第41話 復興1
魔物の氾濫で亡くなった人達の埋葬も終わった。
そして、復興が始まった。
今回からは、ネーナが協力してくれる。というか、ネーナが実務を熟すと言って聞かなかった。
陣頭指揮は、もううんざりなのだそうだ。
厚手の作業服を着る領主、もとい、お姫様と言うのは、どうなのだろうか?
まあ、ネーナは何を着ても美しいのだが。
とりあえず、僕とネーナで資材運びである。
近隣の森で大樹を引っこ抜き、第六都市まで運ぶ。初めは運搬を任せたのだが、往復に一時間以上かかってしまった。
最終的には、枝打ちだけをお願いして、伐採(引っこ抜き)と運搬は、僕とネーナが担当した。
大木を両肩に担いで、第六都市まで運んで行く。
「ビット! 競争するのですわ!」
そう言われて、張り切ってしまった。
頑張って木材の調達を行ったのだが、結果としては、ネーナに負けることになってしまった。
ネーナが、【闘気】を覚えるとこうなるのか……。
とりあえず、必要数は揃ったので、植林をお願いして、次の作業に移ることにした。
今度は、石材の運搬だ。
開拓村では、木の丸太を下に敷き、押して運んだのだが、今回は巨大な岩をネーナと僕で持ち上げて運ぶことにした。
第六都市の住民は、もう見慣れたのか、驚きもしなくなっていた。
巨大な岩は、リセイ関長の魔法剣で切断だ。使いやすい大きさのブロック状に切断して行く。
こうゆうことは、僕には出来ない。熟達の剣技と魔法が組み合わさって、始めて成せる業だ。
一週間で、資材集めは終わってしまった。
そこで、内地と第六の関所の情報を集めた。
まず内地だが、ほとんど被害はなかったのだそうだ。魔物が山を登り切れず立ち往生したのが幸いした。
いや、インコウは狙って行ったのかもしれないな。無粋なので聞くとはしないが。
それと、第六の関所だ。
アルゼンチノザウルスが通った中央部のみ、破壊されていた。半壊程度で済んでいたのである。
こちらは、シスイ関で行ったように、土を盛り上げて焼き固めることで応急処置とした。関所内部の復旧は、第六都市の復興が終わってから取り掛かる手筈になっている。
それと、開拓村へ向かう途中に出来た村だ。
被害は、畑を荒らされたくらいだった。ただし、衛兵の常駐が難しいので月に一度見回りに行くことで合意した。
魔物だけでなく、野犬や猪等の害獣がいるので、安心して暮らせるまでは、村に戻らないことにしたのだ。
最後に開拓村だ。見事なまでに、真っ平に破壊され尽くされていた。
それと、ロベルトの痕跡は何処にも見当たらなかった。
「これは、もう一度始めからだな……」
「まあ、良いじゃありませんの。土台くらいは残っていますし。私とビットがいれば、以前とは比べ物にならないくらいの速さで作れますわ。
それに第六都市の復興で、職人達の技術向上も図れますしね。ここはしばらく放置ですわね」
ポリポリと頬を掻いてしまう。
僕は、第七の関所の完成を、使命としていたのだけどな。
まあ、現状では、後回しにするしかない。
こうして、復興作業の優先順位が決まった。
後問題は、イルゼであった。
指輪を返してくれなかったのだ。まあまだ、怪我も治りきってはいない。でも、魔法が使える程度には回復したのだ。
だけど、ヒルデさんから貰った大事な物でもある。預けておく気はなかった。僕自身の保険でもあるのだ。
言い争っていると、ネーナが介入して来た。
「ビット! レディーの頼み事くらい聞くのだわ!!」
ネーナは、何故かイルゼの味方をする。
僕は、イルゼに殺されそうになったのだが……。
イルゼが泣き出すと、ネーナが抱きしめて、さらに怒り出した。
ここで、狂戦士化は避けたい。
リセイ関長もネーナに賛同して、僕の意見は退けられた。
最終的に折れるしかなく、なくさない事を条件にして、イルゼに貸すことで決着となった。
結構不満である。
◇
一ヵ月が経過する頃には、第六都市の居住区の整備が完了した。
その間、僕は逃げた家畜の捜索や魔物の駆除を行っていた。
ネーナはと言うと、畑を耕していた。元の十倍の面積の畑を作ってしまったのだ。
これには、皆驚いてしまった。
こんな力があるのに、王城で何も出来ずに過ごしていたのでは、たしかにストレスが溜まっていたのだろう。
今のネーナは、野良作業を行っているが、とても良い笑顔である。
これから、今後の方針の打ち合わせだ。
「ダンジョンに入りたいと言うのか?」
僕の提案にリセイ関長が、驚いた声を上げた。
「はい。今の僕であればダンジョンの深部まで行けるはずです。国宝級や幻想級のお宝を見つけられるかもしれません。もしくは、千年前の遺物を期待したいところですね」
リセイ関長は、考え込んでしまった。
「良いではありませんこと? 私とビットであれば、踏破も可能でしょうし」
何故か、ネーナも行くことになっている。ここで僕一人で行くと言うと痛い突っ込みが来るので言わないが。ネーナの活躍の場が少なくなって来たのも問題だな。
「お二人に抜けられると、いざと言う時に困る可能性があるのでは?
特に、ビットの回復魔法は貴重ですし……」
イルゼは、反対の様だ。イルゼは、怪我が回復し出してからは、回復魔法の習得に励んでいる。技術としては、まだまだ未熟だが、実用性は十分にある。
実務より後方支援をお願いしていたのだ。
そして、指輪を付けたり外したりして、スキルの調整を行っているみたいだ。
「期間を設けましょうか。まず、十日間ダンジョンに挑むことにして、様子を見るのだわ」
ネーナの提案で、最終的に合意した。
補足
ビットのスキルは、世界一有名な数式E=mc^2を人の身で体現した物です。
かなり怖いスキルです。
スキル:特殊相対性理論? なんかしっくりきません。
良い名称があれば、教えて頂けると幸いです。




