第44話 復興4
目が覚めた……。
ここは何処だろう? 草原のエリアではなかった。
床も天井も、壁までも石作りだ。牢屋を思い出す。目の前には、焚火がある。暖を取るためにネーナが用意してくれたのだろう。
手足を確認すると、縛られてはいないので、ネーナの機嫌は良いのだろう……。多分。
そして、僕一人だけである?
「ネーナは、何処に行ったのだろうか?」
独り言が出た。
立ち上がり、焚火の薪を一本拾い上げる。
松明替わりの薪の光が、遠くまで照らしてくれた。
牢屋ではないな……。神殿のような場所みたいだ。
考えるに、ダンジョン三層なのだろうか? ネーナに任せて、事前準備を怠ったことが悔やまれる。
いや、こんな探索者などいないだろう。
自分の力を過信しすぎている。僕には睡眠時間と言う、問題点もあるのだし。
ダンジョン探索は、もっと用心すべきであった。
──カツーン、カツーン
足音だ。石畳のフロアにはとても響く。
誰かが、僕に近づいて来るのだろう。
松明の明かりをそちらに向ける。
相手側も、明かりを持っているようだ。ぼんやりとだが、明かりが見えた。
視認出来る距離まで警戒しながら待つ。
……ネーナであった。
◇
「目が覚めたようですわね。気分はいかがかしら?」
「ネーナ。守ってくれたようだね。ありがとう。それで、ここは何処なの?」
「ダンジョン三層ですわよ?」
「二層は、踏破したってこと?」
「? 私があなたを担いで、三層への階段をみつけたのかしら」
やっぱりそうなるか。
「それで、ここはどんなフロアなの?」
「『不死者の城』と呼ばれていますわ。グールやリッチ、リビングデッドが徘徊するフロアなのだわ」
「掃除したの?」
「いいえ、もぬけの殻ですわね。ボス部屋も見て来ましたが、いませんでしたのよ」
通常のダンジョンがどんな感じか知らないけど、ここまで魔物がいないのは不自然だと思う。ネーナはどう思っているのだろうか?
「不自然じゃない? 魔物がいないって……」
「推測するに、インコウとチョウホウが何かしたのではないかしら?」
そうなるのか? だけど、こないだの魔物の氾濫には、グールやリッチはいなかったのだけどな。動物や爬虫類のみだ。
単純にダンジョンに住み着いている魔物を外に出した訳ではないということなのだろう。
ダンジョンの仕組みが分からない以上、推測の域は出ないので、これ以上は考えても仕方ないか。
「それと、これを見て欲しいのだわ」
ネーナが、カバンから宝箱を取り出した。一層の宝箱よりも大きい。
開けてみると、金銀財宝とインゴット、そして、剣が入っていた。
「これはすごいね。ダンジョンからは、こんな物が出るんだ」
見たこともない貨幣が大量にある。これらは鋳つぶして再度加工すれば良い。インゴットは、それこそ未知の金属の可能性がある。技術革新が起きることもあるだろう。
「極稀にですけどね。この剣だけでも国宝級ですわよ」
ネーナが剣を抜く。剣は光輝いていた。魔力を帯びているのが分かる。魔剣の類だ。
思案してしまう。魔物がいなく、宝箱やお宝だけが残されたダンジョンか……。
「ネーナは、違和感を感じない?」
「……罠の匂いがしますわね。餌を撒かれて、食いついたところを、深い階層で取り囲まれる……、とか?」
僕も同意見だ。ダンジョンの冒険譚は聞いたことがあるが、明らかにおかしい。
「今回は、ここで帰ろう。国宝級のお宝も手に入ったし、成果としては十分だよ」
ネーナが思案し始めた。
「……後八日残っていますけど、そうね。良いですわ。一度帰りましょうか」
「もしかすると、第六都市に何か起きているかもしれないしね」
ネーナが頷いた。
罠の可能性……。僕が竜人達にされたことを思い出す。
こうして、帰路に着くことになった。
今は、冒険をする時ではないことは理解している。時間が空いたのでダンジョンに挑んだだけだ。
第六都市の復興と第六の関所の復旧が最優先だ。
そして、気が付いていなかった。ダンジョンマスターに見られていることを。
見られていたことは、後から知ることになる。




