第36話 後始末3
「それでは、色々と聞きたいのだわ」
ネーナが語りかけると、インコウに緊張が走った。
「う……、ゲホゲホ」
ここでチョウホウと呼ばれた人物の意識が戻った。良かった、蘇生は成功したようだ。
「チョウホウ! しっかりしろ!」
「インコウ……。ここは? 記憶が曖昧だ。今何が起きている?」
チョウホウの視線が、ネーナを捕らえる。
「うわ~~~!!」
チョウホウが錯乱し始めた。インコウがなだめるが、落ち着かない。よほどのことをされたようだ。
僕は汗が止まりません。想像したくない。
──トン
ネーナがチョップで、チョウホウの意識を刈り取った。
周りにいる全員の血の気が引いたことが分かる……。
「ふう。さて、まず何でこんなことをしたのかしら? 答えて頂戴」
ネーナが、インコウに問いかけた。
重い沈黙。
インコウさん、速く答えてください。惨劇は見たくないんです。
「そこの青年……、ビットと言ったな。その者が我らの領土を荒したのだ。我々は撃退出来なかったので、故郷を襲うと脅して帰って貰った」
全員の視線が僕に集まる。
間違ったことは言っていないけど、ちょっと語弊がありませんかね?
「『領土を荒した』は語弊がありますね。先に矢を射かけて来たのは竜人達です」
「警告射撃を行ったら、関所を大規模に破壊されたと聞いている」
「その後、関所は修復しましたよね? カンエイという人に聞いてみてください」
「修復? 聞いていないな。私からも聞きたいのだが、なぜ人類領から出ようなどと考えたのだ?」
視線が痛いです。特にネーナの……。
「僕たちの国は、五百年の歴史しかありません。何処からか祖先が来て建国を行った……。それ以前の歴史はありません。
僕はずっと世界の形を知りたいと思っていました。体を鍛えて魔物を撃退出来るようになったので、大地が何処まで広がっているかを確認したかったのです」
「ふむ。好奇心からか……。責めることは出来ないが、原因は君にあることは理解出来た。カンエイももう少し詳しく連絡をくれれば、君との戦闘は避けられたのだがな」
う……。結局は僕のせい?
それと、魔物の氾濫を納めて帰ってと何度も言ったよね?
「まあ、良いですわ。事の次第は分かりました。それで、あなた達は何者ですの? 竜人とは何ですの?」
ネーナの質問に、インコウが息を飲む。
瞼を閉じて考え出した。
「これから話すことは他言無用でお願いしたい。いらぬ混乱を招く可能性がある話になるのでな」
話を聞くと、ネーナは、リセイ関長とイルゼ、そして僕のみを残して衛兵達を下がらせた。
衛兵達は、渋々従っている。
周りを確認して、僕達以外誰もいないことを確認した。
まあ、ネーナが平らにした場所なので、見渡しは良いので確認する必要もないか。
「さあ、これで良いでしょう? 教えてくださいな」
「うむ。まず質問なのだが、そなた達の国の人口は、今どのくらいとなっている?」
ネーナの表情が強張る。
質問しているのはこちらなのに、質問で返すのはダメだろう。
「……十万人を超えたくらいかしら」
「……百億人。いや、百億人以上だった。この世界が育んだ最大の人口だ。これが、その青年の疑問の答えとなる。そして、我々だが、衰退した世界で生きるために禁忌を犯した種族になる」
絶句してしまった。
僕たちの国の十万倍? この世界は、そこまで広いのか?
リセイ関長とイルゼは、僕同様に混乱しているようだ。
でも、ネーナは静かに何かを考えているようであった。
「興味深い話ですのね。それで、衰退した世界とは何ですの?」




