第39話 後始末6
「もう一つ。魔物の氾濫は何ですの? 数十年に一度の間隔で起きていますが、竜人が関わっていますの?」
インコウは、目を逸らした。後ろめたいことがあるようだ。
ちなみにチョウホウは、朦朧としている。
「……理由はある。だが、言えない」
ネーナがモーニングスターを振り上げた。僕とリセイ関長が慌てて止める。
インコウは傷が酷い。僕がやったのだが。それと、チョウホウがまた錯乱状態になったら話が進まない。
「教えられる範囲で構いません。少しでも納得出来る答えをくださいな」
ここで、ネーナの狂戦士化の再発は避けたい。
「旧人類は魔物の氾濫に襲われる度に、生物としての強さを増して行った。要はストレスを与えて、怠惰にならないようにしているだけだ。これ以上は言えない」
上手くごまかしたな。
真の意図は、隠していると思う。
その後、ネーナのちょっとした質問で終わりとなった。
これ以上は、情報を引き出せないとの判断だ。
拷問とかなくて本当に良かった。……なかったよな?
その後、インコウとチョウホウを回復させて帰らせることにした。
それと、開拓村には手を出させない約束も取り付けた。これで安心して関所を作れる。
今の僕が、全力を見せても良いのであれば、関所は二~三年くらいで完成させられるだろう。
インコウとチョウホウを第六都市から送り出す時であった。
「我々からも質問したいのだが、良いかな?」
何だろう?
「答えられる内容であれば、答えます」
「君のエネルギーはどこから来ているのだ? カンエイも言っていたが、私も疑問に思ったのだ」
あー、それか。
どうしようか。本当のことを言う必要もないけど、隠す必要もないな。
「E=MC^2という数式は聞いたことがありますか?」
「……は? 世界一有名な数式だが、なぜ君が知っている?」
知識は残っているのか。これならば教えても通じるであろう。
「これは、教えて貰ったことなのですが、僕は理解出来ていませんので言われた言葉をそのまま伝えます。
僕は、吸収した物質を消費させてエネルギーに変えるスキルを持っているそうです。
仮に、僕が何万年も生き続けた場合は、この世界を喰い尽くすらしいです」
僕には意味が分からなかったけど、インコウとチョウホウは驚いている。
言葉の意味は知っていそうだな。
「それを人の身で実現しているというのか……。スキルで物質を消費させてエネルギーへの変換。可能なのか?」
「今は、睡眠時だけ出来ているそうです。マイクロスリープを覚えると辺り一帯が消し飛ぶと言われました。
また、常時発動型にすると自爆するそうです」
インコウとチョウホウは、真っ青だ。
「僕は、これ以上スキルを鍛えるつもりはありませんので、心配しないでください」
「その言い方だと、まだ成長の余地は残されているのか?」
「使い方次第だと言われました。【闘気】によりスキルに干渉すれば、破滅的なことも可能だそうです」
「……そんなことが起きないことを祈るよ」
僕もそう願いたいです。
「それと、関所が完成したら、カンエイに会いに行くと伝えてください。竜王にも会ってみたいな」
驚く二人。
「何しに来るというのだ?」
「魔王を自称する人がいるはずなので、会いに行くために相談に乗って貰おうかと」
インコウとチョウホウは、アイコンタクトで何かを話している。
「地図は渡したはずだ。東に向かうと良い。そうすれば、魔人族がいた地に辿り着けるだろう」
「竜人には、海を越えるルートは持っていないのですか?」
「我々は、山で暮らしているので、航海術は持っていない。それと、海には陸地より怖い魔物がいる。エルフ族が一番初めに放った魔物が今も生き続けているらしい」
「怖そうですね。海は渡れそうにないや」
「うむ。船での輸送を止められた人類は、物資の輸送が大幅に滞り混乱したとあった。千年前の技術を持ってしても退治出来なかった魔物だ。君でも危ういと思う」
見てみたいけど、止めよう。僕達も船は作るけど、遠洋へ行くのは禁止されている。見える範囲にある島への上陸さえ禁止されているのだ。きっと何かあるのだろう。
好奇心はあるが、いらぬ混乱を招くだけだし。
こうして、二人を送り出した。
攻め込んで来て、多くの命を奪った相手に対して甘いかもしれないが、これがネーナの方針であったため、誰も文句は言えなかった。
◇
「さて、開拓村より第六都市の復興からだな~」
う~んっと伸びをしていると、話しかけられた。イルゼからだ。
「ねえ、ビット。あなたのスキルにデメリットはないの?」
「……一応あるけど、知りたいの?」
「私は、スキルに栄養を取られて、怪我をすると治せないの。先代の〈超回復:魔力〉は僅かな怪我が命取りになったらしいし。その対策方法を探していて……。指輪を貸して貰えたけど、何時までも返さないわけにはいかないでしょう?」
「参考になるかは分からないけど、その質問を受けたら返す『答え』は教えて貰っているよ」
驚く、イルゼ。
「ネーナ様は、狂戦士化による精神変調。リセイ関長は、二重人格だったかしら? 今ビットが暴走したら、誰も止められないのは困るから、知っておきたいの」
ヒルデさんに暗記させられた回答を述べる。ちなみに僕は理解していない。
「僕は、一日に八時間以上眠らないといけないんだ。いや、十六時間以上起きていてはいけないと言った方が良い。二十四時間で、周囲の物質を分解し始めるらしい。四十八時間で空間が歪みだすと言われた。それで、七十二時間で、『事象の地平線』を超えるらしい」
「意味が分からないわ。だけど、起き続けると周囲を破壊し出す……。必ず睡眠を取らなければならないのね」
「徹夜しなければ良いらしいけど、デメリットと言えるかどうか……」
「睡眠時間の拘束……。あなたは時間なのね」
あなたは……、か。
イルゼは、スキルについて研究してるのだな。




