第35話 後始末2
僕は、リセイ関長に連れられて、捕獲された竜人の元に向かうことにした。
歩きながらリセイ関長と会話を始める。
「僕が気を失ってからの経緯を教えてくれませんか?」
「うむ。今回の襲撃の黒幕は二人いたのだ。もう一人は、ビットを監視していたらしい。
ビットが気を失ったら姿を現して、ネーナ様との戦闘になった」
「ネーナと戦闘? リセイ関長とではなく?」
「ネーナ様が突撃されてしまってな……。危うくなったら横やりを入れるつもりでいたのだが、レベルが違いすぎて戦闘には参加出来なかったよ」
言われてみればそうか。【闘気】を扱えるか否かで生物として大きく違って来る。
でも、去年の武術大会で、リセイ関長は、たしか三位だったと思う。ネーナが十位だったかな?
ネーナの突然の参加で、大会は大いに盛り上がったのを覚えている。
だけど、ネーナが人知れず研鑽を積んでいたとしても、竜人に敵うのだろうか?
「先ほどネーナの無事は確認しましたので、黒幕を捕らえたと考えて良いのですよね?」
「うむ。身柄は拘束している……」
なんか歯切れの悪い言い方だな?
「魔物の氾濫は、どうなりましたか?」
「ダンジョンから魔物は出て来なくなった。これは、現地に兵を派遣して確認している。そして、内地に向かった魔物も撤退を始めた」
インコウの言っていたことは本当だったのか。襲撃は二人で行っていたと……。
情報交換しながら歩いていると、爆心地のように全てが吹き飛んだ場所に着いた。ここは。住宅街だったのだけどね……。
ネーナが狂戦士化して暴れた跡はこうなる……。
「はあ~」
ため息が出てしまった。そして、頭を抱える。頭痛がする。
ネーナをどうやってなだめるか考えておかないとな。いや、一暴れしたから、機嫌は良いかもしれない。
日頃の鬱憤を晴らせたのだ。竜人には気の毒だが。
爆心地の中心には、数人の衛兵とネーナ、イルゼが監視を行っていた。
兵士達は、憎悪の表情で竜人を見ている。まあ、街を破壊されて、大勢の命を奪われたのだ。
僕も今すぐにでも報復に出たい。愚かな行為だとは分かっていてもこの衝動は止められないだろう。
だけど、情報を引き出してからだな。
僕が近づくと衛兵達が、道を空けてくれた。
「うわ~」
僕が対戦したインコウは、そのままだった。体中の骨が折れていて動けない状態だ。インコウはまだ良い。
だけど、ネーナと対戦した竜人は、酷いことになっていた。
『モザイク処理の状態』としか表現出来ないほど、原型を留めていない。息をしているのは確認出来るので生きはいそうだが、今すぐにでも息を引き取りそうだ。
僕を見つけた、インコウが話しかけて来た。
「青年! いや、ビットと言ったな。頼む、チョウホウを助けてくれ。チョウホウは、竜人族にとっても貴重な能力の持ち主なのだ。頼む!」
皆が僕を見る。視線が集中している。
注目されてもな。
まあ、良いか。助ければ、口も軽くなるだろう。
ネーナを見る。まだ怒っているようだ。視線をこちらに向けてくれない。
「ネーナ。お願いだから、僕の装備を返して。今は篭手が必要なの」
「……」
ネーナは、カバンから篭手を取り出して僕の前に差し出した。ちなみにネーナのカバンは、アイテムボックスであり、かなりの容量を収納出来る国宝級のアイテムである。
「ありがとう」
ネーナの顔は見れないが、少し雰囲気が柔らかくなった気がする。
僕は篭手を装備して、【闘気】を開放する。そのまま、篭手に【闘気】を吸収させて魔力へと変換する。
「ビットそれは何なのだ?」
「僕は、魔力量が極端に少ないそうです。これは、補助アイテムと考えてください」
「そんな物をどこで……」
「時間が出来たらお話しします」
【闘気】が魔力に変換されて、イルゼクラスの魔力量を確保した。
チョウホウと呼ばれた人に魔力を送る。
回復魔法:細胞再構築
顔の形とか変わってしまうかもしれないが、生きている細胞を整列させて行く。細胞が足りない個所は、魔力を物質化して埋める。そのうち置き換わるであろう。
まず、内臓と頭を修復してから、手足を正常な位置に戻した。
出血も酷いので、魔力で血液の代わりを作成して注入だ。
ヒルデさん曰く、回復魔法は必須とのことで、瀕死の状態からでも蘇生出来るまで練習を重ねた。
ちなみに練習で使用した生物は、ヒルデさんが何処かから連れて来た見たこともない生物だった。
「これで一命は取り留めました」
時間にして三十分くらいだろうか? 自画自賛だが、回復魔法は結構な熟練度だと思う。ヒルデさんと比べなければだが。
「礼を言う。そして、すまなかった……」
インコウが頭を下げて来た。
周りの衛兵や、リセイ関長は、困惑気味だ。
「それでは、色々と聞きたいのだわ」
ネーナが、インコウに話しかけた。
回復させたのは僕だけど、この場の主導権はネーナが持っている。
まあ、交渉事は任せよう。




