあると思いますのよ」
ドキリとしてしまった。全滅か……。慢心していることを見抜かれていたのだろうか。




